第50話 愚かなのは……(橘ユキ戦・決着)
文字数 2,256文字
ユウミのエースモンスターの登場にユキの目が露骨に吊り上がる。マライアも苛立たしげにロッドで地を叩いた。二人、いやマライアがジュリア(ライトニングマジシャン)を歓迎していないのは明白だ。
ユキが言った。
「性懲りもなくまた出てきたのね。可哀想に、所有者が愚かだと大変ね」
ライトニングマジシャンは応えない。
プルーパと戦ったときにクゥが口にした言葉をユウミは思い出した。
そうだ、アルカナカードは所有者に取り憑くものと取り憑かないものがあるんだった。
おそらくライトニングマジシャンは後者なのだろう。
そうであってほしいと思う一方でもしライトニングマジシャンが自分に憑依したらどうなるのだろうという興味も沸く。ジュリアとして自分が何を語るのか。何をするのか。
ユウミは軽く首を振って雑念を払う。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
きっ、とユキとマライアを睨みつけ、スキルを発動させた。
「ライトニングマジシャンのスキル! このモンスターの召喚素材を全てゲームから除外し、その攻撃力の合計の数値分このカードの攻撃力をアップさせる!」
ライトニングマジシャンの身体が青白く光った。
攻撃力を示す数字が白から赤になる。
5500。
「ユウミ!」
クゥが近寄ってきた。
「そんなことをしてもマライアには無意味だ」
「ふふっ、そうね」
ユキが首肯する。
両腕を組んで少しだけ首を傾けた。
「ジュリアがどれだけ強くなろうと私には届かない。せいぜい分身を焦がす程度だわ。そして、その分身はすぐに蘇る」
ユウミは黙って聞いていた。
それくらいもうわかっている。
叩くべき相手は敵本体。
どうするべきかすでに決めていた。
ユキがスキルを使ってくる。
「女帝のマライアのスキル。相手モンスターが攻撃力をアップさせたとき、その数値分私の生命力を回復させる」
ユキが金色の光を纏う。
生命力の数字は500から3500に。
ふふふっと妖しく笑いながらユキが腕組みしたまま胸を張った。その仕草は自分の力を娘に誇示する継母のそれだった。
ユキとマライアの声が重なる。
「たとえあなたが皇帝の実の娘だとしても、あなたは私には勝てない。いくらあの隠者の導きを得ようと、愚者の助けを受けようと、あなたに待つのは敗北という『物語』のみ」
「ユウミ!」
クゥが喚く。
「ライトニングマジシャンを守るんだ。君がユウカに会いたいのなら、そのカードを奪われてはいけないっ!」
そう。
ライトニングマジシャンを渡したりはしない。
ユウミは拳を握った。
このエンカウントに勝利する。
ライトニングマジシャンも守る。
ユウミは指をパチンと鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンでマライアを攻撃!」
女魔法使いが杖を構え、その先端に光球を宿らせる。
スパークする光球。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が一メートルほどの大きさになる。
叫んだ。
「ライトニングマジック!」
放たれた光球が一直線にマライアへと飛んでいく。
「ムダなことを……」
ユキが目をつぶり、嘆息した。
ライトニングマジックを受けた女帝のマライアが金切り声を上げながら崩壊する。やけにあっさりとした終わり方であった。抵抗らしい抵抗もない。
ユキに3000のダメージがいくが涼しい顔だ。光球の光の余波は浴びているはずだというのに……。
「化け物だな」
ツグミがぽつりと言った。
ユウミも激しく同意する。
あれは化け物だ。
女帝の「物語」を持つ化け物。
ゆっくりとユキが腕組みを解く。
指先がライトニングマジシャンを差す。
「やっぱりね。あなたの力ではそれが限界。本当に可哀想だわ、所有者がもっと賢ければ恥も晒さずに済んだのに」
「……言いたいことはそれだけ?」
ユウミはたずねた。
ユキがきょとんとする。
その様子にユウミは口許を緩めた。
「そうかっ!」
クゥが気づいたらしい。
ユウミはスキルを用いた。
「リンボにあるツーハンドナイフマジシャンのスキル! このカードをデッキに戻して発動する! 自分フィールド上のモンスター一体を選択し、そのモンスターの攻撃力を半分にして再度攻撃可能にする!」
ライトニングマジシャンの身体が緑色に光る。
攻撃力は2750。
ユキの生命力は残り500。
ツグミが拳を突き上げた。
「よっしゃーっ、ぶちのめしてやれ!」
ユウミはにんまりとしてみせ、命じる。
「ライトニングマジシャンで敵本体を攻撃!」
ユキの笑みが消えていた。
女魔法使いが二撃目の光球を肥大化させる。
ユウミはユキの中にいるマライアに告げた。
「あなたの『物語』なんかに負けないっ!」
「こ……小娘のくせに」
顔を歪め、ユキ……いやマライアが怒鳴った。
「小娘のくせに無礼な! 私を誰だと……」
「ライトニングマジック!」
吠える継母に光球をぶち込んだ。
着弾とともに禍々しい女の怒声があたりに響く。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!」
感電し、ズタボロになって倒れたユキの身体から黒いオーラのようなものが抜けていく。すうっとそれは消えていった。
ユキの生命力が0になる。
ユウミの口が動き、エンカウントの終了を知らせるブザーの音に隠れた。
「愚かなのはあなたのほうよ、お継母様」
ユキが言った。
「性懲りもなくまた出てきたのね。可哀想に、所有者が愚かだと大変ね」
ライトニングマジシャンは応えない。
プルーパと戦ったときにクゥが口にした言葉をユウミは思い出した。
そうだ、アルカナカードは所有者に取り憑くものと取り憑かないものがあるんだった。
おそらくライトニングマジシャンは後者なのだろう。
そうであってほしいと思う一方でもしライトニングマジシャンが自分に憑依したらどうなるのだろうという興味も沸く。ジュリアとして自分が何を語るのか。何をするのか。
ユウミは軽く首を振って雑念を払う。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
きっ、とユキとマライアを睨みつけ、スキルを発動させた。
「ライトニングマジシャンのスキル! このモンスターの召喚素材を全てゲームから除外し、その攻撃力の合計の数値分このカードの攻撃力をアップさせる!」
ライトニングマジシャンの身体が青白く光った。
攻撃力を示す数字が白から赤になる。
5500。
「ユウミ!」
クゥが近寄ってきた。
「そんなことをしてもマライアには無意味だ」
「ふふっ、そうね」
ユキが首肯する。
両腕を組んで少しだけ首を傾けた。
「ジュリアがどれだけ強くなろうと私には届かない。せいぜい分身を焦がす程度だわ。そして、その分身はすぐに蘇る」
ユウミは黙って聞いていた。
それくらいもうわかっている。
叩くべき相手は敵本体。
どうするべきかすでに決めていた。
ユキがスキルを使ってくる。
「女帝のマライアのスキル。相手モンスターが攻撃力をアップさせたとき、その数値分私の生命力を回復させる」
ユキが金色の光を纏う。
生命力の数字は500から3500に。
ふふふっと妖しく笑いながらユキが腕組みしたまま胸を張った。その仕草は自分の力を娘に誇示する継母のそれだった。
ユキとマライアの声が重なる。
「たとえあなたが皇帝の実の娘だとしても、あなたは私には勝てない。いくらあの隠者の導きを得ようと、愚者の助けを受けようと、あなたに待つのは敗北という『物語』のみ」
「ユウミ!」
クゥが喚く。
「ライトニングマジシャンを守るんだ。君がユウカに会いたいのなら、そのカードを奪われてはいけないっ!」
そう。
ライトニングマジシャンを渡したりはしない。
ユウミは拳を握った。
このエンカウントに勝利する。
ライトニングマジシャンも守る。
ユウミは指をパチンと鳴らした。
「いくよっ! ライトニングマジシャンでマライアを攻撃!」
女魔法使いが杖を構え、その先端に光球を宿らせる。
スパークする光球。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
光球が一メートルほどの大きさになる。
叫んだ。
「ライトニングマジック!」
放たれた光球が一直線にマライアへと飛んでいく。
「ムダなことを……」
ユキが目をつぶり、嘆息した。
ライトニングマジックを受けた女帝のマライアが金切り声を上げながら崩壊する。やけにあっさりとした終わり方であった。抵抗らしい抵抗もない。
ユキに3000のダメージがいくが涼しい顔だ。光球の光の余波は浴びているはずだというのに……。
「化け物だな」
ツグミがぽつりと言った。
ユウミも激しく同意する。
あれは化け物だ。
女帝の「物語」を持つ化け物。
ゆっくりとユキが腕組みを解く。
指先がライトニングマジシャンを差す。
「やっぱりね。あなたの力ではそれが限界。本当に可哀想だわ、所有者がもっと賢ければ恥も晒さずに済んだのに」
「……言いたいことはそれだけ?」
ユウミはたずねた。
ユキがきょとんとする。
その様子にユウミは口許を緩めた。
「そうかっ!」
クゥが気づいたらしい。
ユウミはスキルを用いた。
「リンボにあるツーハンドナイフマジシャンのスキル! このカードをデッキに戻して発動する! 自分フィールド上のモンスター一体を選択し、そのモンスターの攻撃力を半分にして再度攻撃可能にする!」
ライトニングマジシャンの身体が緑色に光る。
攻撃力は2750。
ユキの生命力は残り500。
ツグミが拳を突き上げた。
「よっしゃーっ、ぶちのめしてやれ!」
ユウミはにんまりとしてみせ、命じる。
「ライトニングマジシャンで敵本体を攻撃!」
ユキの笑みが消えていた。
女魔法使いが二撃目の光球を肥大化させる。
ユウミはユキの中にいるマライアに告げた。
「あなたの『物語』なんかに負けないっ!」
「こ……小娘のくせに」
顔を歪め、ユキ……いやマライアが怒鳴った。
「小娘のくせに無礼な! 私を誰だと……」
「ライトニングマジック!」
吠える継母に光球をぶち込んだ。
着弾とともに禍々しい女の怒声があたりに響く。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえっ!」
感電し、ズタボロになって倒れたユキの身体から黒いオーラのようなものが抜けていく。すうっとそれは消えていった。
ユキの生命力が0になる。
ユウミの口が動き、エンカウントの終了を知らせるブザーの音に隠れた。
「愚かなのはあなたのほうよ、お継母様」