3-16 次男3度の命拾い(その3)

文字数 980文字

これは運命のいたずらか、次男は生まれた時から苦労が続いている気がする。

さて3度目の命拾いは、次男が4歳頃の事だった。

あのミゼットから新車に買い替えをしていたので、妻の具合が良い日には家族4人で釣りに出掛ける日が度々あった。釣りから帰ると私がさばいて妻が揚げて、その夜はハゼの天ぷらを家族で楽しんだ。

この頃の浦安の辺りは原っぱが多く、今のTDLからもほど近い今川橋の近くの境川はハゼ釣りのメッカだった。

付近には建物は何もなく、川の両側の堤防に座ってのんびりと糸を垂れての釣りができた。堤防の脇の原っぱは今と違ってどこでも車は止められた。

その日の午後3時ごろ、長男は8歳になっており一人で釣りをしていた。4歳の次男はまだ一人では釣りができないのだ。

その長男に頼まれて、次男が私のところまで餌を取りに来た。

来る時は堤防ではなく地面を通って来たが、餌を持っての帰り道は、幅のあまり広くない堤防の上を行こうとしていた。

私は何気なくその姿を見ていたのだが、次男は手にした餌を気にしながら、兄のもとへ堤防の上をひょこひょこ小走りに行った。

それはその時に起こったのだった。次男が、

「アッ。」と声を出した瞬間、足を踏み外して川に落ちていった。

これには私も慌てた。そしてそのまま次男は川の中に沈んでいくのだった。

まだ沈み切らない内に、私は現場に着いた。土手からあお向けの状態の彼めがけて飛び込んだ。

幸い干潮時だったために、私の身体は沈むほどの深さがなく、胸から上が出せたのだ。うっすら見える次男を潜って両手ですくい上げると、子供の体を頭の上に支えて、上から別の釣り人たちに引き上げてもらった。

しかも、まだ水は飲んでいなかった。

これがもし、背が立たなくなる満潮の時間だったら、二人共どうなったかわからない。そう考えてしまうと、帰りの車の中でぞっとしたのだった。

後で次男に聞いてみると、
「目の前が急にみどり色になって、あぶくがたくさん下から上に向かっていった。」そうである。

まだ4歳なのに、水も飲まず、しかも水の中で目を開けて自分が沈んでいくのを見ていたのだった。

これで2歳、3歳、4歳と3年続けて命拾いしたのだった。

この子は不運にめげない何かを持って生まれてきたのかも知れない。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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