第12話 逆転の一枚、ダブルアンドハーフ
文字数 2,149文字
斬撃がライトニングマジシャンを襲う。
さらに1000ポイントのダメージ。
倒れこそしないものの、ライトニングマジシャンが苦しそうに身悶える。
聞こえてくるのは女性の低いうめき。
紅蓮のシャアのスキルのせいで破壊されることもなく、炎の刃の餌食となっていた。
ユウミは自分が味わった苦痛を思い出し、呼吸を荒くする。
カードを握る手に汗がにじんだ。
倉石が最後の一回を宣言する。
「とどめだッ! 紅蓮のシャアでライトニングマジシャンを攻撃!」
ユウミはカードを投げた。
紅蓮のシャアがライトニングマジシャンを斬る。
ダメージは1000。。
ユウミの生命力が0になった。
ジ・エンド。
……しかし。
ユウミの全身を金色の光が包んだ。
倉石が忌々しげに舌打ちする。
「『ガッツ』か。悪あがきを……」
0だったユウミの生命力が100まで回復する。
魔法カード『ガッツ』の効果。
これは生命力が0になったときに発動する。プレイヤーの生命力を100にしてゲームに復帰させる。使用のタイミングが攻撃の直前でなければならないのがネックだが、エンカウント(対戦)における保険にもなるのでユウミはデッキに組み込んでいた。
レア度の高いカードだが、自分のデッキに加えている者は少なくない。
ただし、一度のエンカウントに一回しか発動できないというルールがあるため、せっかく復帰してもすぐにやられてしまう可能性はあった。
それを知っているからだろう。倉石の表情に余裕が戻る。
「まあ、せいぜい楽しませてくれ……俺はこれでターンエンドだ」
ターンがユウミに回った。
ユウミは左手の『セカンドアタック』を見る。
これだけでは勝てない。
ライトニングマジシャンと紅蓮のシャアとの攻撃力の差、それと倉石の生命力も計算に入れなければならない。
おそらくはこれが最後のチャンス。
ここで紅蓮のシャアの攻撃力を上回り、かつ倉石の生命力を0にしなければ勝利はない。
このドローに勝敗がかかっている。
ユウミはフィールドの外で人質になっている女の子に目を向けた。
あの子を助けなきゃ。
負けられない。
倉石にはもう手札がなかった。リンボのカードが何らかのスキルを持っているかもしれないが、すでに発揮した他にスキルを有している確率は低いのではないか。
ごくりと唾を飲む。
「怖じ気づいてるの?」
また誰かの声。
気にはなるが無視して右手を上げた。
「あたしのターン!」
一瞬、右手が銀色に輝く。
え?
目を見開く。
目の錯覚だろうか。
すでに輝きはなく、手の内にはカードが現出していた。ユウミは祈る思いで確認する。
「……これは」
魔法カードだ。
ユウミは小さくうなずくと自分を鼓舞する意味も込め、あえて大げさな仕草で両腕を広げた。
「イッツ、ショータイム!」
思った通り倉石が嘲笑する。
「何だ? ついに頭がいかれたか?」
ユウミは無視して続ける。
まず一枚。
今さっき手に入れた逆転の一枚。
「魔法カード『ダブルアンドハーフ』を発動! あたしの残り生命力を半分にし、フィールド上のモンスター一体の攻撃力を二倍にする!」
「何ぃっ!」
倉石が驚く。
これは予想していなかったようだ。
ユウミの生命力が100から50に下がった。同時にライトニングマジシャンの身体が青白い光をまとう。
横の数値が赤く染まった。
5000。
倉石が唖然とした顔で口を半開きにさせる。
パチンとユウミは指を鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで紅蓮のシャアを攻撃!」
ライトニングマジシャンが杖の先を敵に向ける。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が大きくなるにつれて周囲の明滅が激しくなる。
「ライトニングマジック!」
光球が発射された。
一直線に紅蓮のシャアへと飛んでいきバチバチという音と一緒に放電する光の中に飲み込んでしまう。
跡形もなく紅蓮のシャアは消え去った。
倉石に1500のダメージ。
だが、これでは終わらない。
ユウミは最後の一枚を右手に持ち力一杯に投じる。
「『セカンドアタック』を発動! 攻撃の終えたライトニングマジシャンでもう一度攻撃!」
盾となるモンスターを失った倉石に光球が炸裂した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
倉石が激しく感電して仰向けに倒れると、生命力が0になった。
ジ・エンド。
ブーッという対戦の終了を告げるブザーが鳴り響く。
……勝った。
ほっとするあまり力の抜けたユウミではあったが、どうにか座り込むのを堪えた。
約束を果たしてもらおうと倉石の仲間に声をかけようとすると……。
「何よ、使えない男ね。これじゃ、私がやるしかないじゃない」
さっきまで人質だった女の子が嘆息した。
その顔はもう怯え泣く子供ではなく、小悪魔そのものだ。
可愛らしく微笑みながら、女の子がブレザーの内側に手を入れる。
一組のデッキを取り出すと、挑発するような態度で見せつけてきた。
「てことで今度は私と遊んでね、お姉ちゃん」
さらに1000ポイントのダメージ。
倒れこそしないものの、ライトニングマジシャンが苦しそうに身悶える。
聞こえてくるのは女性の低いうめき。
紅蓮のシャアのスキルのせいで破壊されることもなく、炎の刃の餌食となっていた。
ユウミは自分が味わった苦痛を思い出し、呼吸を荒くする。
カードを握る手に汗がにじんだ。
倉石が最後の一回を宣言する。
「とどめだッ! 紅蓮のシャアでライトニングマジシャンを攻撃!」
ユウミはカードを投げた。
紅蓮のシャアがライトニングマジシャンを斬る。
ダメージは1000。。
ユウミの生命力が0になった。
ジ・エンド。
……しかし。
ユウミの全身を金色の光が包んだ。
倉石が忌々しげに舌打ちする。
「『ガッツ』か。悪あがきを……」
0だったユウミの生命力が100まで回復する。
魔法カード『ガッツ』の効果。
これは生命力が0になったときに発動する。プレイヤーの生命力を100にしてゲームに復帰させる。使用のタイミングが攻撃の直前でなければならないのがネックだが、エンカウント(対戦)における保険にもなるのでユウミはデッキに組み込んでいた。
レア度の高いカードだが、自分のデッキに加えている者は少なくない。
ただし、一度のエンカウントに一回しか発動できないというルールがあるため、せっかく復帰してもすぐにやられてしまう可能性はあった。
それを知っているからだろう。倉石の表情に余裕が戻る。
「まあ、せいぜい楽しませてくれ……俺はこれでターンエンドだ」
ターンがユウミに回った。
ユウミは左手の『セカンドアタック』を見る。
これだけでは勝てない。
ライトニングマジシャンと紅蓮のシャアとの攻撃力の差、それと倉石の生命力も計算に入れなければならない。
おそらくはこれが最後のチャンス。
ここで紅蓮のシャアの攻撃力を上回り、かつ倉石の生命力を0にしなければ勝利はない。
このドローに勝敗がかかっている。
ユウミはフィールドの外で人質になっている女の子に目を向けた。
あの子を助けなきゃ。
負けられない。
倉石にはもう手札がなかった。リンボのカードが何らかのスキルを持っているかもしれないが、すでに発揮した他にスキルを有している確率は低いのではないか。
ごくりと唾を飲む。
「怖じ気づいてるの?」
また誰かの声。
気にはなるが無視して右手を上げた。
「あたしのターン!」
一瞬、右手が銀色に輝く。
え?
目を見開く。
目の錯覚だろうか。
すでに輝きはなく、手の内にはカードが現出していた。ユウミは祈る思いで確認する。
「……これは」
魔法カードだ。
ユウミは小さくうなずくと自分を鼓舞する意味も込め、あえて大げさな仕草で両腕を広げた。
「イッツ、ショータイム!」
思った通り倉石が嘲笑する。
「何だ? ついに頭がいかれたか?」
ユウミは無視して続ける。
まず一枚。
今さっき手に入れた逆転の一枚。
「魔法カード『ダブルアンドハーフ』を発動! あたしの残り生命力を半分にし、フィールド上のモンスター一体の攻撃力を二倍にする!」
「何ぃっ!」
倉石が驚く。
これは予想していなかったようだ。
ユウミの生命力が100から50に下がった。同時にライトニングマジシャンの身体が青白い光をまとう。
横の数値が赤く染まった。
5000。
倉石が唖然とした顔で口を半開きにさせる。
パチンとユウミは指を鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンで紅蓮のシャアを攻撃!」
ライトニングマジシャンが杖の先を敵に向ける。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が大きくなるにつれて周囲の明滅が激しくなる。
「ライトニングマジック!」
光球が発射された。
一直線に紅蓮のシャアへと飛んでいきバチバチという音と一緒に放電する光の中に飲み込んでしまう。
跡形もなく紅蓮のシャアは消え去った。
倉石に1500のダメージ。
だが、これでは終わらない。
ユウミは最後の一枚を右手に持ち力一杯に投じる。
「『セカンドアタック』を発動! 攻撃の終えたライトニングマジシャンでもう一度攻撃!」
盾となるモンスターを失った倉石に光球が炸裂した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
倉石が激しく感電して仰向けに倒れると、生命力が0になった。
ジ・エンド。
ブーッという対戦の終了を告げるブザーが鳴り響く。
……勝った。
ほっとするあまり力の抜けたユウミではあったが、どうにか座り込むのを堪えた。
約束を果たしてもらおうと倉石の仲間に声をかけようとすると……。
「何よ、使えない男ね。これじゃ、私がやるしかないじゃない」
さっきまで人質だった女の子が嘆息した。
その顔はもう怯え泣く子供ではなく、小悪魔そのものだ。
可愛らしく微笑みながら、女の子がブレザーの内側に手を入れる。
一組のデッキを取り出すと、挑発するような態度で見せつけてきた。
「てことで今度は私と遊んでね、お姉ちゃん」