第11話 赤き魂を宿すもの

文字数 1,819文字

 身体の力が抜け、再びユウミは両膝をつく。
 今の手札ではできることがなかった。リンボに送った三体の召喚素材もスキルのコストとしてゲームから除外されている。これではリンボにいながら発動できるスキルがあったとしても無理だ。
「どうした。やることがなければさっさとターンエンドしろ」
「……あたしはこれで、ターンエンド」
 ユウミは女の子に目を向ける。
 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
 自分が情けなくなる。
 そんなユウミの思いとは無関係に倉石が右手を天に伸ばす。
「俺のターン!」
 アルカナシステムは無情に、しかし正確にプロセスを進行させる。倉石の右手にカードが現れた。
 倉石が素早く左手の手札と右手の一枚を入れ替える。
 カードが宙を舞った。
「現れろ! カテゴリー3、朋友のジーン!」
 出てきたのは薄赤い装束の男。突撃のスレンダーよりも背は低い。手には炎の刃のナイフ。
 火属性で攻撃力は1500。
 スキル発動。
「朋友のジーンの召喚に成功したとき、手札のカテゴリー3以下のファイヤナイフモンスター一体を特殊召喚できる!」
 倉石が左手のカードを右手で放った。
「現れろ、尖兵のデニム!」
 呼び出しに応じて赤い装束の男が姿を見せる。
 倉石の前に三体のファイヤナイフモンスターがそろった。右手側から突撃のスレンダー、朋友のジーン、尖兵のデニムといった順である。
 全員が炎の刃のナイフを構え、ユウミに無言のプレッシャーを与えていた。
 三体の攻撃力はいずれもライトニングマジシャンよりも低い。
 けれどもユウミは先を読んでいた。
 来る。
 倉石が左手の二枚のうちの一枚を選んだ。
「俺は魔法カード『ミックス』を発動! フィールド上のファイヤナイフモンスター三体を素材にミックス召喚を行う!」
 ぐにゃり。
 三体のモンスターごと空間が歪む。
 ぐるぐると円を描くように空間がねじれ、その中心から一体のモンスターが誕生した。
 変異した空間で炎が揺らぐ。
「赤き魂を胸に宿し、烈火の炎で全てを焼け……」
 空間から炎が放出し、人の姿となった。
 倉石の声が高まる。
「現れろ、カテゴリー4、ファイヤナイフ・紅蓮のシャア!」
 それはこれまでで一番美しい赤。
 焦がしそうな炎の色を身にまとっている。燃え盛る炎の刃は明らかに今までとは別物だ。紅蓮の衣に紅蓮の刃のナイフ。おそらくはファイヤナイフの中で高次の存在なのだろう。
 攻撃力3500の火属性ミックスモンスター。
 やばい。
 ユウミは心の中でつぶやく。
 ライトニングマジシャンより強い。
 やばい。
 こちらの手札ではバトルで補助できない。
 倉石が言った。
「紅蓮のシャアのスキル発動! このスキルを使うと相手モンスターを破壊できなくなるが、ターン終了時までこのモンスターの攻撃を三回にする!」
「なっ」
 紅蓮のシャアが青白く輝く。
「さらに魔法カード『炎の進撃』を発動! このターン、相手は攻撃を無効にできない!」
 ユウミはあえて悔しそうに唇を噛んでみせた。
 手札は一枚。
 倉石が続ける。
「なおこの魔法の発動時、相手はカードを一枚ドローできる」
 挑発的に。
「さあ、カードを引け! その後で力の差を思い知らせてやる!」
「ぐっ……」
 ユウミは身を強ばらせる。
 状況はかなり不利。
 ライトニングマジシャンと紅蓮のシャアとの攻撃力の差は1000。
 しかもあちらは三回攻撃。
 おまけにこちらは攻撃を無効にすることもできない。
 やばい。
 やばすぎる。
 ここで逆転の一枚をドローできなければ、本当に追いこまれてしまう。
 ユウミは大きく息をついた。
 ……よし。
 右手を突き上げる。
「ドロー!」
 手の内に宿るカード。
 しかし……。
「『セカンドアタック』」
 落胆が顔に出たのだろう。
 倉石が勝ち誇った表情で命じる。
「やれっ、紅蓮のシャアでライトニングマジシャンを攻撃!」
 こくりと紅蓮のシャアがうなずき、ワンアクションでライトニングマジシャンに斬りかかる。
 ライトニングマジシャンが身をのけぞらせた。
 攻撃力の差の1000ポイントがダメージとなる。
 やばい。
 ユウミは手札の一枚を右手でつかむ。
 タイミングを見計らった。
 倉石の声。
「まだだ、やれ! 二回目!」
 紅蓮のシャアが再び攻めてきた。
 
 
 
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