第32話 追い詰められたスズメ!「女教皇(ハイプリエステス)」の脅威!

文字数 3,195文字

 サツキのターンは続いている。
「グリムノームたちに総攻撃させることができればあなたを負かすことも可能でしょう。」
 冷ややかにサツキが告げた。
「でも、このエンカウントの一巡目はモンスターによる攻撃は不可。ですので別の方法を使わせてもらいます」
「御託はいいから、さっさとかかってくれば?」
 スズメの言葉にむっとする訳でもなく、サツキが淡々とスキルの処理を始めた。
「青のルーブのスキル! このモンスターの攻撃をしない代わりに私はカードを一枚ドローします!!」
 ルーブがハンマーを地に下ろし、ふうっと息をつく。
 サツキが手を上げた。
「ドロー!」
 入手したカードを左手に持ち直す。
 この娘、一巡目が戦えないルールを逆手にとった。
 ユウミはハヅキへの攻撃に憤りながらも冷静に戦術を用いるサツキに「できる」と判じた。エンカウンターとしてどれだけ危険かはわからないが少なくとも油断していたらダメな相手だと思う。
「次に緑のリグーンのスキル! このモンスターの召喚もしくは特殊召喚に成功したとき、私と味方プレイヤーは生命力を1000回復します」
 リグーンが持っていた角笛をくわえ、天に向かって吹き鳴らす。
 耳心地のいい音色があたりに響いた。ユウミは昔テレビで見たアルプスの羊飼いが角笛を鳴らす姿を思い出す。
 サツキとハヅキの身体が金色に光った。
 サツキの生命力が7000に、ハヅキの生命力が2000に上昇する。
「サンキュー、サツキ」
 ハヅキがにこやかに礼を言い、サツキもわずかに微笑んでそれに返した。
「どういたしまして。さて、今度は黄のエイローのスキルです。このモンスターが召喚または特殊召喚に成功したとき、相手プレイヤー(一人)に1000のダメージを与えます!」
 きっとスズメを睨み。
「わかってますよね? 対象はあなたです」
 スズメが眉を寄せた。
 口をへの字にしてサツキを睨み返す。
 エイローが所持していた吹き矢を構えた。大きなモーションで息を吸い、一気に吹き矢の筒に息を吹き込む。
 ブゥッ!
 勢いよく噴出した矢が黄色い輝きを放ちながら真っ直ぐにスズメへと飛んでいく。
 命中。
「ぐっ!」
 矢はスズメの胸元に当たり溶け込むように消えていく。これがどのくらいの痛みなのかユウミには想像するしかなかった。
 一瞬だけ苦しそうに顔を歪めたものの、すぐにスズメが余裕の笑みを見せる。矢野ダメージは大したことないものだったのか。
 それとも、暦姉妹に対して強がっているだけなのか。
 いずれにせよスズメに1000のダメージが通った。
 残り生命力は2500。
 これはグリムノームたちに襲われていたら終わっていた数値である。
 サツキが口許を緩めた。
「良かったですね、グリムノームたちに総攻撃されなくて」
「はぁ?」
 スズメが鼻で笑った。
「あんたのチビ助たちなんかちっとも怖くないわよ」
「チ、チビ助ですって?」
「だってチビ助じゃない」
 これにはサツキも本気で頭にきたようであった。
「もう、絶対に許しません!」
 わなわなと震えるサツキ。ユウミは彼女の身体からどす黒いオーラにも似た何かがあふれ出てきているのを感じた。攻撃的な性格を思わせるハヅキにすら感じなかったものだ。
「ユウミ!」
 クゥがわめいた。
「来るよ! あいつが来る!」
「あいつ」が何を指しているのかユウミにはわからなかったがとにかくやばいということはよくわかった。
 ラーラー。
 ラーラー。
 ラーラー。
 いきなりグリムノームたちが歌いだす。
 え?
 何なの?
 ユウミが驚きと疑問に満ちた目でグリムノームたちを凝視していると、ハヅキが高笑いした。
「これで私たちの勝ちは決まりね。酷い目に遭う前に降参したら?」
 ラーラー。
 ラーラー。
 ラーラー。
「な、何だっていうのよ、こんな歌ぐらいでビビると思ったら大間違い……」
「あいつが来るよ!」
 スズメの言葉をクゥが打ち消す。
「ユウミ! あいつだ!」
「あいつって誰?」
「あいつだよ!」
 ラーラー。
 ラーラー。
 ラーラー。
 サツキが両手を頭の上でクロスさせた。
「私はここでサモニング!」
「えっ?」
 あまりのことに聞き違えたのではないかとユウミは疑う。
 サモニング……って。
 風間との戦いが頭をよぎった。
 まさか。
 そんな……。
 だが、ユウミの疑念をよそにサツキが特殊召喚のプロセスを踏んでいく。
 グリムノームたちが一斉に地を蹴り、それぞれが光の筋となって宙を舞った。
「五体のグリムノームで魔方陣を形成! エクストラ召喚!」
 五本の光の筋が中空に魔方陣を描いていく。それはユウミが風間とエンカウントしたときに目にしたものと同一のデザインであった。
 サツキが口上を述べる。
「明と暗を示す者、聡明と英知を示す者、その気高き精神を今ここに示せ!」
 魔方陣が妖しくも強烈な光を放ち、一体のモンスターを生み出した。
 それは七色のチェック柄のローブを身につけ、一冊の黒く分厚い書物を抱えた長い白髪の女性だった。頭には紫色のとんがり帽子。浅黒くも美しい顔はどこか異国の姫を連想させ、彼女から醸し出す気品と高潔さは極めて強いリーダーシップを感じさせた。
 ラーラー。
 ラーラー。
 ラーラー。
 どこからともなくグリムノームたちの歌が聞こえてくる。
 自分たちの長を讃える歌であるのは疑いようもなかった。
 地属性で攻撃力は0。
 サツキが名を呼ぶ。
「グレード10! グリムノームハイプリエステス(女教皇)・紫のプルーパ!」
 フィールドに降り立った女教皇が軽く会釈する。
 背は低い。他のグリムノームたちよりは高いが、ユウミよりはずっと低かった。せいぜい三十センチといったところだろうか。
 空でクゥが騒いでいる。
「来ちゃったよ! とうとう来ちゃったよ!」
 見た目はそれほど恐ろしい相手には見えない。だが、クゥがこれほど慌てるのだから危険であるに違いなかった。
 ユウミはごくりと唾を飲む。
 自然とカードを握る手に力がこもった。
 ぷっ。
 スズメが吹き出した。
「大層な演出をした割にずいぶんと可愛いモンスターね。そんなんで戦えるの?」
「スズメちゃん、ダメだよ。見た目だけで判断しちゃ……」
 ユウミがたしなめようとするとサツキの声が遮った。
「紫のプルーパのスキル! このモンスターの攻撃力はリンボにあるグリムノームモンスター一体につき600ポイントアップします!」
 プルーパの身体が青白い光に包まれる。
 横にある白い数字も赤くなった。
 3500。
 グリーンフォレストの効果も付加されていた。
 ハヅキがはやす。
「やっちゃえ! プルーパのスキル!」
 ……まだあるの?
 ユウミが疑問符を浮かべているとサツキが告げた。
「紫のプルーパの第二のスキル! 一ターンに一度このモンスターの攻撃力と同じ数値のダメージを相手プレイヤーに与え、同時に私、もしくは味方プレイヤーの生命力をプルーパの攻撃力分回復させます!」
「はぁ?」
 スズメが目を丸くした。
 クゥが叫ぶ。
「これだよ! これが……!」
「うっさい! フクロウは黙って枝にでもとまってなさい!」
 スズメが一喝し、クゥが静かになる。
 サツキが指名した。
「ダメージは小松さん、回復はハヅキちゃんです」
 プルーパの攻撃力は3500。
 スズメの残り生命力は2500。
 やばい。
 ユウミは焦った。
 スズメちゃんがやられちゃう!
 
 
**「グリムノームハイプリエステス・紫のプルーパ」の召喚条件。

 自分フィールド上の地属性モンスターの数が3体以上でカテゴリーの合計が10であること。
 
 
 
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