第36話 これをここで引くとはね……
文字数 2,652文字
巨体を前にしてユウミはカードを握る手に力がこもる。
老木の威圧感とも呼べるプレッシャーを感じていた。だが、それ以上に力を失ったはずのプルーパから強いプレッシャーが発せられていた。
これは明らかに格が違う。
プルーパのそれは別物だ。
「ユウミ!」
意を決したといったふうにクゥが告げた。
「アルカナカードは所有者を選ぶんだ。ただし、カードによっては所有者に憑依するものもいる」
「はい?」
ユウミはそうじゃないかと思っていたものの、いざそう言われてみると素直に受け容れられなかった。
「彼女は『女教皇(ハイプリエステス)』のアルカナカードに選ばれた。でも、あいつは……プルーパは支配欲がある。グリムノームたちもプルーパのせいで好戦的になった」
「ちょ、ちょっと待って」
急にそんな話をされても頭が追いつかない。
「どういうこと? グリムノームたちって単なるモンスターカードじゃないの?」
「それぞれのモンスターカードには『物語』があるんだ。アルカナカードには特に強い物語性がある」
「あーもうっ! うっさい! あんたたち黙りなさいっつーの!」
今までで一番の怒声だった。
「これから私が華麗にこいつらをぶちのめすんだから邪魔すんな!」
「な、何かよくわかんないけど、スキルを使うよ」
やや引き気味にハヅキが言った。
「タスクツリーのスキル! このカードを地属性特殊モンスターの召喚素材とした場合、その特殊モンスターの攻撃力を二倍にすることができる。ただし、このスキルを使用したターン以降、毎ターンの終了時に私は生命力を1000支払わなくてはならない!」
セフィロトツリーの巨体が青白い光に包まれた。
横にあった白い数字が赤くなる。
6000。
やばい。
ユウミはスズメを見た。
彼女の生命力はあと3500。
ハミングバードたちの攻撃力はグリーンフォレストの影響から逃れたとはいえセフィロトツリーよりずっと低い。
攻撃が通ったら生命力が0になってしまう。
やばい。
ユウミはスズメの手札を数える。
手札は二枚。
あの中にこの危機を脱することのできるカードはあるのだろうか。
「スズメちゃん!」
「だ・か・ら、うっさいっての!」
「でも……」
「あんたは自分の心配だけしなさい」
なぜかスズメから焦りは見当たらなかった。
ちっ、とハヅキが舌打ちする。
「ずいぶんと余裕ぶってるわね。何かムカつくんだけど」
「別にぶってるんじゃないわ。余裕なのよ」
「こいつっ!」
睨み合うスズメとハヅキ。
やがてハヅキがスキルの処理に戻った。
「セフィロトツリーのスキル! このモンスターがフィールド上に存在する場合、自分または味方の地属性特殊モンスターはこのカードの攻撃力分アップする!」
「なっ」
驚きのあまりユウミは声をもらしてしまった。
やばい。
このスキルはやばい。
セフィロトツリーのスキルによりプルーパの身体が青白い光を纏う。
上昇する攻撃力。
6000。
ラーラー。
ラーラー。
ラーラー。
力を取り戻したからか、グリムノームたちの歌が聞こえてくる。
サツキが笑んだ。
その顔がなぜかプルーパの顔と重なったような気がして、ユウミはぞっとする。
怖い。
ユウミの頭の中にその文字が浮かんだ。
クゥがサツキの頭上を旋回する。
サツキが見上げた。
再び目が妖しく光る。
「お主はそうやってただ飛んでいればよい。我はあの女魔術師に復讐するのみ」
復讐?
ユウミが問うまでもなくクゥが説明した。
「プルーパの『物語』の中では、グリムノームたちを率いた彼女を女魔術師が倒したことになっているんだ」
「その女魔術師って……」
聞くまでもなかった。
ライトニングマジシャン。
ということは、この戦いは因縁の一戦。
ハヅキがスズメを指差す。
「これで終わりよっ! セフィロトツリーで・オレンジスカイラーク(攻撃力1800)を攻撃!」
スズメに動じる素振りはない。
セフィロトツリーが無数の枝を曲げて槍のように突き刺そうとする。
オレンジスカイラークがいくつかかわすが、枝のうちの一本を避けきれなかった。
その一本だけでなく次また次と枝が小鳥を串刺しにする。
スズメが叫んだ。
「リンボにあるハミングバード・シルバーウッドペッカーのスキル発動!! 自分フィールド上のハミングバードモンスターが戦闘によって破壊されたとき、このカードをゲームから除外して私は生命力を800回復する!」
スズメが金色の光に包まれた。
生命力が4300になる。
しかし、すぐに戦闘によるダメージが発生して残り生命力が100にまで減じてしまった。
だが、生き残った。
たとえ生命力が100であろうとスズメは生き残ったのだ。
悔しそうにハヅキが地団駄を踏んだ。
「な、何でそんなモンスターがリンボにいるのよ!」
「忘れたの?」
意地悪くスズメが笑った。
「あんたがトゥースツリーのスキルで私の手札をリンボ送りにしたんじゃない。あんたは自分で自分の勝ちを潰したのよ」
うぐぐ、とハヅキが低くうめく。
サツキが首を振り、諦めたように告げた。
「もういいです。ハヅキちゃんはターンを終えてください。後は私がやります」
サツキに逆らえないのか、あるいは手札の最後の一枚がこの場で使えるものではなかったからか、ハヅキが大人しく従った。
「私はこれで、ターンエンド」
タスクツリーの効果のコストとしてハヅキの生命力が1000下がる。
残り生命力が5500になった。
スズメがドローしようと右手を伸ばしかけたとき、クゥが彼女に急接近した。
「もうダメだ。悪いけど君の身体を借りるよ!」
「ざけんなっ! この鳥!」
クゥがスズメの肩に掴まろうとした刹那、彼女のグーが彼をとらえた。問答無用で殴り飛ばされる。
「鳥の分際で私の邪魔すんな!!」
「クゥ!」
ユウミは悲鳴を上げたものの動けなかった。というかスズメも怖い。
地に落ちたクゥはぐったりしている。見た感じ死んではいないようだが……いや、そもそもこのバーチャルな空間で生死うんぬんを言うのも変な話なのだが。
ふん、と鼻息も荒くスズメが右手を天に突き出す。
「私のターン!」
手に宿るカード。
内容を確認したスズメが深くため息をついた。
「これをここで引くとはね」
老木の威圧感とも呼べるプレッシャーを感じていた。だが、それ以上に力を失ったはずのプルーパから強いプレッシャーが発せられていた。
これは明らかに格が違う。
プルーパのそれは別物だ。
「ユウミ!」
意を決したといったふうにクゥが告げた。
「アルカナカードは所有者を選ぶんだ。ただし、カードによっては所有者に憑依するものもいる」
「はい?」
ユウミはそうじゃないかと思っていたものの、いざそう言われてみると素直に受け容れられなかった。
「彼女は『女教皇(ハイプリエステス)』のアルカナカードに選ばれた。でも、あいつは……プルーパは支配欲がある。グリムノームたちもプルーパのせいで好戦的になった」
「ちょ、ちょっと待って」
急にそんな話をされても頭が追いつかない。
「どういうこと? グリムノームたちって単なるモンスターカードじゃないの?」
「それぞれのモンスターカードには『物語』があるんだ。アルカナカードには特に強い物語性がある」
「あーもうっ! うっさい! あんたたち黙りなさいっつーの!」
今までで一番の怒声だった。
「これから私が華麗にこいつらをぶちのめすんだから邪魔すんな!」
「な、何かよくわかんないけど、スキルを使うよ」
やや引き気味にハヅキが言った。
「タスクツリーのスキル! このカードを地属性特殊モンスターの召喚素材とした場合、その特殊モンスターの攻撃力を二倍にすることができる。ただし、このスキルを使用したターン以降、毎ターンの終了時に私は生命力を1000支払わなくてはならない!」
セフィロトツリーの巨体が青白い光に包まれた。
横にあった白い数字が赤くなる。
6000。
やばい。
ユウミはスズメを見た。
彼女の生命力はあと3500。
ハミングバードたちの攻撃力はグリーンフォレストの影響から逃れたとはいえセフィロトツリーよりずっと低い。
攻撃が通ったら生命力が0になってしまう。
やばい。
ユウミはスズメの手札を数える。
手札は二枚。
あの中にこの危機を脱することのできるカードはあるのだろうか。
「スズメちゃん!」
「だ・か・ら、うっさいっての!」
「でも……」
「あんたは自分の心配だけしなさい」
なぜかスズメから焦りは見当たらなかった。
ちっ、とハヅキが舌打ちする。
「ずいぶんと余裕ぶってるわね。何かムカつくんだけど」
「別にぶってるんじゃないわ。余裕なのよ」
「こいつっ!」
睨み合うスズメとハヅキ。
やがてハヅキがスキルの処理に戻った。
「セフィロトツリーのスキル! このモンスターがフィールド上に存在する場合、自分または味方の地属性特殊モンスターはこのカードの攻撃力分アップする!」
「なっ」
驚きのあまりユウミは声をもらしてしまった。
やばい。
このスキルはやばい。
セフィロトツリーのスキルによりプルーパの身体が青白い光を纏う。
上昇する攻撃力。
6000。
ラーラー。
ラーラー。
ラーラー。
力を取り戻したからか、グリムノームたちの歌が聞こえてくる。
サツキが笑んだ。
その顔がなぜかプルーパの顔と重なったような気がして、ユウミはぞっとする。
怖い。
ユウミの頭の中にその文字が浮かんだ。
クゥがサツキの頭上を旋回する。
サツキが見上げた。
再び目が妖しく光る。
「お主はそうやってただ飛んでいればよい。我はあの女魔術師に復讐するのみ」
復讐?
ユウミが問うまでもなくクゥが説明した。
「プルーパの『物語』の中では、グリムノームたちを率いた彼女を女魔術師が倒したことになっているんだ」
「その女魔術師って……」
聞くまでもなかった。
ライトニングマジシャン。
ということは、この戦いは因縁の一戦。
ハヅキがスズメを指差す。
「これで終わりよっ! セフィロトツリーで・オレンジスカイラーク(攻撃力1800)を攻撃!」
スズメに動じる素振りはない。
セフィロトツリーが無数の枝を曲げて槍のように突き刺そうとする。
オレンジスカイラークがいくつかかわすが、枝のうちの一本を避けきれなかった。
その一本だけでなく次また次と枝が小鳥を串刺しにする。
スズメが叫んだ。
「リンボにあるハミングバード・シルバーウッドペッカーのスキル発動!! 自分フィールド上のハミングバードモンスターが戦闘によって破壊されたとき、このカードをゲームから除外して私は生命力を800回復する!」
スズメが金色の光に包まれた。
生命力が4300になる。
しかし、すぐに戦闘によるダメージが発生して残り生命力が100にまで減じてしまった。
だが、生き残った。
たとえ生命力が100であろうとスズメは生き残ったのだ。
悔しそうにハヅキが地団駄を踏んだ。
「な、何でそんなモンスターがリンボにいるのよ!」
「忘れたの?」
意地悪くスズメが笑った。
「あんたがトゥースツリーのスキルで私の手札をリンボ送りにしたんじゃない。あんたは自分で自分の勝ちを潰したのよ」
うぐぐ、とハヅキが低くうめく。
サツキが首を振り、諦めたように告げた。
「もういいです。ハヅキちゃんはターンを終えてください。後は私がやります」
サツキに逆らえないのか、あるいは手札の最後の一枚がこの場で使えるものではなかったからか、ハヅキが大人しく従った。
「私はこれで、ターンエンド」
タスクツリーの効果のコストとしてハヅキの生命力が1000下がる。
残り生命力が5500になった。
スズメがドローしようと右手を伸ばしかけたとき、クゥが彼女に急接近した。
「もうダメだ。悪いけど君の身体を借りるよ!」
「ざけんなっ! この鳥!」
クゥがスズメの肩に掴まろうとした刹那、彼女のグーが彼をとらえた。問答無用で殴り飛ばされる。
「鳥の分際で私の邪魔すんな!!」
「クゥ!」
ユウミは悲鳴を上げたものの動けなかった。というかスズメも怖い。
地に落ちたクゥはぐったりしている。見た感じ死んではいないようだが……いや、そもそもこのバーチャルな空間で生死うんぬんを言うのも変な話なのだが。
ふん、と鼻息も荒くスズメが右手を天に突き出す。
「私のターン!」
手に宿るカード。
内容を確認したスズメが深くため息をついた。
「これをここで引くとはね」