3-15 次男3度の命拾い(その2)

文字数 853文字

これは運命のいたずらか、次男は生まれた時から苦労が続いている気がする。

2度目の命拾いは、コップの一件の翌年位のことだったか?
私が会社勤めから独立してから間もない頃、である。

納品のためにポンコツに近いダイハツ・ミゼットという軽三輪自動車を買って、仕事に使っていた。


その日は8月の暑い日だった。
亀戸に用事があり、自動車に乗るのが好きだった次男を助手席に乗せて出掛けたのだ。

用事が終わった亀戸からの帰りの道で、小名木川沿いの土手下を丸八橋に向けて走っていた。

当時は車にクーラーなどはなく、運転席と助手席の足元には車内に風を入れるための小さな戸があり、足でそれを押すと風が入るようになっていた。

私は運転をしながら、
「暑くなってきたから、その戸を開けて。」と言った。

次男に足元の戸を開けて風を入れるように、と指示したつもりだった。

ところが3歳の次男は、私の声を聞くと、躊躇なく出入をするための大きい方のドアを開けてしまった。

この頃のミゼットのドアは前から後ろに開くようになっており、今の車のように後ろから開く構造とは逆だった。

次男は何とドアのグリップを掴んだまま、車の外に飛び出してしまった。

高速で走る車。勢いよく開いた扉。

さっきまで助手席に乗っていたはずの子供が突然いなくなった。

「あーーっ!」と叫びながら、慌ててブレーキを踏んだが何しろポンコツ車なので、すぐにはブレーキが利かないのだ。

車が止まる迄は10秒程度か、この間は永遠にも感じる長い時間だった。


しかし次男はしっかりとグリップを掴んでいてくれた。

勢いよく開いたドアから手を放さずにいてくれたのだった。


私は車を止めてそれを確認すると、ひざががくがくしてその場にへたり込んだ。

もし、手を離していたら自分の車の後輪か後続の車が彼を轢いてしまっていただろう。

またはガードレールに体を打ち付けていたかもしれない。

今でも思い出すと本当に怖い状況だった。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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