第10話 ライトニングマジシャンの弱点
文字数 1,968文字
実際に刺されたわけではない。これはゲーム内の出来事。
だが……。
腹から広がる熱と痛みは擬似的なものであっても辛いものがある。
それでも、とっさに用いた魔法カードのおかげで受けたダメージを半分にすることができた。
「ふうん、『ハーフダメージ』を使ったんだ」
誰かの声が聞こえた。
え?
ユウミはびっくりして起きる。痛みはあるが我慢すれば動けないほどではない。
残り生命力は3000。
「ハーフダメージ」の効果がなければダメージが素通しになっていたところだ。
ユウミはあたりを見回した。
このフィールドにいるのは自分と倉石の二人だけ。外には有田と人質の女の子がいる。
他に人はいない。
人はいないのだが……。
ユウミはフィールドの内側にあるブランコの天辺に一羽の鳥を見つけた。灰色の羽毛の猛禽類だ。大きさは体長五十センチくらい。二つの爪でしっかりと足場をつかんでいる。
フクロウだ。
アルカナシステムによってフィールド内に外から生き物が入れないようになっている。対戦中の事故防止のためだ。唯一、エンカウンターのみが例外として入ることができた。
その代わり、乱入とみなされ生命力に大ダメージを食らう羽目になるが。
あのフクロウは何?
考えていると倉石が言った。
「どこを見ている」
その表情には苛立ちの色がうかがえた。
左手には四枚のカード。暮れかけた陽の光に染められて薄赤く彩られている。
ユウミは無視した。
つまらなそうに倉石が鼻を鳴らす。
「ふん……まあいい。俺はこれでターンエンドだ」
ターンがユウミに回った。
戦いに集中しないと……。
雑念を払うように頭を振り、ユウミは右手を上げた。
「あたしのターン!」
手にしたカードを見るなり勝機を確信する。
左手には四枚のカード。
カテゴリー3で光属性のモンスターが三体。
「ソードマジシャン」(攻撃力2000)
「ホーリーマジシャン」(攻撃力1500)
「スピアマジシャン」(攻撃力1800)
そして、魔法カードが一枚。
このターンで手に入れたのも魔法カードだ。
ユウミは声を張った。
「あたしは魔法カード『ミックス』を発動! 手札にある三体のモンスターを素材にミックス召喚!」
三枚のカードを右手で投じた。
ぐにゃり。
カードを巻き込んで、空間が回転するように歪んでいく。
やがて誕生する一つの存在。
ユウミは口上を述べた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
赤地に黄色い稲妻の模様のあるローブを着た魔法使いがユウミの前に出現した。長い金髪を三つ編みにした女性だ。先端をバチバチと小さく放電させた杖を握っている。
ライトニングマジシャンの攻撃力は2500。
すかさずスキルを発動させた。
「ライトニングマジシャンのスキル! このモンスターの召喚素材を全てゲームから取り除き、その攻撃力の合計分をこのモンスターに加える!」
ライトニングマジシャンの身体が青白く輝いた。
横にある攻撃力の数値も白から赤に変わる。
7800。
ユウミは右手の指をパチンと鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで突撃のスレンダーを攻撃!」
魔法使いが杖を構える。
先端に光球が宿った。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が巨大化していく。
スパークする光に明滅するユウミの視界。
ユウミはちらとブランコのほうに目をやった。
まだフクロウがいる。
こちらを見ている。
……あれは何?
なぜ、あたしを見ているの?
一度振り払ったはずの疑問がどんどん膨らんでいった。
光球が最大まで達する。
ユウミは叫んだ。
「ライトニングマジック!」
杖から光球が放たれた。バチバチいいながらまっすぐに突撃のスレンダーへと飛んでいく。
これで終わりだ!
ユウミが口許をほころばせた刹那。
倉石がカードを投げた。
「魔法カード『炎の壁』を発動! この戦闘を無効にする!」
「え?」
自分でも間の抜けた声を発してしまう。
光球は突如として発生した炎の壁に阻まれ、音もなく消滅した。倉石はもちろん突撃のスレンダーに傷一つない。完璧なまでにライトニングマジックは防がれてしまった。
嘘。
嘘。……だよね?
瞬きし、倉石たちを見直すが結果は変わらなかった。
ライトニングマジシャンの攻撃は届いていない。
相手は無傷。
こちらの攻撃はこれで終了。
魔法カードが一枚手元にあるが今は使えない。
倉石が邪悪な笑みを浮かべる。
その意味するものは……。
負ける?
あたし、負けるの?
だが……。
腹から広がる熱と痛みは擬似的なものであっても辛いものがある。
それでも、とっさに用いた魔法カードのおかげで受けたダメージを半分にすることができた。
「ふうん、『ハーフダメージ』を使ったんだ」
誰かの声が聞こえた。
え?
ユウミはびっくりして起きる。痛みはあるが我慢すれば動けないほどではない。
残り生命力は3000。
「ハーフダメージ」の効果がなければダメージが素通しになっていたところだ。
ユウミはあたりを見回した。
このフィールドにいるのは自分と倉石の二人だけ。外には有田と人質の女の子がいる。
他に人はいない。
人はいないのだが……。
ユウミはフィールドの内側にあるブランコの天辺に一羽の鳥を見つけた。灰色の羽毛の猛禽類だ。大きさは体長五十センチくらい。二つの爪でしっかりと足場をつかんでいる。
フクロウだ。
アルカナシステムによってフィールド内に外から生き物が入れないようになっている。対戦中の事故防止のためだ。唯一、エンカウンターのみが例外として入ることができた。
その代わり、乱入とみなされ生命力に大ダメージを食らう羽目になるが。
あのフクロウは何?
考えていると倉石が言った。
「どこを見ている」
その表情には苛立ちの色がうかがえた。
左手には四枚のカード。暮れかけた陽の光に染められて薄赤く彩られている。
ユウミは無視した。
つまらなそうに倉石が鼻を鳴らす。
「ふん……まあいい。俺はこれでターンエンドだ」
ターンがユウミに回った。
戦いに集中しないと……。
雑念を払うように頭を振り、ユウミは右手を上げた。
「あたしのターン!」
手にしたカードを見るなり勝機を確信する。
左手には四枚のカード。
カテゴリー3で光属性のモンスターが三体。
「ソードマジシャン」(攻撃力2000)
「ホーリーマジシャン」(攻撃力1500)
「スピアマジシャン」(攻撃力1800)
そして、魔法カードが一枚。
このターンで手に入れたのも魔法カードだ。
ユウミは声を張った。
「あたしは魔法カード『ミックス』を発動! 手札にある三体のモンスターを素材にミックス召喚!」
三枚のカードを右手で投じた。
ぐにゃり。
カードを巻き込んで、空間が回転するように歪んでいく。
やがて誕生する一つの存在。
ユウミは口上を述べた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
赤地に黄色い稲妻の模様のあるローブを着た魔法使いがユウミの前に出現した。長い金髪を三つ編みにした女性だ。先端をバチバチと小さく放電させた杖を握っている。
ライトニングマジシャンの攻撃力は2500。
すかさずスキルを発動させた。
「ライトニングマジシャンのスキル! このモンスターの召喚素材を全てゲームから取り除き、その攻撃力の合計分をこのモンスターに加える!」
ライトニングマジシャンの身体が青白く輝いた。
横にある攻撃力の数値も白から赤に変わる。
7800。
ユウミは右手の指をパチンと鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで突撃のスレンダーを攻撃!」
魔法使いが杖を構える。
先端に光球が宿った。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が巨大化していく。
スパークする光に明滅するユウミの視界。
ユウミはちらとブランコのほうに目をやった。
まだフクロウがいる。
こちらを見ている。
……あれは何?
なぜ、あたしを見ているの?
一度振り払ったはずの疑問がどんどん膨らんでいった。
光球が最大まで達する。
ユウミは叫んだ。
「ライトニングマジック!」
杖から光球が放たれた。バチバチいいながらまっすぐに突撃のスレンダーへと飛んでいく。
これで終わりだ!
ユウミが口許をほころばせた刹那。
倉石がカードを投げた。
「魔法カード『炎の壁』を発動! この戦闘を無効にする!」
「え?」
自分でも間の抜けた声を発してしまう。
光球は突如として発生した炎の壁に阻まれ、音もなく消滅した。倉石はもちろん突撃のスレンダーに傷一つない。完璧なまでにライトニングマジックは防がれてしまった。
嘘。
嘘。……だよね?
瞬きし、倉石たちを見直すが結果は変わらなかった。
ライトニングマジシャンの攻撃は届いていない。
相手は無傷。
こちらの攻撃はこれで終了。
魔法カードが一枚手元にあるが今は使えない。
倉石が邪悪な笑みを浮かべる。
その意味するものは……。
負ける?
あたし、負けるの?