第42話「デイドリームバタフライ」のユキ
文字数 2,657文字
エンカウントが始まってすぐにユウミは後攻めを主張した。
「あたしが後攻になるっ!」
「あら、私はそれで構わないわよ」
ユキが了承し、ユウミが後攻権を得た。
先攻となったユキが天を仰ぎ、手を伸ばす。
「私のターン」
現出する一枚のカード。
ちらと見ると左手の一枚と交換して投げた。
「私はカテゴリー3のデイドリームバタフライ・陽炎のシルバを召喚」
カードが赤いドレスを纏った背の高い女に変化する。腰まである長い黒髪の痩せた女だ。蝶々を模した黒いアイマスクをつけていた。唇の紅さがやけに艶やかで、仮面舞踏会にいたら男が放っておかなそうな感じだ。
闇属性で攻撃力は1600。
ユキがもう一枚切る。
「魔法カード『デイドリームダンス』を発動、デッキからデイドリームバタフライと名のつくモンスターを三体リンボに送り、次の私のターン開始時までシルバの破壊を無効にし攻撃力を二倍にする」
シルバが青白い光に包まれる。
攻撃力を示す横の数字が白から赤になった。
3200。
ユウミはユキのモンスターを凝視した。
攻撃力の高さは厄介だが破壊耐性がついたのはもっと厄介だ。
早々にこのエンカウントを終わらせるためにもユキの壁となるモンスターはいないにこしたことがない。
だが……。
ユウミは自分の手札に意識を向ける。
この手札ならモンスターを破壊できなくてもどうにかなる。そんな自信があった。ユウミは自分のターンでどうするべきかをイメージする。手順を間違えぬよう注意しなければならなかった。
バサッ。
もう耳に馴染んだ羽音が聞こえた。
クゥ。
まだ姿は見えない。しかしあのフクロウがここにやって来たであろうことは想像に難くなかった。
ユキが左手からカードを引き抜く。
それも投げた。
「魔法カード『バタフライポイズン』を発動。デッキからモンスターを一体リンボに送り、相手プレイヤーに1000のダメージを与える」
突如、三十センチほどの白い蝶が現れた。
蝶はユウミのまわりをふわりふわりと舞うように飛び、金色に光る鱗粉をまき散らす。
ユウミはその鱗粉を浴びてしまった。
鱗粉に触れた瞬間、じゅわっと焼けるような痛みが走る。それはすぐに治まったが何とも不快だった。
ユウミの生命力が5000から4000に減じる。
ふふっとユキが不敵に笑った。
「サキちゃんがお世話になったお礼はたっぷりしてあげなくちゃね。私はこれでターンエンド」
そんなものに付き合うつもりはない。
ユウミは右手を上げた。
「あたしのターン!」
右手に宿るカード。
ユウミは入手したカードを左手の手札に加え、予定通りにモンスターカードを右手で放った。
「あたしはカテゴリー3のスピアマジシャンを召喚!」
カードが槍を持った男になる。
濃い緑色のローブを着た男だ。フードを被り、男の背丈の二倍くらいの黒い槍を装備している。男がそれを軽々と振り回し、敵に見せつけるかのように構えた。
光属性で攻撃力は1800。
ユウミはさらに手順を進める。
「魔法カード『威力倍増』を発動! 手札を一枚リンボに送り、ダメージを与えるタイプのスキルの効果を二倍にするっ!」
リンボに捨てるカードは初めから決めていた。
ユウミは『威力倍増』の効果でスキルをパワーアップさせたスピアマジシャンのスキルを行使する。
「スピアマジシャンのスキル! このモンスターが通常召喚に成功した場合、相手プレイヤーにこのカードの攻撃力の半分のダメージを与える!」
このスキルによるダメージは通常900。
だが、魔法により数値は二倍の1800となっていた。
スピアマジシャンが大きなモーションで投擲態勢をとる。
「オラァッ!」というかけ声とともに素早く槍を放り投げた。
ぶぅんと空を切り裂く音を響かせ槍は一直線にユキへと飛んでいく。
かすめるようにシルバの脇を抜け、敵本体であるユキの身体を貫いた。
「ぐっ」
短いうめき声。
痛みは相当であろうにも関わらずユキの苦しげな態度は薄い。娘が観戦している手前、強がっているのだろうか。
ユウミはそうかもしれないと判じ、次の一手を打った。
リンボから発動するスキル。
「リンボにあるアゲインマジシャンのスキル! フィールド上またはリンボのこのカードをゲームから除外し、すでに発動した自分の魔法・スキルの再発動、もしくは攻撃の終えたモンスターによる攻撃を再度行う!」
一呼吸おき、ユウミは告げた。
「再発動するのはスピアマジシャンのスキル!」
スピアマジシャンの槍が再びユキに突き刺さる。
「あうくぅっ」
またも短いうめき。
ユキの生命力が1400まで下がった。
ユウミはよし、と拳を握る。
これならいける!
右手でカードを掴んだ。
「魔法カード『マジシャンコール』を発動! 手札にあるマジシャンと名のつくモンスター一体を特殊召喚する!」
勝利への予感が強まった。
「あたしはカテゴリー3のミックスマジシャンを特殊召喚!」
松戸店長に頼んでいたカードだった。
七色のローブに虹色のとんがり帽子といった格好の少女が出現する。両手にはバスケットボール大の水晶玉。赤毛の髪をセミロングにしたその少女はユウミの考えを読み取ったのかと思うくらいのタイミングで水晶玉を高く掲げた。
光属性で攻撃力は1000。
「ミックスマジシャンのスキル! このモンスターを素材とした場合、魔法カード『ミックス』を使わずにミックス召喚できる!」
そうなんだ、とでも言いたげにユキがうなずく。
癪に障るがユウミはそれにつっこむことなくプロセスを踏んだ。
ミックスマジシャンの水晶玉が輝く。
「あたしはカテゴリー3のスピアマジシャンとミックスマジシャンを素材にミックス召喚!」
ぐにゃり。
二体のモンスターを巻き込んで空間が歪んでいく。回転するようにねじれた空間からやがて一体のモンスターが目を覚ました。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
姿を見せたのは長い金髪を三つ編みにした女魔法使い。
赤地に黄色い稲妻の模様のあるローブを身に纏い、先端がバチバチと放電する杖を手にしている。
光属性でカテゴリー4。
攻撃力は2500。
ユウミのエースモンスターで「魔術師。(マジシャン)」のアルカナカードである。
「あたしが後攻になるっ!」
「あら、私はそれで構わないわよ」
ユキが了承し、ユウミが後攻権を得た。
先攻となったユキが天を仰ぎ、手を伸ばす。
「私のターン」
現出する一枚のカード。
ちらと見ると左手の一枚と交換して投げた。
「私はカテゴリー3のデイドリームバタフライ・陽炎のシルバを召喚」
カードが赤いドレスを纏った背の高い女に変化する。腰まである長い黒髪の痩せた女だ。蝶々を模した黒いアイマスクをつけていた。唇の紅さがやけに艶やかで、仮面舞踏会にいたら男が放っておかなそうな感じだ。
闇属性で攻撃力は1600。
ユキがもう一枚切る。
「魔法カード『デイドリームダンス』を発動、デッキからデイドリームバタフライと名のつくモンスターを三体リンボに送り、次の私のターン開始時までシルバの破壊を無効にし攻撃力を二倍にする」
シルバが青白い光に包まれる。
攻撃力を示す横の数字が白から赤になった。
3200。
ユウミはユキのモンスターを凝視した。
攻撃力の高さは厄介だが破壊耐性がついたのはもっと厄介だ。
早々にこのエンカウントを終わらせるためにもユキの壁となるモンスターはいないにこしたことがない。
だが……。
ユウミは自分の手札に意識を向ける。
この手札ならモンスターを破壊できなくてもどうにかなる。そんな自信があった。ユウミは自分のターンでどうするべきかをイメージする。手順を間違えぬよう注意しなければならなかった。
バサッ。
もう耳に馴染んだ羽音が聞こえた。
クゥ。
まだ姿は見えない。しかしあのフクロウがここにやって来たであろうことは想像に難くなかった。
ユキが左手からカードを引き抜く。
それも投げた。
「魔法カード『バタフライポイズン』を発動。デッキからモンスターを一体リンボに送り、相手プレイヤーに1000のダメージを与える」
突如、三十センチほどの白い蝶が現れた。
蝶はユウミのまわりをふわりふわりと舞うように飛び、金色に光る鱗粉をまき散らす。
ユウミはその鱗粉を浴びてしまった。
鱗粉に触れた瞬間、じゅわっと焼けるような痛みが走る。それはすぐに治まったが何とも不快だった。
ユウミの生命力が5000から4000に減じる。
ふふっとユキが不敵に笑った。
「サキちゃんがお世話になったお礼はたっぷりしてあげなくちゃね。私はこれでターンエンド」
そんなものに付き合うつもりはない。
ユウミは右手を上げた。
「あたしのターン!」
右手に宿るカード。
ユウミは入手したカードを左手の手札に加え、予定通りにモンスターカードを右手で放った。
「あたしはカテゴリー3のスピアマジシャンを召喚!」
カードが槍を持った男になる。
濃い緑色のローブを着た男だ。フードを被り、男の背丈の二倍くらいの黒い槍を装備している。男がそれを軽々と振り回し、敵に見せつけるかのように構えた。
光属性で攻撃力は1800。
ユウミはさらに手順を進める。
「魔法カード『威力倍増』を発動! 手札を一枚リンボに送り、ダメージを与えるタイプのスキルの効果を二倍にするっ!」
リンボに捨てるカードは初めから決めていた。
ユウミは『威力倍増』の効果でスキルをパワーアップさせたスピアマジシャンのスキルを行使する。
「スピアマジシャンのスキル! このモンスターが通常召喚に成功した場合、相手プレイヤーにこのカードの攻撃力の半分のダメージを与える!」
このスキルによるダメージは通常900。
だが、魔法により数値は二倍の1800となっていた。
スピアマジシャンが大きなモーションで投擲態勢をとる。
「オラァッ!」というかけ声とともに素早く槍を放り投げた。
ぶぅんと空を切り裂く音を響かせ槍は一直線にユキへと飛んでいく。
かすめるようにシルバの脇を抜け、敵本体であるユキの身体を貫いた。
「ぐっ」
短いうめき声。
痛みは相当であろうにも関わらずユキの苦しげな態度は薄い。娘が観戦している手前、強がっているのだろうか。
ユウミはそうかもしれないと判じ、次の一手を打った。
リンボから発動するスキル。
「リンボにあるアゲインマジシャンのスキル! フィールド上またはリンボのこのカードをゲームから除外し、すでに発動した自分の魔法・スキルの再発動、もしくは攻撃の終えたモンスターによる攻撃を再度行う!」
一呼吸おき、ユウミは告げた。
「再発動するのはスピアマジシャンのスキル!」
スピアマジシャンの槍が再びユキに突き刺さる。
「あうくぅっ」
またも短いうめき。
ユキの生命力が1400まで下がった。
ユウミはよし、と拳を握る。
これならいける!
右手でカードを掴んだ。
「魔法カード『マジシャンコール』を発動! 手札にあるマジシャンと名のつくモンスター一体を特殊召喚する!」
勝利への予感が強まった。
「あたしはカテゴリー3のミックスマジシャンを特殊召喚!」
松戸店長に頼んでいたカードだった。
七色のローブに虹色のとんがり帽子といった格好の少女が出現する。両手にはバスケットボール大の水晶玉。赤毛の髪をセミロングにしたその少女はユウミの考えを読み取ったのかと思うくらいのタイミングで水晶玉を高く掲げた。
光属性で攻撃力は1000。
「ミックスマジシャンのスキル! このモンスターを素材とした場合、魔法カード『ミックス』を使わずにミックス召喚できる!」
そうなんだ、とでも言いたげにユキがうなずく。
癪に障るがユウミはそれにつっこむことなくプロセスを踏んだ。
ミックスマジシャンの水晶玉が輝く。
「あたしはカテゴリー3のスピアマジシャンとミックスマジシャンを素材にミックス召喚!」
ぐにゃり。
二体のモンスターを巻き込んで空間が歪んでいく。回転するようにねじれた空間からやがて一体のモンスターが目を覚ました。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
姿を見せたのは長い金髪を三つ編みにした女魔法使い。
赤地に黄色い稲妻の模様のあるローブを身に纏い、先端がバチバチと放電する杖を手にしている。
光属性でカテゴリー4。
攻撃力は2500。
ユウミのエースモンスターで「魔術師。(マジシャン)」のアルカナカードである。