第9話 ファイヤナイフとの戦い、人質の女の子を救え!

文字数 1,928文字

 「お姉ちゃん、がんばれーっ!」
 かすれながらも鳴き叫ぶように女の子が応援する。
 絶対に負けられない。
 ユウミは改めてそう決心する。カードを握る手の力が強まった。
 エンカウント(対戦)開始直後十秒以内にプレイヤーが先攻後攻を宣言しない場合、アルカナシステムによってランダムに先攻が決められる。今回はユウミも倉石も主張しなかったため、アルカナシステムはユウミを先攻に選んだ。
 ユウミは一度目をつぶり、ぱっと開く。
 いくよっ!
 彼女は右手を天に突き上げた。
「あたしのターン!」
 右手に生まれる一枚のカード。
 ちらと見、ユウミはカードを前方へと投げる。
「あたしはカテゴリー2のガードマジシャンを召喚!」
 一瞬にしてカードが黒いローブ姿の魔法使いに変化した。
 黒いとんがり帽子からは白髪がはみ出している。背丈よりも長い杖には野球のボールくらいの大きさの黒い玉がはめ込まれていた。黒いブーツで大地を踏みしめ、しっかりと立っている。
 ガードマジシャンの横には攻撃力を示す白い数字。
 1500。
 ユウミはスキル(能力)を発動させた。
「ガードマジシャンのスキル! このターンの攻撃をしない代わりに、このモンスターの攻撃力は二倍になる!」
 ガードマジシャンの身体が青白い光に包まれた。
 横の数字も赤くなる。
 3000。
 まずはこれでよし。
 最初のターン先攻は攻撃できない。
 どうせ攻められないのなら守りを強化する。
 ユウミははやる気持ちを抑えて言った。
「あたしはこれでターンエンド」
「攻撃できないのを逆手にとったか。なるほど」
 倉石がつぶやき、右手を上げる。
「俺のターン!」
 現出する一枚のカード。
 倉石がそれを左手の手札に加え、別の一枚を右手で投じた。
「俺はカテゴリー3のファイヤナイフ・尖兵のデニムを召喚!」
 倉石の前に赤い装束の男が出現した。
 全身が燃えるように赤い。目の部分だけを露出させた赤い頭巾を被っており表情はわからない。その姿は忍者を連想させた。右手に紅の刃の短剣。いや、あれは炎の刃か。
 火属性で攻撃力は2000。
 闇属性のガードマジシャンのほうが1000高い。
 どういうつもり?
 ユウミが疑問に思っていると、倉石が手札を切った。
「魔法カード『減衰の炎』を発動! この効果により相手モンスター一体の攻撃力は半分になる!」
「なっ!」
 ユウミが驚くのとガードマジシャンの身体が元の黒色に戻るのとが重なった。
 ガードマジシャンの攻撃力の数値も白字になる。
 1500。
 倉石がガードマジシャンを指さした。
「やれっ! 尖兵のデニムでガードマジシャンを攻撃!」
 尖兵のデニムがゆらりと動き、次の瞬間、ガードマジシャンの懐に飛び込んで腹に炎のナイフを突き立てていた。
 なす術もなくガードマジシャンが四散する。
 ユウミに500のダメージ。
 5000からスタートした生命力の残りは4500。
 これが0になったら敗北である。
 だが、戦いはまだ始まったばかりだ。
 ユウミは守りのモンスターを失った動揺を悟られまいとあえて余裕の笑みを浮かべた。
 自分にも言い聞かせる。
 大丈夫。
 このくらい大丈夫。
 しかし……。
「尖兵のデニムのスキル発動! このモンスターが相手プレイヤーに戦闘ダメージを与えたとき、このモンスターを手札に戻し『尖兵のデニム』以外でカテゴリー3以下のファイヤナイフモンスター一体を特殊召喚する」
 倉石が左手のカードを右手で放った。
「現れろ、ファイヤナイフ・突撃のスレンダー!」
 尖兵のデニムと交代するように、さっきよりも濃い赤色の装束をまとった長身の男が出現した。
 手には炎の刃のナイフ。
 火属性で攻撃力は2000。
 尖兵のデニムと同じ数値……ではあるが。
 ユウミはごくりと唾を飲む。
 ……さっきのよりやばそう。
 内心、不安になるが今の手札では戦闘にでもならないと使えるものがない。
 倉石が言った。
「突撃のスレンダーのスキル発動! 自分フィールド上にこのモンスター一体しかいないとき、このモンスターの攻撃力は1000アップする!」
 青白く光るモンスターと赤くなる横の数字。
 攻撃力3000。
 やばい。
 ユウミは左手のカードを一枚抜く。
 倉石が命じた。
「やれっ! 突撃のスレンダーで本体を攻撃!」
 ユウミはカードを投げた。
 突撃のスレンダーが一気に距離を詰め、炎のナイフで突き挿してくる。
 腹部に熱を伴った鋭い痛み。ユウミはあまりのことに声も出なかった。
 両膝をつく。
 そして、前のめりに倒れた。
 
 
 
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