第24話 負けたくない気持ち、天使の反抗!

文字数 2,535文字

「あたしの、ターン!」
 突き上げた手の内にカードが宿る。
 手に入れたのは魔法カード「ミックス」
だが、ユウミは渋い顔をする。
 元々の手札は三枚。
「リメンバーマジシャン」(光属性・カテゴリー3・攻撃力1000)
「スピアマジシャン」(光属性・カテゴリー3・攻撃力1800)
「天使の反抗」(魔法カード)
 ライトニングマジシャンを呼び出すことはできる。
 だが、相手のモンスターを倒し、かつ生命力を0にするためには攻撃力が足りない。
 ……いや。
 手がないわけではない。
 ユウミは一枚のカードを思い浮かべた。
 いけるかもしれない。
 いけないかもしれない。
 どのみち、このままでは負ける。
 負けたくなかった。
 たとえ相手がプロだろうと負けたくなかった。
 ユウミはもう一度四枚のカードを見る。
 うん。
 軽くうなずき、ユウミはカードを切った。
「あたしは魔法カード『天使の反抗』を発動! この効果により、相手プレイヤーは手札をランダムに一枚失い、あたしは二枚のカードをドローする!」
 風見の手札のうちの一枚がボロボロに砕け散った。
 ユウミは右手を上げる。
 欲しいのは……そう、あのカード。
 目をつぶり、念じた。
 お願い、来て!
「ドロー!!」
 まず一枚目。
 目を開け、確認する。
「天使の帰還」
 違うっ。
 二枚目。
 バサッ。
 どこかで聞いた羽音。
 もしやと思いつつも、今はドローに集中する。
 右手は銀色に光ることなくカードを宿した。
「……」
 ユウミの手にあるのは魔法カード。
「ダブルアンドハーフ」
 来た。
 心の中でガッツポーズをとる。
 ユウミは深く呼吸すると、大げさな身振りで両腕を広げた。
 声を張る。
「イッツ、ショータイム!」
 風見が笑った。
「おやおや、これから何を見せてくれるのかな?」
 茶化しているふうにも聞こえるので無視する。
 応じられるほど余裕はないのだ。
 ユウミは手札からカードを使った。
「あたしは魔法カード『ミックス』を発動!! 手札のリメンバーマジシャンとスピアマジシャンを素材にミックス召喚を行う!」
 二枚のカードを右手で投げた。
 ぐにゃり。
 カードを巻き込んで空間が回るように歪んでいく。
 その歪みの中心から新たなモンスターが誕生した。
 ユウミは唱えた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
 バサバサバサバサ……。
 翼を羽ばたかせる音がユウミの頭上で旋回する。
 クゥだ、と判じるもあえて見上げない。
 空間から飛び出してきたのは一人の女魔法使い。
 赤地に黄色い稲妻の模様のついたローブを着ている。
 腰まで伸びた金髪は三つ編みにし、とんがり帽子もフードも被っていない。
 手には杖。
 先端がバチバチとスパークしている。
 横に示された攻撃力の数値は2500。
 ユウミのエースモンスター。
 この世に一枚ずつしかない二十二種類のアルカナカードの一つ。
 そして、母の形見。
 ユウミはスキルを発動させた。
「ライトニングマジシャンのスキル! このモンスターの召喚素材を全てゲームから除外し、その攻撃力の合計分このカードの攻撃力をアップさせる!」
 ライトニングマジシャンが青白い光に包まれた。
 横の数字も赤くなる。
 5300。
 これでエメラルドドラゴンの攻撃力3500を上回った。
 だが、それだけだ。
 風見を倒すにはこれでは足りない。
 ユウミはもう一枚カードを切る。
「魔法カード『ダブルアンドハーフ』を発動! あたしの生命力を半分にしてライトニングマジシャンの攻撃力を二倍にする!」
 ユウミの生命力が50になった。
 ライトニングマジシャンの攻撃力が跳ね上がる。
 10600。
 風見がまた口笛を吹いた。
「やるねぇ、これならエメラルドドラゴンを撃破して、さらに僕を負かすことができる」
 微笑んでいた。
 ユウミはその余裕っぷりに驚かされたが、もう引き下がれない。
 やることはやった。
 あとは攻撃あるのみ!
 ユウミは指をパチンと鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンでエメラルドドラゴンを攻撃!」
 女魔法使いが杖を構える。
 先端で膨れていく光球。
 バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
 巨大化した光球はライトニングマジシャンよりも大きくなっている。
 夜の草原を明滅させるほどのスパーク。
 が、風見に慌てた様子はない。
 ゆっくりと手札の一枚が右手に移る。
 ……まさか。
 ユウミの脳裏に疑念がよぎるが、攻撃宣言してしまっているので、これで押し切るしかない。
 叫んだ。
「ライトニングマジック!」
 放たれる光球。。
 一直線にエメラルドドラゴンへと飛んでいき、バチバチと音を立てながらその巨体に突っこんでいく。
 命中した。
 ……と、そのとき。
「魔法カード『天使のわがまま』を発動。僕の生命力が0になる攻撃・スキル・魔法は無効となる」
「ええっ?」
 風見が用いたカードによりエメラルドドラゴンを感電させていた光球が一瞬のうちに消えた。
 ユウミはあまりのことに言葉を失う。
 こんな……。
 こんなはずは……。
「惜しかったね」
 と風見。
「もし僕が防御できなければ今のでやられていたよ」
 ユウミはただ黙って聞くしかない。
 次の手が思いつかずにいた。
 いや、頭の中が真っ白になっていたというべきか。
 バサバサバサバサ……。
 クゥだ。
 それだけはわかる。
 バサバサバサバサバサバサバサバサ……。
 バサッ。
 ユウミの左肩にフクロウが舞い降りた。
 顔の間近に猛禽類。
 いくら何でもこれは無茶苦茶だ。
 ユウミは振り払おうとしたが離れてくれない。
 爪が肩に食い込んでいるはずなのに痛みはなかった。
 頭の中がぼやけてくる。
 ああ。
 ユウミは察した。
 これはあのときの…………。
「クゥ!」
 誰かが怒鳴る。
「これはユウミの試合じゃ、邪魔は許さん!」
 ユウジロウの声だった。
 
 
 
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