第22話 風見シンゴはエクストラ召喚でドラゴンを呼び出す

文字数 2,824文字

 フロントでの手続きはすでにユウジロウの指示で風見が行っていた。
 つまり、ユウミと風見の対戦はユウジロウによって決定事項となっていたようだ。
 トランプグループのスポーツ施設内にあるバーチャルルームに入ってもなお、ユウミは戸惑いを拭いきれなかった。
 だが、心のどこかで現役のプロとエンカウントできる喜びを感じている自分がいるのも事実だ。
 プロとアマチュア。
 しかも、自分は最近C級になったばかり。
 勝負にならないこともわかっている。
 それでも……。
 ユウミは室内に設置された端末にデッキをセットする。
 その一方でユウジロウが風見と話をしながら詳細を設定していた。
 プレイヤー数・2。
 ゲームモード・スタンダード・オフィシャル。
 ターン制限・なし。
 禁止および制限カードの使用・禁止カードは不許可、制限カードは許可(魔法カード『ガッツ』と『天使のわがまま』は制限カード)。
 プレイヤーへのフィードバック(この値が低いと痛覚などは弱まるが臨場感も薄くなる。レベル1から9まである)・5。
 初期生命力・5000。
 初期手札数・5。。
 その他。
 風見は自分のデッキを端末にセットしない。
 それは彼の所持するデッキケースが端末内蔵型のためだろうとユウミは推測する。プロエンカウンターならだいたい持っているし、高価なため数こそ少ないがアマチュアで使っている人もいる。
 ……まだデザインのバリエーションがないのも難点なんだよね。
 ユウミは自分のデッキケースと同じかそれに近いものがあれば変更するつもりだった。値段は張るがユウジロウにねだれば何とかなるのではないかという期待もある。
「それにしても」
 風見が立ち位置に向かいながら言った。
「わざわざ弟子にやらせずにご自分でお孫さんの相手をすれば良かったんじゃないですか?」
「私闘はせんのじゃ」
「僕、先生が最後にエンカウントしたのがいつか憶えてませんよ」
「後進の指導が忙しいのでなっ」
「……アヤさんが言ってましたよ、先生は引退する気なんじゃないかって」
 ユウジロウは応えない。
 ユウミも自分の立ち位置に着くと、ユウジロウがスイッチを入れたらしく殺風景な室内にヴィジョンが映し出された。
 室内だったはずなのに夜の草原と化している。
 満天の星空に真ん丸のお月様。
 そよりと風が吹き、波の如く草が揺れる。
 草は細長く、148センチのユウミの脛あたりまで伸びている。
 ……ちょっと動きづらいかな。
 とはいえ、基本はその場に立ったままでもプレイできる。
 アルカナシステムがつつがなくプロセスを進めているらしく、ユウミの右手に五枚のカードが現れた。
 ユウミは一枚ずつチェックをし、左手に移す。プロ相手にどこまで通じるかわからないが、やるからには全力を尽くしたかった。
 風見が声をかけてくる。
「君のデッキって新堂先生と同じマジシャンズデッキなんだって?」
「あ、はい」
「僕の同期……というか先生の弟子に魔女使いがいるんだけど、彼女も最初は強くなかったんだ」
「はぁ……」
「だから、負けてもあまり落ち込んだりしないでね。勝負事なんだし、勝者がいれば敗者もいる」
 風見が自分の手札に目を落とした。
 うなずく。
「てことで、いきなり負けても恨まないでね」
 どうやらよほど良い手札がそろったらしい。
 ユウミと風見の身体の横に数字が浮かんでいる。
 5000。。
 両者の生命力が出たところでユウジロウがたずねた。
「二人とも始めてもいいか?」
「いいよ、おじいちゃん」
「どうぞ、先生」
 一呼吸おき、ユウジロウが大きな声で宣言した。
「では、これより早見シンゴと新堂ユウミの試合を開始する!」
 ユウミと早見の声が重なった。
「「エンカウント!」」

 ★★★

 アルカナシステムはユウミを先攻に選んだ。
「あたしのターン」
 右手を突き上げると手の中に一枚のカードが生まれる。
 ユウミは確認してすぐそれを使った。
「あたしはカテゴリー3のシェルターマジシャンを召喚!」
 カードが瞬時に真っ白なローブ姿のやや太った魔法使いへと変化した。とんがり帽子ではなくローブと一体化したフードを被っている。ブーツの色は灰色。
 身長と同じくらいの長さの杖には灰色の丸い玉が埋め込まれていた。
 攻撃力は3000。
 ただし、このモンスターは自ら攻撃することができなかった。
 ……相手はプロ。
 うかつなことはせず、まずは様子を見ないと。
「あたしはこれでターンエンド」
 風見が右手を天にかざした。
「僕のターン」
 手に入れたカードを手札に加え、左手から別の一枚を抜く。
「僕はカテゴリー2のエメラルドサモナーを召喚」
 風見の前に薄緑色のローブ姿の女召喚師が現れた。長い金髪を左右のお下げにしている。両手でテニスボール大の水晶玉を持っていた。
 攻撃力は1500。
「エメラルドサモナーのスキル発動! このモンスターの通常召喚に成功したとき、攻撃力1500以下の『エメラルド』と名の付くモンスター一体を手札から特殊召喚する」
 エメラルドサモナーが水晶玉を両手で掲げる。
 水晶玉が青白く光った。
 風見が素早くカードを投じる。
「現れろ! カテゴリー2、エメラルドクラッシャー」
 カードは薄緑色の西洋風鎧を纏った戦士に変じた。身体の半分くらいのサイズのハンマーを握っている。
 攻撃力は1500。
 さらに一枚。
「フィールドにエメラルドモンスターが存在するとき、手札のエメラルドエンジェル一体を特殊召喚できる」
 薄緑色の衣姿の天使が現出する。頭の上の輪っかと背中から生えた一対の翼までもが薄緑色だ。
 カテゴリー2で攻撃力は1000。
 場に三体のモンスター!
 速攻型のプレイスタイルに身構えるユウミ。
 ごくり、と唾を飲んだ。
 風見が両手をクロスさせる。
「ここで僕はサモニング!」
 フィールドのエメラルドモンスターたちが一斉に地を蹴る。
「三体のモンスターを素材に魔方陣を形成、エクストラ召喚。!」
 光の線となりながら三体のモンスターだったものは魔方陣を描いていく。
 中空に浮かび上がった魔方陣は強い光を発し、そこから巨大なモンスターを誕生させた。
「その大いなる翼を翻し、清涼なる風邪に乗って我が元に来たらん!」
 姿を見せたのは四階建てのビルに相当する高さの竜。
 薄緑色の鱗に身を包みでっぷりとした体躯に短い前足、しっかりと大地を踏みしめた太い後ろ足、尻尾は太く立派だ。
 恐竜を連想させる頭部。その両目にはエメラルド色の瞳があった。
 半開きの口からは鋭い牙がのぞけている。
 風属性で攻撃力は3000。
「グレード6、エメラルドドラゴン」
 風見の声に呼応するかのように薄緑色の竜は天を仰いで咆哮した。
 
 
 
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