3-12 妻の戦い(その1)

文字数 627文字

10月の出産の退院後、実家で休養していた時に、クモ膜下出血で倒れた妻は、忘れもしない12月26日に、赤ん坊を連れて東京に帰って来てくれたのであった。

それまで実に2ケ月にも渡る人院生活だった。

妻が帰ってきた日の夜に、私は仙台堀川の土手まで走ってゆき、夜空を見上げた。

声には出さずに心の中で、
「これまでの全てのことに感謝します。」 
とつぶやいた時に、

涙が頬を伝ってゆき、しばらく止まらなかった。

この病気の後遺症との戦いはこれから数10年続くのだが、妻の病気を治すことが家族の、特に私にとっては大切な人生に目標になっていくのであった。

自分が病んでいる時よりもそばでその苦しみに、ひとり耐えて頑張っている妻の姿を見ている事の方が辛かった。

それは3日も4日も飲まず・食わずで床に伏し、ひどい頭痛に襲われ時折吐くのだ。それが毎月繰り返されるのである。

そばにいても、そっとしておくより他に何もしてやれない恐ろしい病気の後遺症なのである。

使命があって長らえた命と思えば当人も頑張れるのか、我が家はこの病を克服しようとすることにみんなが協力して、それが支えになり今があると思える面が多くある。

とにかくあの時に、医師にも一時は見離された人間が、それなりの幸せで今も生き続けている事は事実である。

その事に感謝しつつ、パン屋をやりながらご近所の人に可愛がられて毎日を過ごすことができているのも、また、事実なのである。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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