第33話 スズメちゃんはあたしが守る! ユウミ、決死のミックス召喚!

文字数 2,490文字

 スズメのピンチにユウミは咄嗟にカードを切っていた。
「魔法カード『天使の誘導』を発動! モンスターのスキルおよび魔法効果の対象を変更する!」
「ユウミ 何やってんのよ?」
「紫のプルーパのスキルによるダメージは必ず敵側にいくんですよ、新堂さん」
 忠告ともとれるサツキの言葉であったがユウミに迷いはなかった。
「ダメージはあたしに変更!」
「ユウミ!」
 プルーパが書物を開きぶつぶつと何かを唱える。
 虚空に無数の光の剣が現出し、ユウミへと放たれた。
 音もなくユウミの身体を貫く。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 予想していたよりもずっと痛い。
 刃物で滅多刺しにされたらこんな感じだろうか。
 ともすれば遠のきそうな意識の中でユウミはぼんやりと考える。
 苦痛のせいで立っていられなかった。
 両膝をついて、前のめりに倒れる。
 あ、これきつい。
「ユウミぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 悲痛な叫び。
 スズメの声だった。
 ユウミに通ったのは3500のダメージ。
 まだ残り1500の生命力があった。
 フィードバックしていた痛覚が薄れ、ユウミはどうにか両手で身を起こす。
 金色の光に包まれたハヅキの姿が目に入った。
 これでハヅキの生命力は5500。
 生命力の数値で言えば暦姉妹のほうが有利な状況だ。
 申し訳なさそうな顔をするサツキ。
 ハヅキが苦々しげにスズメを睨めつけた。
「あんたが素直に食らわないから新堂さんがやられちゃったじゃない!」
「う、うっさい! 誰も身代わりになれだなんて頼んでないわよ」
「小松さん、あなたお友だちに守ってもらってそれですか」
 心底軽蔑するふうにサツキが言い放った。
「最低ですね、エンカウンターとしてだけでなく人間としても認めたくありません」
「あーはいはい、何とでも言ってなさい!」
 サツキが拳を握った。
「必ずあなたを潰しますからね。私はこれでターンエンドです」
 行動順がユウミに回ってきた。
 よろよろとユウミは立ち上がる。痛みは弱まってきたとはいえ、まだうまく身体が動かない。額には汗が浮かんでいる。内側に残る剣の感触が冷たさとも熱さともいえる何かを感じさせ、それが心まで鈍らせてしまいそうだった。
 スズメが早口で声をかけてくる。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「あ、うん。ごめんね、勝手なことして」
 思いっきりため息をつかれた。
「全く、あんたって子は……」
「新堂さん」
 と、サツキ。
「確かにこれはタッグバトルですが、私とハヅキちゃんは小松さんへの制裁も兼ねているのですよ。それを理解していただけると助かるのですが」
「制裁?」
 ユウミは首を振った。
「ダメだよ。。エンカウントをそんなことに使うなんて」
「私たちは新堂さんを傷つけたくはありません。たとえバーチャルであっても今のようにダメージを受ければ苦痛を味わうことになるんですよ」
 サツキの瞳が悲しげにうるんだ。
「降参してください。あなたがあんな女のために傷つく必要はありません」
「そうだよ」
 ハヅキがうなずいた。
「ここから先はハルキスト同士の問題。部外者は外れてくれる?」
 この言葉にスズメが口を挟む。
「だ・か・ら、私はハルキストじゃないってば!」
「無論、勝敗に関わらずあなたはハルキストから除名します」
 強い口調だった。
「ただ、けじめはつけてもらいますよ。戦う前に言いましたよね? 私たちに負けたらハルキくんから離れてもらいます」
「だったら……」
 ユウミはゆっくりと手を上げる。
「なおのことあたしは降参なんかできない。これはタッグバトル、あたしはまだ負けてないよ。スズメちゃんはあたしが守る。ハルキだってスズメちゃんがいなくなったら寂しがるもん!」
 言った。
「あたしの、ターン!」
 右手に宿る一枚のカード。
 残念そうにサツキが目を閉じ、小さく首を振った。
 スズメが何かを言いかけ、やめる。
 ハヅキがカードを用いた。
「魔法カード『森の祝福』を発動! フィールドに地属性の特殊モンスターが存在し、相手がドローしたときにこのカードは使用できる。この効果により私と味方プレイヤーは生命力を1000回復する!」
 金色の光に包まれる暦姉妹。
 ハヅキの生命力が6500、サツキが8000になった。
 このまま生命力の差を広げるのはまずい。
 サツキのエクストラモンスターも何とかしないと。
 ユウミはカードを見た。
 モンスターカードが三枚に魔法カードが二枚。
「サクリファイスマジシャン」(光属性・攻撃力2000)
「スピアマジシャン」(光属性・攻撃力1800)
「アーチャーマジシャン」(光属性・攻撃力1600)
「チャージ」(魔法カード)
「ミックス」(魔法カード)
 モンスターのカテゴリーは全て3である。
 つまり、ライトニングマジシャンを呼び出そうと思えばできる、ということだ。
 だが……。
 このエンカウントの一巡目はバトルできない。
 つまりスキルによってライトニングマジシャンの攻撃力をアップさせ、プルーパもしくはトゥースツリーと戦わせるという戦法は使えないのだ。
 ライトニングマジシャンなら……。
 ユウミは思う。
 ライトニングマジシャンならこの局面を打開できる。
 ただ、まだスキルを発動させても攻撃力が足らない。
 それに二巡目の自分のターンまでスズメが持ちこたえられるかどうかわからない。
 ユウミはもう一度カードを見る。
 ……よし。
 決心した。
 一呼吸おき、ユウミは両腕を広げる。
 痛みに構っていられなかった。
 友だちを守りたい。
 その一心の行動だった。
 あらん限りの声を張る。
 これは決意の表れ。
「イッツ、ショータイム!」
「ちょ、ちょっとユウミ」
 スズメの心配そうな声がかえってユウミの決心を強くした。
 左手のカードを一枚抜き、投げる。
「あたしは魔法カード『ミックス』を発動! 手札のモンスター三体を素材にミックス召喚!」
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み