1-8 駄菓子屋

文字数 792文字

釣り道楽の祖父による近所への魚のおすそわけと、祖母のにじみでる人の良さ。
祖母が駄東子屋を始めて数年経ち、近所でも親切が評判な店となった。

子供が大きいお金を持ってくると、その家に聞きに行くなどの好意が噂になり、親が数件ほかの店を飛ばしても家の駄菓子屋に子供を連れて買い物に来てくれた。

駄菓子屋であるがもんじゃ焼きをやっており、夜になると近所のカフェー(すずらん)の女給さん達や、建具屋の若い衆、かじ屋の職人さん達のたまり場になっていた。 

その頃の私は学校から帰ると、問屋に仕入に行く仕事をする、これが日課になっていた。祖母の書いてくれたメモを片手に、菓子問屋・せんべ屋・クズ餅、トコロ天・油・ウドン粉など。当時は問屋は別々でそれらを回って仕入れをするのである。おかげ?で宿題をしたり友達と遊ぶ時間はあまりなかった。

当時12、3才だった私には、ちょっと恥ずかしさもあった。仕入に行く時はほとんど一斗缶を風呂敷で包んで両手にぶらさげて持って行くのである。行き帰りに友だちに会うと、慌てて横丁に隠れたりする事もしばしばだった。

そして、せんべい工場のおばさんがクズせんべいをくれたり、行き帰りの道にあった算盤塾に通う女の子に会えるのも楽しみであった。

ある日いつものおばさんが休みでクズせんべいが貰えず、その時は缶の中の1枚を何気なく抜いて食べながら帰った。

しかし祖母はその日に限って数を調べた。
「一枚足りないから調べてもらってきな」と祖母が言う。

真剣な祖母を前にして、自分で食ったと言えなくなって仕方なく工場へ戻った。
「一枚足りない」って言うと、
「ソーオ、ゴメンネ―」
と言ったお姉さんが調べもせずに
「お駄賃だよ」
と3枚のせんべいを渡してくれた。
それからの仕入は、あのお姉さんといつものおばさんに会うのが楽しくて仕入れが苦にならなくなった。
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登場人物紹介

時は昭和の始め。

貧乏ではあるが東京の下町で活き活きと生きている少年がいた。

名前はのぼると言う。

のぼるが駆け抜けた昭和という時代とはどんなものだったのだろうか。 

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