第43話 白昼の夢を美しく舞う蝶、女帝(エンプレス)のマライア
文字数 2,672文字
ユキの生命力は残り1400。
そして壁となるモンスターはデイドリームバタフライ・陽炎のシルバ(魔法によって攻撃力が3200に強化されている。)のみ。
ユウミは改めて思った。
勝てる。
まずはスキルの発動だ。
「ライトニングマジシャンのスキル! このカードの召喚素材を全てゲームから除外し、その攻撃力の数値の合計分このモンスターの攻撃力をアップさせる!」
女魔法使いが青白い光に包まれる。
横にある白い数字が赤くなった。
5300。
ピクン、とユキの眉が動いた。
ユウミはパチンと指を鳴らす。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで陽炎のシルバを攻撃!」
ライトニングマジシャンが杖を構えた。
先端に光球が宿る。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
肥大化する光球。
直系五センチほどのサイズだったものが一メートルほどにまで大きくなった。
魔法効果のせいでシルバの破壊は不可能。
だが、そんなものはもはや関係ない。
ユウミは叫んだ。
「ライトニングマジック!」
光球が発射された。
一直線に光球はシルバへと飛んでいき、一ミリも容赦なく着弾した。
バチバチと音を立てながらシルバの姿が光の中に消えていく。ゆらゆらと光が波を打った。
スパークが収束する。
おかしい。
ユウミは違和感を覚え、失われていく光をじっと見つめた。
おかしい。
シルバは撃破できないはずだ。
それなのにライトニングマジックを食らって消滅している。
それにユキのダメージは……?
ユキの笑みが広がった。
「陽炎のシルバのスキル」
瞬間。
いなくなったはずのシルバが空間を飛び越えたかのように現れる。赤いドレスに汚れは微塵もなかった。見たところ身体に傷はどこにもないようだ。
戦闘の痕跡が全くなかった。
ユキが言った。
「陽炎のシルバは一ターンに一度私の生命力が0になる攻撃を無効にするの。惜しかったわね、これが決まればあなたの勝ちだったのに」
くすくすと笑いがスピーカーからもれる。
サキだ。
「お姉ちゃん、アゲインマジシャンのスキルの使いどころを間違えたね」
そうかもしれない。
ユウミは唇を噛みしめる。
とはいえ、ダメージの計算は合っていたのだ。シルバのスキルがなければこの一撃で勝負はついていた。
残された手札に目を落とす。
このカードはライトニングマジシャンでもう一度攻撃できるようにする類のカードではなかった。
せめて「セカンドアタック」でもあればとどめを刺せたのに。
ユウミが黙っているとサキが急かした。
「お姉ちゃん、やることがなくなったんならターンエンドすれば?」
今、このカードを切るのはやめよう。
迷いながらもユウミは決断し、苛立ちつつも宣言した。
「あたしは、これでターンエンド」
ターンが終了したことでスキルの効力を失ったライトニングマジシャンの攻撃力が2500に戻る。
バサッ。
「ユウミ!」
クゥだ。
出てくるのがこのタイミングかとユウミの苛つきが増すが、同時に心のどこかで安心感が生まれた。
大丈夫。
まだ勝機はある……はず。
と、そこでユキの視線が上を向いていることに気づいた。
視線の先にいるのはフクロウ。
疑念が浮かんだ。
まさか。
あれは何? とでも言いたげに口を半開きにしていたユキがはっとする。
右手を突き上げた。
「私のターン」
カードをドローしてからもユキの意識はクゥに向いているようであった。
スピーカーの声。
「ママ、どうしたの? 上に何かいるの?」
やはりサキには見えないらしい。
だとすれば、なおのことユキが見えていることが疑いを深める。
……この人。
嫌な予感しかしない。
暦姉妹戦のことが頭をよぎる。
無意識のうちに唾を飲んでいた。
戸惑いながらもユキがカードを投げる。
「魔法カード『ダンスダンスダンス』を発動。デッキの一番上からモンスターカードを三枚リンボに送り、フィールド上のデイドリームバタフライと名のつくモンスター一体のカテゴリーと同じ数値のモンスターを手札から二体まで特殊召喚する」
左手の二枚を抜いた。
「私は二体のデイドリームバタフライモンスターを特殊召喚」
出現したのはそれぞれ青と黄色のドレスで着飾った女たち。
青いドレスの女は黒髪を頭の後ろで結い、サファイアブルーの髪留めをしている。シルバと同様にアイマスクで素顔を隠していた。
「デイドリームバタフライ・幻影のミラ」
闇属性で攻撃力は1400。
黄色いドレスの女はショートの黒髪。両耳にレモンイエローの大きな宝玉のピアスをしている。こちらも蝶々のアイマスクを装着していた。
「デイドリームバタフライ・不知火のプロム」
闇属性で攻撃力は1800。
来る。
直感的にユウミは思った。
ユキが頭の上で両手をクロスさせる。
「ユウミ、ダメだ!」
いきなりクゥに喚かれた。
「この敵は君には勝てない!」
サキの声がした。
「やっちゃえ! ライトニングマジシャンなんか潰しちゃえ!」
娘の声援に応えるようにユキが笑む。
「私はここでサモニング」
女たちがドレスの裾を掴みながら一斉に地を蹴った。
三本の光の線と化して中空を踊る。
「三体のデイドリームバタフライで魔方陣を形成、エクストラ召喚」
完成した巨大な魔方陣が妖しく光る。
ユキが口上を唱えた。
「白昼の夢を美しく舞う蝶よ、今まどろみとともに、その艶やかな姿をここに表せ」
それは金色のドレスに身を包んだ碧眼の貴婦人。
ブロンドの髪の上には沢山の宝石をちりばめたティアラが載っている。黒い蝶のアイマスクをつけていたが、その下にある美貌を想像するのは難しくなかった。
ドレス姿であろうと関係なく豊満な身体だとはっきりとわかる。
手には丸みのある長い金のロッド。絵の部分にいくつもの宝石が埋め込まれてきらきらと輝いていた。
紅い唇を緩め貴婦人は妖艶に微笑ながら地に降り立つ。
闇属性で攻撃力は2500。
ユキが名を呼ぶ。
「グレード9、デイドリームバタフライ・女帝(エンプレス)のマライア!」
**「デイドリームバタフライ・女帝(エンプレス)のマライア」の召喚条件。
自分フィールド上に闇属性モンスターが三体以上存在し、そのカテゴリーの数値の合計が9であること。
そして壁となるモンスターはデイドリームバタフライ・陽炎のシルバ(魔法によって攻撃力が3200に強化されている。)のみ。
ユウミは改めて思った。
勝てる。
まずはスキルの発動だ。
「ライトニングマジシャンのスキル! このカードの召喚素材を全てゲームから除外し、その攻撃力の数値の合計分このモンスターの攻撃力をアップさせる!」
女魔法使いが青白い光に包まれる。
横にある白い数字が赤くなった。
5300。
ピクン、とユキの眉が動いた。
ユウミはパチンと指を鳴らす。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで陽炎のシルバを攻撃!」
ライトニングマジシャンが杖を構えた。
先端に光球が宿る。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
肥大化する光球。
直系五センチほどのサイズだったものが一メートルほどにまで大きくなった。
魔法効果のせいでシルバの破壊は不可能。
だが、そんなものはもはや関係ない。
ユウミは叫んだ。
「ライトニングマジック!」
光球が発射された。
一直線に光球はシルバへと飛んでいき、一ミリも容赦なく着弾した。
バチバチと音を立てながらシルバの姿が光の中に消えていく。ゆらゆらと光が波を打った。
スパークが収束する。
おかしい。
ユウミは違和感を覚え、失われていく光をじっと見つめた。
おかしい。
シルバは撃破できないはずだ。
それなのにライトニングマジックを食らって消滅している。
それにユキのダメージは……?
ユキの笑みが広がった。
「陽炎のシルバのスキル」
瞬間。
いなくなったはずのシルバが空間を飛び越えたかのように現れる。赤いドレスに汚れは微塵もなかった。見たところ身体に傷はどこにもないようだ。
戦闘の痕跡が全くなかった。
ユキが言った。
「陽炎のシルバは一ターンに一度私の生命力が0になる攻撃を無効にするの。惜しかったわね、これが決まればあなたの勝ちだったのに」
くすくすと笑いがスピーカーからもれる。
サキだ。
「お姉ちゃん、アゲインマジシャンのスキルの使いどころを間違えたね」
そうかもしれない。
ユウミは唇を噛みしめる。
とはいえ、ダメージの計算は合っていたのだ。シルバのスキルがなければこの一撃で勝負はついていた。
残された手札に目を落とす。
このカードはライトニングマジシャンでもう一度攻撃できるようにする類のカードではなかった。
せめて「セカンドアタック」でもあればとどめを刺せたのに。
ユウミが黙っているとサキが急かした。
「お姉ちゃん、やることがなくなったんならターンエンドすれば?」
今、このカードを切るのはやめよう。
迷いながらもユウミは決断し、苛立ちつつも宣言した。
「あたしは、これでターンエンド」
ターンが終了したことでスキルの効力を失ったライトニングマジシャンの攻撃力が2500に戻る。
バサッ。
「ユウミ!」
クゥだ。
出てくるのがこのタイミングかとユウミの苛つきが増すが、同時に心のどこかで安心感が生まれた。
大丈夫。
まだ勝機はある……はず。
と、そこでユキの視線が上を向いていることに気づいた。
視線の先にいるのはフクロウ。
疑念が浮かんだ。
まさか。
あれは何? とでも言いたげに口を半開きにしていたユキがはっとする。
右手を突き上げた。
「私のターン」
カードをドローしてからもユキの意識はクゥに向いているようであった。
スピーカーの声。
「ママ、どうしたの? 上に何かいるの?」
やはりサキには見えないらしい。
だとすれば、なおのことユキが見えていることが疑いを深める。
……この人。
嫌な予感しかしない。
暦姉妹戦のことが頭をよぎる。
無意識のうちに唾を飲んでいた。
戸惑いながらもユキがカードを投げる。
「魔法カード『ダンスダンスダンス』を発動。デッキの一番上からモンスターカードを三枚リンボに送り、フィールド上のデイドリームバタフライと名のつくモンスター一体のカテゴリーと同じ数値のモンスターを手札から二体まで特殊召喚する」
左手の二枚を抜いた。
「私は二体のデイドリームバタフライモンスターを特殊召喚」
出現したのはそれぞれ青と黄色のドレスで着飾った女たち。
青いドレスの女は黒髪を頭の後ろで結い、サファイアブルーの髪留めをしている。シルバと同様にアイマスクで素顔を隠していた。
「デイドリームバタフライ・幻影のミラ」
闇属性で攻撃力は1400。
黄色いドレスの女はショートの黒髪。両耳にレモンイエローの大きな宝玉のピアスをしている。こちらも蝶々のアイマスクを装着していた。
「デイドリームバタフライ・不知火のプロム」
闇属性で攻撃力は1800。
来る。
直感的にユウミは思った。
ユキが頭の上で両手をクロスさせる。
「ユウミ、ダメだ!」
いきなりクゥに喚かれた。
「この敵は君には勝てない!」
サキの声がした。
「やっちゃえ! ライトニングマジシャンなんか潰しちゃえ!」
娘の声援に応えるようにユキが笑む。
「私はここでサモニング」
女たちがドレスの裾を掴みながら一斉に地を蹴った。
三本の光の線と化して中空を踊る。
「三体のデイドリームバタフライで魔方陣を形成、エクストラ召喚」
完成した巨大な魔方陣が妖しく光る。
ユキが口上を唱えた。
「白昼の夢を美しく舞う蝶よ、今まどろみとともに、その艶やかな姿をここに表せ」
それは金色のドレスに身を包んだ碧眼の貴婦人。
ブロンドの髪の上には沢山の宝石をちりばめたティアラが載っている。黒い蝶のアイマスクをつけていたが、その下にある美貌を想像するのは難しくなかった。
ドレス姿であろうと関係なく豊満な身体だとはっきりとわかる。
手には丸みのある長い金のロッド。絵の部分にいくつもの宝石が埋め込まれてきらきらと輝いていた。
紅い唇を緩め貴婦人は妖艶に微笑ながら地に降り立つ。
闇属性で攻撃力は2500。
ユキが名を呼ぶ。
「グレード9、デイドリームバタフライ・女帝(エンプレス)のマライア!」
**「デイドリームバタフライ・女帝(エンプレス)のマライア」の召喚条件。
自分フィールド上に闇属性モンスターが三体以上存在し、そのカテゴリーの数値の合計が9であること。