第45話 俺も混ぜてくれよ、覆面エンカウンターの乱入!

文字数 2,541文字

 火炎攻撃がユウミの身を焦がした。
 ダメージは大きいがユウミは何とか倒れるのを我慢する。全身を覆う炎は消えたが火傷の痛みと熱さでどうにかなってしまいそうだった。
 生命力が1400に減じる。
 容赦なく次が来た。
「幻影のミラで攻撃」
 ユキの命令とともにミラが踊り始める。シルバのときのように足をなぞって紋様が描かれた。
 無数の光りが粒となって放たれ、意思を持っているかの如くユウミに襲いかかる。
 着弾の寸前、ユウミはカードを投げた。
 ドドドドドドドドドドドドドドッ!
 一粒たりとも外れることなく光の粒が標的に命中した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
 さっきのダメージに新たな苦痛が加わる。熱を帯びた打撃に踏ん張り続けた足の力が抜けた。
 いや、足だけでなく身体中か。
 膝をつき、前のめりにどさりと崩れた。
「ユウミィィィィィィィィッ!」
 クゥの悲鳴が聞こえるがどこか遠い。
 生命力が0になった。
 ジエンド。
 ……かと思われたその時。
 ユウミを金色の光が包んだ。
 生命力が100まで回復する。
 ぼんやりした意識の中で言った。
「魔法……カード『ガッツ』発……動」
 ユウミはふらふらとしながらも立ち上がる。へたばっていてはユキの三撃目に対処できない。
 ふうん、とユキが感心した。
「ジュリアの所有者だけのことはあるのね。でも、これで終わりにしてあげる」
 ユキの声が一際大きくなった。
「さあ、とどめよっ。不知火のプロムで攻撃!」
 ユウミは力を振り絞ってカードを放る。
 ゆらりゆらりとプロムが舞踏を始めた。足跡に続いて光の線が紋様を作っていく。
 剣の形をした紋様だ。
 ユウミは身を強ばらせた。じっと紋様から剣が飛び出てくるのを凝視する。
 大振りの剣だ。
 剣は一度高く天に向かい、それから角度を急激に曲げてユウミへと落ちる。
 ユウミは弱々しくも叫んだ。
「魔法カード『天使のわがまま』を発動! あたしの生命力が0になる魔法・スキル・モンスターの攻撃を無効にする!」
 透明な盾に阻まれたかのようにユウミの前で剣が弾かれる。甲高い衝撃音があたりに響いた。
 よし、守り切った。
 ユウミが安堵したそのとき。
 ユキがスキルを使った。
「リンボにあるデイドリームバタフライ・執念のフィアナのスキル。このカードをゲームから除外し、無効化されたデイドリームバタフライモンスターの攻撃を再度行う」
「なっ!」
 ユウミの手札はもうない。
 やばい。
 リンボのカードもこのピンチに応じられるものではなかった。
 負ける。
 ユウミは目を見開き、再び現れた剣に恐怖した。もはやこの剣から逃れる術はない。
 剣が頂点まで達し、ユウミへと狙いをつける。
 あれを食らったらどんな痛みを味わうのか。
 どんな苦痛が待っているのか。
 ユウミは怖さのあまり、身体が動かなくなった。
 目を閉じたくてもできない。
 やられる。
 迫り来る剣に覚悟した。
 しかし。
「魔法カード『バードディフェンス』を発動! モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターを使用したプレイヤーのターンを終了させる!」
 黒い影が猛スピードでユウミと剣の間に割り込んだ。
 鳥、それも黒い鷲だと気づくのにユウミが思い至ったときには剣をその身で受け止めていた。
 鷲は鷲でもモンスターのそれだと気づくのにさらに時間がかかる。ユウミは驚きつつも黒い鷲の飛んできた方向に首を向けることができた。
 男だ。
 エンカウント中のフィールドに男が入り込んでいた。その手には四枚のカード。
 横には5000という白い数字。
 記憶にある覆面を被っていた。鳥を模した黄色と黒のマスク。ベテランのエンカウンターをも圧倒する新人エンカウンター。
 マスクから亜麻色の髪がはみ出している。
 身長は高い。185センチはある。
「よう」
 男が気さくに片手を上げた。
「俺も混ぜてくれよ」
 ユウミは口を開く。
「も、もしかしてツグミ……さん?」
「うーん」
 マスクに隠された顔が悪戯っぽく笑ったような気がした。
「外にいた女の子にも言ったんだけど、やっぱマスクはつけないほうが良かったかな? これ、仕事じゃないし」
「あなたどういうつもり?」
 ユキの姿をしたマライアがたずねた。咎めるふうな口調だ。
「せっかく私が楽しんでいるのに、横から邪魔してくるなんて非常識ではなくて?」
「いや、いい大人が子供をいたぶるほうが非常識だと思うぜ」
 ツグミがそこまで言ったときブブーッと警告音が鳴った。機械的な声が宣告する。
「乱入ペナルティ、3000ポイント!」
 突然、ツグミの頭上から雷撃が下る。身体が明滅した。
「ぐおぉぉぉぉぉぉっ!」
 のけぞって叫ぶがツグミは倒れない。さすがはプロと言うべきか、数秒で彼は体勢を直した。
 ふうっと息をつく。
「全く、いつもながらこいつは効くぜ」
「サキちゃん!」
 ユキが声を荒げた。
「何をやっているの、部外者を入れちゃダメじゃない!」
「あ、えーと」
 帰ってきたのはサキの声ではなかった。
 若い女性だ。
「女の子だったらもういませんよ。さっきセキュリティの人に連れて行かれましたから」
「おばさんもこのエンカウントが終わってから連行な」
 とツグミ。
 スピーカーの声の主らしき女性に。
「カモメ、それでいいよな?」
「あんまり無茶しないでよ、つーくん。それと、起爆スイッチみたいなものを女の子が持っていたわ。どうやら爆弾うんぬんは本当みたい。今、セキュリティに探してもらってる」
 ツグミが親指を立てた。
「OK、爆弾はそっちに任せた。俺はこっちを片づける」
「任せたって……私、爆発物処理班じゃないんだけど」
 カモメのつっこみを無視してツグミが右手を上げた。「バードディフェンス」の効果でユキのターンは終わっている。ルール上、行動順はユウミではなく乱入したツグミがユキの次となっていた。
 ペナルティを課されたため生命力は2000に減少している。
「俺のターン!」
 覆面プロエンカウンター・ツグミの戦いが始まった。
 
 
 
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