第35話 封じられたライトニングマジシャン

文字数 2,688文字

 今のは何だったの?
 ユウミはクゥを見上げるが答えは得られない。フクロウは少し前の慌てぶりなどなかったかのように黙って空を飛んでいた。
 あるいはまだ打ち明けられない秘密でもあるのだろうか。
 聞きたいことは他にもあった。
 だが、今はエンカウントに集中しよう。
 ユウミはそう思い、手札を確認する。
 プルーパの無力化を果たし、とりあえず自分にできることは終えていた。
 あとは次の行動順でライトニングマジシャンのスキルを使い、さらにダブルアンドハーフで攻撃力を二倍にして、決着をつけるのみ。
 アゲインマジシャンは予定通りリンボに仕込んだ。このモンスターのスキルは「自分のターンにのみ発動できる。フィールド上またはリンボのこのカードをゲームから除外して発動する。すでに発動した自分の魔法・スキルの再発動、もしくは攻撃の終えたモンスターによる攻撃を再度行う」だ。
 なかなかのスキルを有する代わりにこのモンスター自身による攻撃ができないという欠点もある。
 アゲインマジシャンのスキルがあれば二回の攻撃が可能。
 暦姉妹を倒せる……はず。
 うん、いける!
 ユウミはうなずき、宣言した。
「あたしはこれでターンエンド」
 一巡目が終了した。
 二巡目からはモンスターによる攻撃ができる。
 行動順がハヅキに移った。
 ハヅキがスズメに言う。
「さて、いよいよあんたにとどめを刺すときが来たわよ」
「返り討ちにしてやるわ」
「あんた、プルーパだけがあたしたちのエクストラモンスターだと思ってるでしょ!」
 ハヅキが右手を上げた。
「私にだってエクストラモンスターがいるのよ! 私のターン!」
 現出したカードを一瞥し、そのまま放る。
「私はカテゴリー3のグリーングリーン・タスクツリーを召喚!」
 大地を割くように一本の広葉樹が生えてきた。幹の真ん中から少し上の部分にある口には2本の牙。
 そして、やはりこのモンスターも根を足の代わりにしていた。
 地属性で攻撃力は2000。
 ハヅキが両手をクロスさせたとき、サツキが割り込んだ。
「ハヅキちゃん、『バインディング』を持ってたら使ってください!」
「えっ」
「持ってないんですか?」
「持ってるけど」
 戸惑ったように。
「でも、これ北野カナリアに使うんじゃ……」
「それはいいから、ライトニングマジシャンに対して使ってください!」
「いや、だって」
 まごつくハヅキにサツキが吠えた。
「いいから、早く!」
「う、うん」
 ハヅキが交差させた手を解き、手札を一枚抜いた。
「ま、魔法カード『バインディング』を発動! この効果により相手モンスター一体は戦闘ができなくなる」
 やばい。
 ライトニングマジシャンを封じられたら、せっかくの仕込みが台無しになるばかりか暦姉妹に勝つ手段を失ってしまう。
 ユウミは即断した。
「カウンターマジック『ディスペル』を発動! 直前に使用された魔法カードの効果を無効にする!」
 これでライトニングマジシャンを守れる。
 そう安堵した。
 ……だが。
 ハヅキが二枚目を用いた。
「もう一枚の『バインディング』を発動! 対象はライトニングマジシャン!」
 今度は対抗できなかった。
 ライトニングマジシャンの足下から刺のついた濃い緑色の蔦が伸び身体に巻きつく。
 蔦によって拘束されたライトニングマジシャンは身動きがとれなくなってしまった。
「これでそのモンスターは攻撃できないよ」
「しかもこの効果は永続」
 ハヅキの言葉にサツキが付け足し、ニヤリとする。
「いかにあの女魔術師であろうと、戦えねば我を倒すなど不可能」
「え?」
 この口調にはハヅキも驚いたようだ。
「サツキ、今何て……」
「ん?」
 サツキがきょとんとした。
「何って、私、何も言ってませんけど」
 おかしい。
 ユウミはやはり思ってしまう。
 何かがおかしい。
 これはもしかして……。
「あんた、そのモンスターに取り憑かれてない?」
 横からスズメが指摘した。
 ……スズメちゃんも同じこと考えたんだ。
 なぜか自分の予想が正解なのではないかとユウミは思い始める。スズメに賛同してもらえたような気がした。
 が。
 サツキが怪訝な顔をする。
「いきなり何ですか、変な言いがかりはやめてください」
「違うの? さっきもだけど、あんたちょっとおかしいわよ」
「ずいぶんと失礼ですね」
 サツキの目が赤く光る。
「小娘の分際で生意気な」
「あんた……プルーパなの?」
 スズメが確かめるようにたずね、答えを待たずにビシッとサツキを指差した。
「わかった、あんたもついでにぶちのめしてあげる!」
「クゥ!」
 ユウミは我慢できずに問いかける。
「これはどういうこと?」
 フクロウの返事はない。
「くぅ!」
「ユウミ、うっさいから黙りなさい」
 スズメに怒鳴られた。
「けど……」
「小難しいことはどうでもいいから、とにかくやっつけちゃえば一緒でしょ」
 ある意味すごい理屈だ、とユウミは思う。
 だが、口にしたらもっと怒られそうなので胸に仕舞うことにした。
 スズメはハヅキにも言う。
「あんたも、さっさと続きをやりなさい! エクストラ召喚するつもりだったんでしょ? 見せてみなさいよ、あんたのご自慢のエクストラモンスターを!」
 くっ、とハヅキが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「い、言われなくても見せてあげるわよ」
 両手をクロスさせた。
「私はここでサモニング!」
 トゥースツリーとタスクツリーが光の筋となって天に向かう。
「二体のグリーングリーンで魔方陣を形成、エクストラ召喚!」
 光の筋が中空で魔方陣を描いていく。エクストラ召喚のプロセスは中断されることなく進められていった。
 出来上がった魔方陣が輝き、新たなモンスターを生み出す。
 サツキが唱えた。
「大地の恵み、緑の恵み、今こそここに根を張りその恩恵を与えよ!」
 出現したのは巨大な老木。二十メートルくらいの高さだろうか。幹も太く、枝葉も立派だ。老人を思わせる顔のようなものが幹の真ん中から上のあたりに浮かんでいた。
 地属性で攻撃力は3000。
「グレード6! グリーングリーン・セフィロトツリー」

 老木が身を振るわせ、高々と名乗りを上げた。
 そう、ユウミには見えた。
 
 
**「グリーングリーン・セフィロトツリー」の召喚条件。

 フィールド上の地属性モンスターが二体以上で、カテゴリーの合計が6であること。
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み