第29話 遊びじゃないのよ!

文字数 2,143文字

 ユウミたちは一番近い端末がある第五公園に移動した。「マリーズカフェ」から歩いて五分ほどである。
「ところで」
 歩きながらユウミは以前から不思議に思っていたことを聞いた。
「どうしてハルキストの人たちはあたしを狙わないの? 自分で言うのも何だけど真っ先に標的にすべき相手なんじゃない?」
「その答えは簡単です」
 と、サツキ。
「ハルキくんの大切な幼馴染みですから。もちろんその立場を快く思わぬメンバーもいますけど、あなたをいじめたらハルキくんに嫌われるに決まってますしね。わざわざそんな真似をする道理がありません」
「そ、そうなんだ」
 大切な幼馴染みという言葉に少しユウミは照れてしまう。隣にいるスズメがわずかに顔をしかめた。彼女にとっては敵であるサツキと話をしたのが気に障ったのかもしれない。ユウミは小さくうなずき、それからちょっとだけスズメとの距離を詰めた。
「スズメちゃん」
 あえて声を弾ませる。
「タッグバトル楽しみだね」
「あんたね」
 呆れたように。
「何呑気なこと言ってるのよ、これ遊びじゃないのよ」
「え? ゲームだよ、これ」
 スズメがあからさまにため息をついた。
「本当にこの子は……」
「あのさ」
 ハズキが割り込む。
「話してるところ悪いんだけどちょっと確認させてくれる?」
 ユウミに向けられていた。
「あなた、ハルキくんのことどう思ってるの?」
「ただの幼馴染み。あ、大事な仲間、かな?」
 間を置かずに返す。
「好きではないんですか? あんなに親しくしているではありませんか」
 サツキの言いたいことはわかるものの、ユウミにその気はなかった。
 だから告げた。
「ハルキと恋人関係になるつもりはないよ」
「そうですか」
 ややほっとした様子でサツキが微笑む。
 ハヅキも笑みを浮かべた。
「なら、今後もハルキストは狙ったりしないよ。私が保証する」
 次に、スズメを睨みつける。
「裏切り者は別だけどね」
「だ・か・ら、私はハルキストじゃないっての」
 心底うんざりしたふうにスズメが嘆息する。
 第五公園は小規模ながらもエンカウントするには十分な広さがあった。ユウミたちはデッキをアルカナシステムの端末にセットし、互いの立ち位置につく。ゲーム設定は四人の中で最もプレイ経験の長いユウミが行った。
「タッグバトルは二人一組のエンカウントになるから。互いに一人ずつターンをこなしてA1・B1とやったらA2・B2と続いてまたA1・B1と繰り返す。あと、最初の一巡目は四人ともモンスターによる攻撃ができないから注意してね」
 ユウミが説明しているうちにアルカナシステムがつつがなくプロセスを進行させた。ユウミとスズメ、そしてハヅキとサツキの身体の横に白い数字が浮かぶ。
 生命力の数値は5000。
「あら」
 サツキがたずねた。
「二人で5000ポイントではないんですね」
「うん。ほら、あたしタッグバトルってほとんどやったことないって言ったよね。だから生命力を共有するタイプだとまごつくかもしれないし。生命力を分けたタイプなら慣れてなくてもやりやすいでしょ? 自分の生命力を自分で管理する訳だし」
「どっちでもいいわよ」
 とスズメ。その右手には五枚のカードがある。
「とにかくあんたたちをぶちのめす! それだけよ!」
「ぶちのめされるの間違いじゃない?」
 サツキが挑発してくる。すでにカードは左手に移っていた。
「では、相手方を全滅させたほうの勝ち……でよろしいのですね?」
 サツキの言葉にユウミは首肯した。
「うん、そうだよ」
「わかりました。では、小松さん」
「な、何よ」
 身構えるスズメにサツキが言った。
「このエンカウントに負けたらハルキくんから離れてください。二度と近づかぬようお願いします。その代わり、もしあなたが勝ったら私たちハルキストは今後アナタに手出ししないとお約束しましょう」
「私たちに勝てればの話だけどね。無理だろうけど」
 まだ勝負していないというのにすでに勝利したかのようにハヅキが高笑いする。
 スズメがハヅキを指差した。
「真っ先に泣かす!」
「す、スズメちゃん落ち着いて」
「うっさい! あんたは足を引っ張らないことだけを考えなさい!」
「う、うん」
 明らかに冷静さを欠いているスズメにユウミは不安を抱かずにはいられなかった。
 せめて自分だけは落ち着こう。
 バサッ……。
 え?
 聞き慣れた羽音がし、思わずユウミは空を見上げる。
 しかし、その姿はなかった。
 クゥ? 来てるの?
「ユウミ!」
 フクロウを探しているとスズメに一喝された。
「ぼうっとしないで集中して! 遊びじゃないのよ!」
「あ、うん。ごめんね」
「全くもう」
 どうやら余計にイライラさせてしまったようだ。
 ユウミは頭を振って雑念を払う。私までこんなんじゃダメだ、と自分に言い聞かせた。
「じゃあ、始めましょうか。新堂さん、どうぞ」
 サツキに促され、ユウミは宣言する。
「そ、それではこれよりあたしとスズメちゃん対、暦さん姉妹によるタッグバトルを始めます!」
 四人の声が重なった。
「「「「エンカウント!」」」」
 
 
 
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