第34話 我を倒すというなら、やってみるがよかろう

文字数 2,827文字

 ユウミは手札のモンスターカードを全て投じた。
 ぐにゃり。
 カードがモンスターへと変じるよりも早く空間が歪んでいく。
 回転するように三枚のカードを巻き込んで空間はねじれ、やがて一体のモンスターを目覚めさせた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ! ライトニングマジシャン!」
 呼び出されたのは一人の女魔法使い。
 三つ編みにした長い金髪。着ているローブは赤く黄色い稲妻が描かれている。手には杖。先端がバチバチと放電していた。
 光属性で攻撃力は2500。
 ユウミのエースモンスター。
 そして、この世に一枚ずつしかない二十二種類のアルカナカードのうちの一つ。
 ラーラー。
 ラーラー。
 ラーラー。
 ライトニングマジシャンの出現とともにプルーパを讃えるグリムノームたちの歌声が一段と大きくなった。
 ぐおん。
 空圧にも似たプレッシャーがプルーパから発せられる。ユウミは押し潰されるような感覚を覚えた。やっとの思いで倒れるのを堪える。
 クゥがまた騒ぎだした。
「ユウミ、プルーパは危険だ!」
 それはわかっている。
 あの「攻撃力分のダメージと回復」は何度も行使させていいスキルではない。
 どうにかしないと。
 ユウミは最後に残っていた手札を放る。
「魔法カード『チャージ』を発動! この効果により、あたしは生命力200の消費につき一枚のカードをドローできる!」
 すでに枚数は決めていた。
「あたしは生命力を1400支払い、七枚ドローする!」
「え? ユウミ、あんた何考えてんのよ」
 悲鳴ともとれるスズメの問いにユウミは微笑んでみせた。
 大丈夫。
 これだけドローすれば欲しいカードはきっと引ける。
 それに暦姉妹の狙いは自分ではない。
 スズメが倒されるまで攻撃されないという自信があった。
 ユウミの生命力が残り100になる。
 右手を突き上げた。
「ドロー!」
 一枚、また一枚とカードを手に入れる。
 ユウミの入手したカードはこの七枚。
「ナースマジシャン」(カテゴリー2・光属性・攻撃力1000)
「アゲインマジシャン」(カテゴリー2・闇属性・攻撃力1200)
「クリアランス」(魔法カード)
「ディスペル」(魔法カード)
「天使のわがまま」(魔法カード)
「ダブルアンドハーフ」(魔法カード)
「天使の大掃除」(魔法カード)
 口許を綻ばせる。
 来た。
 ユウミは最初のカードを切る。
「魔法カード『クリアランス』を発動! 現在発動中の魔法効果を一つ無効にする!」
 ハヅキの前にあるカードを指差した。
「選択するのは『グリーンフォレスト』だよっ!」
「はぁ?」
 頓狂な声を上げるハヅキ。
 グリーンフォレストのカードが砕け散り、あっという間にフィールドに生えていた木々が消える。あたりは元の公園の風景へと戻った。それと同時に永続効果を受けていたモンスターの攻撃力が変わっていく。
「あーあ、せっかくの結界が台無し……」
 ハヅキがぼやいた。
 スズメがぐっと親指を突き立てる。
「グッジョブよ、ユウミ!」
 彼女のハミングバードたちが元気よく鳴き始めた。グリムノームたちの歌と混じり合ってかなり騒々しい。
 サツキが眉をひそめた。
「どうあっても私たちの邪魔をする……ということですか」
「あたしはスズメちゃんを守る、そう言ったよね」
「やむを得ませんね。これをあなたに使いたくなかったのですが」
 左手にあったカードを抜いた。
「魔法カード『天使の懲罰』を発動! 直前に発動された魔法効果を無効にして使用したプレイヤーに1000のダメージを与える!」
「待ってサツキ、新堂さんには手を出さないんじゃ」
「ハヅキちゃん、これは彼女が選んだことなんですよ」
 冷ややかに。
「ならば私たちもそれに応じるだけです」
「でも……」
「ハヅキちゃん」
 やけに圧のある声で。
「私に逆らうんですか?」
 ハヅキの顔が引きつった。
 二人のやりとりをよそにユウミは左手の一枚を選んで対抗する。
「魔法カード『天使のわがまま』を発動! あたしの生命力が0になるモンスターの攻撃およびスキル・魔法を無効にする!」
 魔法が防がれサツキが唇を噛む。
 ユウミはまた一枚投げた。
「カテゴリー2のナースマジシャンを通常召喚!」
 カードが真っ白なワンピースタイプの看護服を着た少女に変化した。可愛らしい顔立ちの美少女で、ショートに切りそろえられた金髪に白いナース帽をちょこんとのせている。
 自分の背丈の三分の一くらいの大きさの注射器を抱えていた。
 光属性で攻撃力は1000。
「ナースマジシャンのスキル! あたしは手札を一枚捨て、このモンスターをリンボに送ることで自分と味方プレイヤーの生命力を1000回復する!」
 ナースマジシャンとリンボに行くのはアゲインマジシャン。
 ユウミとスズメの身体が金色の光を纏った。
 ユウミの生命力が1100、スズメが3500にアップする。
「ゆうみ、またもグッジョブ!」
 スズメが上機嫌で手を叩く。
 ハミングバードたちもさらに激しく鳴きだした。
 ユウミは次の一手を打つ。
 最も欲しかったカードだ。ナースマジシャンのスキルによる回復はこのための布石にすぎない。
「魔法カード『天使の大掃除』を発動! あたしは生命力を1000支払い、サツキちゃんのリンボにあるカードを全てデッキに戻す!」
 ユウミの生命力が100になり、どこからともなくホウキを持った天使たちが現れた。
 天使たちは白い翼を羽ばたかせ、サツキの側にあるリンボに向かって飛んでいく。一斉に突入するとリンボが明るく輝きだし、中にあったカードがポンポンと外に掃き出されて消えていった。
 リンボのグリムノームたちを失ったプルーパの攻撃力が0になる。
「あぁ、プルーパが」
 動揺したのはサツキではなくハヅキだった。
 スズメが「よっしゃあ!」とガッツポーズをとる。
「これであのスキルももう怖くない!」
 リンボのグリムノームたちが一掃されたからか、プルーパを讃える歌が止んだ。とはいえ静かになるどころかハミングバードたちの囀りがひどくなってきたのだが……。
 サツキが睨みつけてきた。
「新堂さん、やってくれましたね」
「これでプルーパは無力。次のターンで仕留めるよ」
「そんなことできると思っているんですか?」
 ユウミは真っ直ぐにサツキを見据えた。
 バチッと火花が散ったような気がした。
「……できるよ、あたしたちは負けない」
 ふっとサツキの笑みが漏れる。
「いいでしょう、受けて立ちます」
 その目が赤く妖しく光った。
「我を倒すというなら、やってみるがよかろう」
「えっ?」
 気のせいだろうか。
 ユウミは思わずクゥを見た。
 彼はまだ空を飛んでいる。
 今のは……何?
 
 
 
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