2-17 青春(その1)

文字数 586文字

S鉄工所が亀戸1丁目に移転してからは、小松川にいた絹ちゃんとも会えなくなり、その頃は電話もなかったので連絡ができなかった。たまにハガキのやリ取りをする位になっていった。

そんな頃、社長の甥のプレス会社が従業員共々隣に越して来た。
その時、私も23才になっていた。

このプレス会社は進駐軍宿舎で出る空き缶を集めて来て、洗浄し開いて板にし、それを抜いて小型の缶に再生する仕事をしていた。私もそちらの仕事も手伝っていたのだった。

プレス会社には若い女子工員も数人おり、わが工場の若い人とは私も含めてすぐに仲良くなった。「天地の磯」の磯崎さん、「岩小のター坊」こと田口さんとは仲良くなるのが早かった。

この女子工員の中の一人「花ちゃん」とのアベックは私である。
幼なじみの清ちゃん・絹ちゃん・そしてこの花ちゃんは、小松川・亀戸時代の友である。

でも私の初恋は、高等小学校時代の小松川の黒塀の中の子と、小僧として働き出した頃にT工業所の掘りの向こうにあるH木工所の事務員さんであった。
事務員さんの名前は知らないが、新小岩駅前のお菓子屋の娘とのことであった。

このように敗戦後の若者はこぞって、彼女と言える娘作りに血道をあげたり、赤線地帯通いをしていたものである。

まだ戦地からの復員が進んでいない頃の事であるので、まだ私もどうにか、もてた時代であった。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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