第21話 ユウジロウの弟子は竜使い
文字数 2,152文字
タクシーはユウジロウにより行き先を変えた。
市街地の外れ、広い駐車スペースのあるトランプグループ傘下の総合スポーツ施設にユウミとユウジロウを乗せたタクシーは停車する。
「おじいちゃん?」
てっきり自宅に戻るとばかり思っていたので、この目的地の変更はユウミを戸惑わせた。しかもこんなところに。帰りがけにファミレスに寄るのとは訳が違う。
ユウジロウの考えがわからない。
「ユウミ」
タクシーを降り、建物のエントランスを抜けながらユウジロウが聞いてくる。
「プロになりたいか?」
「え?」
「プロエンカウンターになりたいかと聞いておるのじゃ」
「な……何? 急に」
キムのことはあったが無視を許さない威圧をユウジロウから感じる。
小さなころから目にしてきたプロエンカウンター新堂ユウジロウが老いた身内とだぶって見えた。
どんな苦境においても怯むことなく右手を掲げ、カードをドローする。
あるいは相手の攻撃に負けず魔法カードでカウンターを仕掛ける。
たとえ生命力が一桁になろうともあきらめずにフィールドに立つ。
そんな強い意志を持った新堂ユウジロウが目の前にいた。
「ワシはお前に『ライトニングマジシャン』を託した。それはユウカの形見は娘に持たせるべきではないかと思ったからじゃ」
「……」
「じゃが、それは間違っておったのかもしれん。お前がC級になったのをいい機会と判じたのじゃがな」
ユウミは立ち止まったユウジロウに合わせて歩を止める。
ユウジロウが言った。
「ユウミ、『ライトニングマジシャン』はアルカナカードといって世界に一枚ずつ二十二種類しかない特別なカードの一つじゃ。それだけ所有者であることに責任が伴うし、カードハンターのような連中にも狙われやすい」
ユウミは黙ってユウジロウが続けるのを待つ。
「委員会の中にもアルカナカードを集めようとする輩がおるようじゃ。雲成委員長は総意ではないと言って追ったがそれが真実か否かワシにはわからん」
「……」
「いざとなればお前が一人でカードを守らねばならん。そのためにも己の力を高めておく必要がある」
それは理解できた。
倉石やサキと対戦し、嫌というほど自分の力の無さを思い知らされてきたのだ。
もっと強くなりたい。
そのためにも自分の戦うステージを上げ、より強い相手と相まみえて経験を積んでいかねばならない。
自分には「エンカウントモンスターズ」しかないのだから……。
「おじいちゃん」
ユウミは告げた。
「あたし、プロになりたい」
「なりたい……か」
ユウジロウが小さく嘆息する。
「それではいかんのじゃよ」
「えっ?」
意味がわからなかった。
数人の先客がいたがユウジロウはとある人物の元へと真っ直ぐ向かう。ロビーの長いすに座るその背中は中肉の男性を思わせた。
近づくと気配に気づいたのか振り向いて立ち上がる。
薄緑色のジャケットに白いシャツ、淡い灰色のスラックスといった出で立ちの男はどこか見覚えがあった。
ユウミが思い出そうとしている間に男が長いすを回り込み、ユウミたちに歩み寄ってくる。
履いているのは茶色い革靴だ。
「言いつけ通り来ましたよ、先生」
背はユウミが思っていたよりある。
175センチくらいだろうか。中肉とはいえ肉づきのバランスはとれているようにも見える。
オールバックの黒髪を軽く手でとかし、男が言った。
「でも僕にも休みの予定くらいあるんですから急な呼び出しは勘弁してもらえませんか」
「リーグ戦明けからあちこちほっつき歩いとるのは知っとるぞ」
ありゃ、と言わんばかりに男が苦笑した。
丸い目が細くなる。
目鼻立ちは悪くない。まあまあといったレベルの顔だ。
年齢は二十代後半から三十代前半といったところか。
声は低くてちょっと格好いい。
洋画の吹き替えでもできそうだ。無口で一匹狼のスナイパーとか似合いそう。
「先生には敵わないなぁ」
「弟子のスケジュールはだいたい耳に入ってくるからのう」
ユウジロウが男を紹介した。
「こやつは風見シンゴ、ワシの弟子の一人でプロエンカウンターじゃ」
「いや先生、僕、すでに何度か先生の家にお邪魔してますから紹介なんて要りませんよ」
「そうじゃったな「
ユウジロウがうなずきながら笑う。
「……」
ごめんなさい。
ユウミは心の中で謝った。
あたし、あなたのことあんまり憶えていません。
「こ、こんばんは」
ユウミが挨拶すると風見がいかにも言葉を選んだような感じで言った。
「えと……高校生、なんだよね?」
こうきたか。
自分でも年齢不相応なのはわかっている。
それでも少しショックだった。
ユウジロウが問う。
「準備はできとるな?」
「それはまあ、けどいいんですか? 僕の『エメラルドドラゴン』って一応試合でも使うんですが」
「『エンシェント』を外しておればそれでいい」
「おじいちゃん、何の話?」
何となく予想はしつつもユウミは聞いた。
まさかね、と半分は疑ってはいたが。
しかし、ユウジロウの答えは予想通りであった。
「これからエンカウント(対戦)するんじゃよ、お前とこやつでな」
市街地の外れ、広い駐車スペースのあるトランプグループ傘下の総合スポーツ施設にユウミとユウジロウを乗せたタクシーは停車する。
「おじいちゃん?」
てっきり自宅に戻るとばかり思っていたので、この目的地の変更はユウミを戸惑わせた。しかもこんなところに。帰りがけにファミレスに寄るのとは訳が違う。
ユウジロウの考えがわからない。
「ユウミ」
タクシーを降り、建物のエントランスを抜けながらユウジロウが聞いてくる。
「プロになりたいか?」
「え?」
「プロエンカウンターになりたいかと聞いておるのじゃ」
「な……何? 急に」
キムのことはあったが無視を許さない威圧をユウジロウから感じる。
小さなころから目にしてきたプロエンカウンター新堂ユウジロウが老いた身内とだぶって見えた。
どんな苦境においても怯むことなく右手を掲げ、カードをドローする。
あるいは相手の攻撃に負けず魔法カードでカウンターを仕掛ける。
たとえ生命力が一桁になろうともあきらめずにフィールドに立つ。
そんな強い意志を持った新堂ユウジロウが目の前にいた。
「ワシはお前に『ライトニングマジシャン』を託した。それはユウカの形見は娘に持たせるべきではないかと思ったからじゃ」
「……」
「じゃが、それは間違っておったのかもしれん。お前がC級になったのをいい機会と判じたのじゃがな」
ユウミは立ち止まったユウジロウに合わせて歩を止める。
ユウジロウが言った。
「ユウミ、『ライトニングマジシャン』はアルカナカードといって世界に一枚ずつ二十二種類しかない特別なカードの一つじゃ。それだけ所有者であることに責任が伴うし、カードハンターのような連中にも狙われやすい」
ユウミは黙ってユウジロウが続けるのを待つ。
「委員会の中にもアルカナカードを集めようとする輩がおるようじゃ。雲成委員長は総意ではないと言って追ったがそれが真実か否かワシにはわからん」
「……」
「いざとなればお前が一人でカードを守らねばならん。そのためにも己の力を高めておく必要がある」
それは理解できた。
倉石やサキと対戦し、嫌というほど自分の力の無さを思い知らされてきたのだ。
もっと強くなりたい。
そのためにも自分の戦うステージを上げ、より強い相手と相まみえて経験を積んでいかねばならない。
自分には「エンカウントモンスターズ」しかないのだから……。
「おじいちゃん」
ユウミは告げた。
「あたし、プロになりたい」
「なりたい……か」
ユウジロウが小さく嘆息する。
「それではいかんのじゃよ」
「えっ?」
意味がわからなかった。
数人の先客がいたがユウジロウはとある人物の元へと真っ直ぐ向かう。ロビーの長いすに座るその背中は中肉の男性を思わせた。
近づくと気配に気づいたのか振り向いて立ち上がる。
薄緑色のジャケットに白いシャツ、淡い灰色のスラックスといった出で立ちの男はどこか見覚えがあった。
ユウミが思い出そうとしている間に男が長いすを回り込み、ユウミたちに歩み寄ってくる。
履いているのは茶色い革靴だ。
「言いつけ通り来ましたよ、先生」
背はユウミが思っていたよりある。
175センチくらいだろうか。中肉とはいえ肉づきのバランスはとれているようにも見える。
オールバックの黒髪を軽く手でとかし、男が言った。
「でも僕にも休みの予定くらいあるんですから急な呼び出しは勘弁してもらえませんか」
「リーグ戦明けからあちこちほっつき歩いとるのは知っとるぞ」
ありゃ、と言わんばかりに男が苦笑した。
丸い目が細くなる。
目鼻立ちは悪くない。まあまあといったレベルの顔だ。
年齢は二十代後半から三十代前半といったところか。
声は低くてちょっと格好いい。
洋画の吹き替えでもできそうだ。無口で一匹狼のスナイパーとか似合いそう。
「先生には敵わないなぁ」
「弟子のスケジュールはだいたい耳に入ってくるからのう」
ユウジロウが男を紹介した。
「こやつは風見シンゴ、ワシの弟子の一人でプロエンカウンターじゃ」
「いや先生、僕、すでに何度か先生の家にお邪魔してますから紹介なんて要りませんよ」
「そうじゃったな「
ユウジロウがうなずきながら笑う。
「……」
ごめんなさい。
ユウミは心の中で謝った。
あたし、あなたのことあんまり憶えていません。
「こ、こんばんは」
ユウミが挨拶すると風見がいかにも言葉を選んだような感じで言った。
「えと……高校生、なんだよね?」
こうきたか。
自分でも年齢不相応なのはわかっている。
それでも少しショックだった。
ユウジロウが問う。
「準備はできとるな?」
「それはまあ、けどいいんですか? 僕の『エメラルドドラゴン』って一応試合でも使うんですが」
「『エンシェント』を外しておればそれでいい」
「おじいちゃん、何の話?」
何となく予想はしつつもユウミは聞いた。
まさかね、と半分は疑ってはいたが。
しかし、ユウジロウの答えは予想通りであった。
「これからエンカウント(対戦)するんじゃよ、お前とこやつでな」