第3話 ブラックサバンナのアスカ

文字数 2,167文字

 戦いが始まった。
「エンカウントモンスターズ」はプレイヤーが交互に回ってくるターン(行動順)に従う。そのターンの中でモンスターを召喚・特殊召喚して攻撃したり、あるいは魔法を行使したりする。
 先攻後攻は基本的に申告制である。つまりどちらか一方が先攻または後攻を宣言すればそのプレイヤーが先攻もしくは後攻となる。
 プレイヤーが互いに同じ順番を求めたり、対戦(エンカウント)開始十秒以内に申告がなかったりした場合、そのときはアルカナシステムがランダムに先攻後攻を決定する。
 今回はアスカが先攻を主張した。これによりユウミは後攻となった。
「先攻は私がもらうわ」
 アスカが一際大きな声で言った。
 その顔は笑んでいる。
 右手を上げた。
「私のターン!」
 アスカの右手に一枚のカードが宿る。
 ちらとそれを見るとそのままカードを前方に投げた。
「私はカテゴリー1の『ブラックサバンナ・ダークインパラ』を召喚」
 頭部に角を生やした黒い鹿に似た動物が一体現れた。胴体の右横に500と白い数字が浮かんでいる。
「ダークインパラのスキル(能力)を発動! このモンスターをリンボに送ることでカテゴリー2以下のブラックサバンナと名のつくモンスター一体を手札から特殊召喚できる」
 アスカが左手のカードを一枚引き抜き、右手で投げる。
「現れなさい!『ブラックサバンナ・ネクロヴァルチャー』!」
 ダークインパラが消失し、今度は真っ黒な禿鷹が出現した。黒い禿鷹は弧を描いて高く飛び上がり、20メートルくらいの高さで旋回する。

 横には1000と白い数字。
「ネクロヴァルチャーのスキル発動! リンボにあるモンスター一体をフィールドに特殊召喚する」
 ネクロヴァルチャーが甲高い声で鳴く。
 アスカの前の空間が光そこからダークインパラが復活した。
 アスカがさらに手札の一枚をつかんで投じる。
「ダークインパラがフィールドに戻ってきたことで手札のカテゴリー3モンスター『ブラックサバンナ・スカルコヨーテ』を特殊召喚! このモンスターは自分のブラックサバンナモンスターがリンボから特殊召喚されたとき、手札から特殊召喚できる!」
 出てきたのは頭部が白い骸骨の真っ黒な体の犬。体長は150センチほど。口を半開きにしている。

 その横には2000という白い数字。
「いきなりモンスターを三体……」
 ユウミは息を飲んだ。
 まだエンカウントしたばかりだというのに、もう追いこまれてしまったかのような錯覚に陥る。
 互いの身体の脇には白い数字。
 5000。
「エンカウントモンスターズ」はプレイヤーがモンスターや魔法を駆使して戦う。相手の生命力を0にするか、デッキのカードを使い果たさせるか、あるいは特殊な条件を満たせば勝利となる。
 多くのエンカウンター(「エンカウントモンスターズ」のプレイヤー)は相手の生命力を0にしようと全力を尽くす。
 ユウミもそうだった。
 たぶん、アスカもそうなのだろう。
 ユウミはアスカを見、また三体のモンスターに目をやる。
 先攻は一ターン目に攻撃することができない。これはルールだ。どれだけモンスターを召喚しようと、どれほどモンスターが強かろうと、先攻の第一ターンでモンスターによる戦闘ダメージは与えられないのだ。
 ユウミは小さくうなずく。
 大丈夫、まだ始まったばかり。
 あたしのターンでまずダメージを食らわせる。
 一体でも多く相手モンスターの数を減らす。
 モンスターを全滅させることは難しくても、自分の手札ならどうにか戦える。
 ……だが。
「もしかしてこれで終わりとでも思った? だとしたら大間違いね」
 嘲笑。
 アスカが右手にカードを持ち、使用した。
「魔法カード『サバンナの烈風』を発動! フィールドのブラックサバンナモンスター一体につき400のダメージを相手プレイヤーに与える!」
「なっ!」
 ユウミが驚愕した刹那、アスカのモンスターたちが黄色く光った。それを合図に強烈な風が生じる。細かな枝や小石を含んだ風だ。
 激しく風がユウミに打ち付ける。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
 全身に微細な痛みが襲いかかった。ユウミはたまらず両手で顔をかばう。身体の痛みも辛いが精神的にもきつい。
 魔法によるダメージは想定外だ。
 笑みを交えたアスカの声。
「これはほんの挨拶代わりよ。次からは本気でいくから」
 風が止んでユウミは顔から手を外す。
 アスカの余裕ぶった表情が視界に入った。得意げに胸を張っている。
「私はこれでターンエンド」
 ターン(行動順)がユウミに移った。
 次からは本気でいく、ですって?
 きゅっと唇を結んだ。
 向こうには三体のモンスター。
 そして手札には二枚のカード。
 こちらの手札にはモンスターカードが三枚と魔法カードが二枚。ターン開始時に一枚を得られるから合計六枚で戦うことになる。
 ターン終了時に残り手札は五枚以内にしなければならない。これはルールなので最低でもカードを一枚は使うことになる。もし、ターンが終わってもそれ以上持っている場合、余剰分はリンボに捨てなければならない。
 ユウミは右手を高く突き出す。
「あたしの、ターン!」
 
 
 
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