第23話 プロに圧倒されてもユウミはあきらめない

文字数 2,637文字

 エクストラ召喚……。
「エクストラ」と分類される特殊モンスターをフィールドに呼び出すための召喚方法である。
 ミックス召喚とは違い特定の魔法カードを必要としない。
 各モンスターに指定された召喚条件を満たせば召喚することができる。
 エクストラモンスターにはカテゴリーがなく、その代わりに「グレード」という項目があった。この「グレード」の有無がエクストラモンスターと他の特殊モンスターとの一番の違いともいえる。
 ちなみに「エメラルドドラゴン」の召喚条件は「フィールドに存在するモンスターの数が三体以上で、カテゴリーの数値の合計が6」である。

 ★★★

 エメラルドドラゴンを召喚した風見がにこりとしてみせる。
 それは余裕なのかあるいはプロとの戦いに挑むユウミの緊張をほぐしてくれようとしているのか。
 もしくは全く別の理由か。
 、ユウミは気を抜かずに身構えた。
 風見はユウジロウの弟子だ。
 以前にもこのドラゴンを見たことがあるかもしれないが、すぐには思い出せない。
 ……でも、絶対に何かある。
 しかもまだ風見のターンだ。
 風見が言った。
「スキルの処理をさせてもらうよ。まず、リンボのエメラルドクラッシャーのスキル! このモンスターがリンボに存在するとき、フィールド上のエメラルドモンスターは攻撃力を500アップする」
 エメラルドドラゴンが青白い光に包まれた。
 横の数値も赤くなる。
 3500。
「次はエメラルドエンジェルのスキル!! このモンスターがリンボに送られたとき、僕はカードを二枚ドローできる」
 右手を上げた。
「ドロー!」
 一枚、また一枚と風見が手にしたカードを確かめる。
 手札は五枚。
 エメラルドドラゴンを指さした。
「エメラルドドラゴンのスキル発動! 手札の魔法カードを一枚リンボに送り、このモンスターの攻撃力をターンの終わりまで500アップさせ、さらに二回の攻撃を可能にする!」
「なっ」
 まずい。
 ユウミはカードを使うべきか逡巡する。
 エメラルドドラゴンが大きくのけぞり、その横の数値が上昇した。
 4000。
 シェルターマジシャンとの攻撃力の差は1000。
 風見が命じた。
「いくぞっ! エメラルドドラゴンでシェルターマジシャンを攻撃!」
 エメラルドドラゴンが顔を突き出し口を開く。
 奥に薄緑色の何かが光っていた。
 ユウミはスキルを行使する。
「シェルターマジシャンのスキル! このモンスターは1ターンに一度攻撃を無効にできる!」
「疾風のエメラルドストリーム!」
 ドラゴンの口から放たれた薄緑色の光がシェルターマジシャンへと向かう。
 だが、見えない幕のようなものがその光を遮った。光を吐き終えたエメラルドドラゴンは悔しそうに低くうめく。
 しかし、攻撃はもう一回ある。
 風見が声を強めた。
「いくぞっ! 二回目! 疾風のエメラルドストリーム!」
 放出される薄緑色の光。
 これにはシェルターマジシャンも堪えられなかった。
 光の奔流に押し潰されるように崩れていく。
 光の余波がユウミを襲った。
「わぁぁぁぁっ!」
 焼かれるような痛み。
 ユウミは身を縮めた。立っているのも辛いがどうにか我慢する。
 生命力が4000に減った。
 先の展開を予想してカードを温存したが間違っていただろうか?
 ……いや。
 風見が左手のカードを抜いた。
「魔法カード『ダブルアップアタック』を発動! 攻撃の終えたエメラルドドラゴンの攻撃力を二倍にして再び攻撃する!」
 エメラルドドラゴンが一つ吠え、耳をつんざくほどの声量で威嚇する。
 攻撃力は8000。
 ユウミは口許をほころばせる。
 よし、読み勝った。
 カードを投げる。
「魔法カード『ノーダメージ』を発動! この戦闘であたしが受けるダメージは0になる」
 これでこのターンはしのげる。
 そう思った。
 ……が。
 風見がさらにカードを投じる。
「悪いけどその魔法は防がせてもらうよ。カウンターマジック『ディスペル』を発動! 直前に使用された魔法カードの効果を無効にする!」
「なっ!」
 ドラゴンがブレスの発射態勢をとる。
 エメラルドドラゴンの現在の攻撃力は8000。
 あれを食らったら負ける!
 ユウミの右手が無意識のうちに手札の一枚をつかんだ。
 放る。
 風見がユウミを指さした。
「エメラルドドラゴンで新堂ユウミを攻撃! いくぞっ! 疾風のエメラルドストリーム!」
 光のブレスがユウミを焼き尽くす。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 身を焦がす激しい光と熱。
 ユウミは焼かれながら後方へと吹き飛ばされる。
 火傷に加えて打撲。背中と尻を強く打ちつけたが、草原だったのが救いであった。
 むき出しの地面ならもっと痛かっただろう。
 ……これでまたカードを無効化されたら、本当にお終いだ。
 ユウミの生命力が0になった。
 ジ・エンド。
 と、そのときユウミの全身が金色に輝いた。
 0だった生命力が100まで回復する。
 風見がひゅうと口笛を吹いた。
「『ガッツ』か。さっきの『ノーダメージ』といい、よく持っていたね」
 ゆっくりとユウミは立ち上がる。
 プロの圧倒的な強さを思い知らされたが、気持ちはまだ残っていた。
 手札は三枚。
 生命力だって0ではない。
 たとえ100しかなくても0ではないのだ。
 まだ負けていない。
 あたしはまだ……。
 風見が笑んだ。
「なかなかタフだね。先生のお孫さんだけのことはあるかな。僕はこれでターンエンドにするよ」
 ターンの終わりとともに魔法の効果とエメラルドドラゴン自身のスキルが効力を失った。
 それでも、リンボにあるエメラルドクラッシャーの効果は有効だ。
 攻撃力は3500。。
 先生のお孫さんだけのことはあるかな。
 風見の言葉にユウミは自嘲する。
 孫……ね。
 正確には孫ではなかった。
 本当の祖父はユウジロウの兄シンタロウ。
 彼もまた母のユウカと同様に行方知らずだ。
 父を交通事故で失い、母もいない。
 祖父も消息不明。
 そんなユウミを育ててくれたのがユウジロウなのだ。
 似ているというなら、それはこれまでともに時間を過ごしてきたから。
 実の家族以上に家族だから。
 だから……。
 ユウミは右手で天を突いた。
「あたしの、ターン!」
 
 
 
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