第47話 とにかく全部ぶちのめす

文字数 2,455文字

「ツグミさんっ!」
 バトルを始めようとするツグミをユウミは呼び止める。
「攻撃はシルバ……赤いドレスのモンスターからにしてください。あれを残しておくととどめが刺せません。マライア……ティアラをつけたモンスターは一番最後に」
 ツグミが振り向いた。
 マスクのせいでよくわからないが、にっこりしたようにも思える。
「OK、アドバイスサンキューな」
 ユウミは顔が熱くなるのを感じる。キムのときとは違う感覚だった。自分にこんなにも乙女チックな感情があったのかと今さらながら驚かされる。
 それとも危機的状況という特別な場で彼と接しているからときめいているにすぎないのだろうか。
 答えを先延ばしするかのようにユウミは戦いを見守った。
 女帝のマライアの攻撃力は0。
 刹那の荒鷲の攻撃力は5500。
 ユキの生命力は残り3200。
 刹那の荒鷲でマライアを攻撃できれば(そしてシルバのスキルがなければ)このエンカウントの決着がつく。
 だが、それは不可能な話だった。
 マライアの能力により、他のモンスターを倒さなければマライアと戦闘できないことになっている。
 マライア以外のモンスターはデイドリームバタフライが三体。
 これを排除しなければならない。
 一体、ツグミはどうやってこれを攻略するのか。
 ユウミはごくりと唾を飲んだ。
 ツグミが宣言する。
「じゃあいくぜっ、刹那の荒鷲でシルバを攻撃!」
 巨大な猛禽類が眼光を光らせ、赤いドレスの女に特攻をかける。
 あっという間に両者の間隔は縮まり、荒鷲が無慈悲なまでの正確さでシルバの身体をその嘴で貫いた。
 ……かと思われた。
 ユキが告げる。
「幻影のミラのスキル。一ターンに一度、相手モンスターの攻撃対象を変更する」
 瞬間。
 刹那の荒鷲が突き刺した相手がシルバからプロムに変わる。
「うおっ?」
 意表を突かれたのか、ツグミが短く声をもらした。
 さらにユキが発動させる。
「リンボにあるデイドリームバタフライ・守りのモリマのスキル。自分フィールド上のデイドリームバタフライが破壊され戦闘ダメージが発生するとき、このカードをゲームから除外してダメージを0にする」
 ツグミが舌打ちした。
「ちっ、やるな」
「まだよ、次は破壊された不知火のプロムのスキル。このモンスターが戦闘で破壊されたとき、私は生命力を1800回復する」
 ユキが金色に輝く。
 生命力が5000に上がった。
 すかさずツグミが行使する。
「リンボにある双頭の禿鷹のスキル! フィールドに存在するビッグバードと名のつくモンスターの攻撃回数を二回増やす!」
 怒濤の連撃だ。
「いくぜっ、刹那の荒鷲で……」
 ユキが遮った。
「残念。その前にリンボのデイドリームバタフライ・癒しのエリーとデイドリームバタフライ・憤怒のカイヤのスキルを発動よ「
 魔法のコストに用いられたモンスターが次々と壁と化している。
 ユウミは苦々しい気持ちで口を結んだ。
 このデッキかなり厄介だ。
 ユキが楽しそうに言った。
「まず癒しのエリーのスキル。相手のモンスターが攻撃を再度行うとき、リンボにあるこのカードともう一体のデイドリームバタフライモンスターをゲームから除外して発動する。私は生命力を3000回復する」
 ユキの身体が金色の光を纏った。
 残り生命力は8000。
「ちっ!」
 ツグミがまた舌を打った。
「面倒なことをしやがって」
「あら、こんなことで弱音? 私をぶちのめすんでしょ?」
 挑発するユキにツグミが応じた。
「OK」
 ゆっくりと首肯する。
「ややこしいのはなしだ。とにかく全部ぶちのめす。あんたの生命力も0にする。シンプルにいくぜ」
 ん?
 このセリフにユウミはどこか引っかかる。
 何か、これと似たようなこと前に聞いたような……。
 しばし頭を巡らせるが答えは出てこない。
 ユウミは頭を振った。
 まあ、いいか。
 今はエンカウントに集中しよう。
 ユキがスキルの発動を連続させた。
「憤怒のカイヤのスキル。相手プレイヤーが同じモンスターで攻撃しようとしたとき、このカードをゲームから除外して発動する。相手プレイヤーに2000のダメージを与える」
「ツグミさんっ!」
 やばい。
 ツグミの生命力はあと1200。
 これを食らったら負ける。
 ユキのリンボが赤く光を放ち、中から炎の矢が射られた。
 何発発射されたのかは不明だ。
 炎の矢の雨がツグミに降り注ぐ。
 ツグミが手札から一枚掴んだ。
「魔法カード『ハーフダメージ』を発動! 俺の受けるダメージは半分になる!」
 ドスドスドスドスドスドスドスドス!
 全ての炎の矢がツグミの身を焼く。炎の赤がやけに薄くゆらめいていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
 雄叫びにも近い叫び声が炎の音と重なる。
 ツグミは崩れなかった。
 炎に耐え、膝をつくことすらなくその場に立っている。
 生命力は残り200。
 彼の目が鋭く笑んだ。
「これで終わりか?」
 ユキの答えは待たずに続ける。
「なら、俺の番だな……食らわせろっ、刹那の荒鷲でシルバを攻撃!」
 巨大な荒鷲が赤いドレスのモンスターにツッコミ四散させる。
 ユキに2900のダメージが通った。
 よし。
 ユウミはぐっと拳を握る。
 これでミラを討てばマライアに攻撃できる。
 ツグミが三回目の攻撃命令を下す。
「こいつでザコは全滅だ。いけっ、刹那の荒鷲でミラを攻撃!」
 攻撃力の差は否めなかった。
 あっさりとミラを仕留めると刹那の荒鷲はまだ物足りないとでも言いたげに一つ鳴く。
 ユキの生命力はあと2000。
 ユキが嘆息した。
「可哀想なデイドリームバタフライたち。けど、安心して」
 邪悪な微笑みを浮かべる。
「また私のターンで蘇らせてあげるから。それまで待っていてね」
 え?
 ユウミは耳を疑った。
 あのモンスターたち戻ってくるの?
 
 
 
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