1-5 ズボン

文字数 448文字

それは、ちょうど足の怪我と同じくらいの年だったと思います。

通学用のズボンのあっちこっちが継ぎ剥ぎになっていたのが、とうとうはけなくなってしまいました。そうしたら祖母がどこで工面してきたのか、新しいズボンを買って来てくれました。

はかせてくれた新しいズボンで私は喜んで遊びに出掛けました。その日は近所の仲間と一緒に小松川橋のそばの土手に行きました。土手は坂がコンクリートになっていて、ちょうどスベリ台の様です。そこでみんなで坂をすべり始めました。うまくできると下まで一気に滑ることができます。その時はすでに自分が新しいズボンである事は忘れていたのでした。

家に帰って服のホコリをはたいている時に、祖母の悲鳴に似た声にビックリしました。何とズボンの尻に大きな穴が開いていたのです。

その夜は祖父に尻が赤くなるまで叩かれました。私も泣いてゴメンナサイを言い続けましたが、祖父母も一緒に泣いていました。

あとで知ったのですが、そのズボンは祖母のなけなしの着物の生まれ変わりだったのです。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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