第49話 どうするべきかカードが教えてくれる
文字数 2,375文字
「俺はこれでターンエンド」
ツグミが宣言し、刹那の荒鷲が効力を無くして攻撃力を3000に戻す。
ユウミはひどく動揺していた。
自分に行動順が回るなんて。
いや、順番から考えればそうなのだがまさか本当に来るとは。
ツグミが終わらせてくれるとばかり思っていたのに……。
どうしよう。
どうしよう……。
ユウミが動けずにいるとツグミが言った。
「君のターンだ。まずはドロー。そうすればどうするべきかカードが教えてくれる」
「あ、はい」
戸惑いつつもユウミは手を上げる。
視界にクゥの姿があった。
クゥ、助けてくれないの?
半ばすがる思いで空にいるフクロウを見つめるが何も変じはない。もしかしたらライトニングマジシャンを「ミックス回収」でデッキに戻してしまったことに失望してしまったのだろうか。
それとも、手札もモンスターもなく、生命力も100しかない自分に救いなどないということだろうか。
心の中で不安と迷いがぐるぐるとかき混ぜられていく。
それでも、今、口にすべきことは一つしかなかった。
「あたしのターン!」
手の内に生まれるカード。
それを確認しようとしたとき、ユキの声が割り込んだ。
「ふふっ、ドローしたわね。なら、スキルの発動よ」
「ス、スキル?」
ユウミの問いにユキが小さい子供をあやすような声音で答える。
「リンボにあるデイドリームバタフライ・女帝のマライアの第三のスキル、このカードがリンボにありかつ私のフィールドにモンスターがいない場合、私または相手がターン開始時のドローをした後に発動できる。私は生命力を半分支払い、このモンスターを特殊召喚する」
「なっ」
ユキの生命力が500になった。
彼女の前の空間が光り輝き、そこからティアラを被った貴婦人が上品な足取りで現れる。
首に刹那の荒鷲にやられた傷はない。
何事もなかったかの如く女帝は微笑む。その黒い蝶のアイマスクをつけた顔はマライアの背後にいるユキの顔にも重なっていた。
ライトニングマジシャンではマライアを倒せない。
…… そうか。
ユウミはその言葉の裏にあるものを理解した。ただ単に強い弱いの問題ではないのだ。
ユキの前にいるマライア。
あれは外殻。
中身はユキの中だ。
だから、フィールドの女帝のマライアを撃破してもすぐに復活されてしまう。
本体を叩かなくては……。
それはすなわちこのエンカウントに勝利すること。
ユウミは引いたばかりのカードを見た。
「天使の取り引き」
うん。
可能性はない訳じゃない。
ユウミは最初に刹那の荒鷲を、次に女帝のマライアに目をやった。
うなずく。
確かに自分がどうするべきかカードが教えてくれた。
もしかするとツグミの言いたいことと異なる解釈をしているのかもしれない。
だが、自分のすべきことは見つかった。
ユウミは一度深呼吸し、大きな動作で両腕を広げた。
声を張る。
「イッツ、ショータイム!」
「おっ、いいカードが来たみたいだな」
ツグミが妹にでも接するかのように言う。
「あらあら、一枚きりしかないのに威勢がいいのね」
ユキが茶化してくる。
ユウミは自分のエンカウントに集中した。
カードを投げる。
「魔法カード『天使の取り引き』を発動。フィールド上の特殊モンスターの数だけデッキの上からカードをリンボに送り、その後同じ数だけあたしはドローする、!」
リンボに「ダブルアンドハーフ」と「テレポートマジシャン」が捨てられた。
ユウミは天に手を伸ばす。
もはや後戻りはできない。
じっと右手を凝視した。
「ドロー」
一枚、また一枚とカードが右手に宿る。
入手したのはこの二枚。
「ツーハンドナイフマジシャン」(カテゴリー3・光属性・攻撃力1000)
「ソードマジシャン」(カテゴリー3・光属性・攻撃力2000)
よし。
ユウミは心の中でつぶやく。
必要なカードは揃った。
マライアのスキルは承知している。
が、ユウミはこの方法を選んだ。
ジュリア……ライトニングマジシャンがマライアに勝てないというなら、そんな『物語』なんてぶち壊してやる。
自分の力で『物語』を乗り越えてやる。
ユウミは告げた。
「リンボにあるテレポートマジシャンのスキル! あたしは手札を一枚捨て、ゲームから除外されたモンスター一体を特殊召喚する!」
リンボに行くのはツーハンドナイフマジシャン。
フィールドに帰ってくるのは……。
「あたしはミックスマジシャンを特殊召喚!」
ユウミの前に虹色の光がはじけ、まるで脱出マジックにでも成功したかのようにとんがり帽子とローブ姿の少女が出現した。両手で持ったまま少女は水晶玉を高く掲げる。
ユウミは最後の一枚を切った。
この戦術が正しいかどうか、正直自信はない。
自信はないが、ともかくこれが自分の作ることのできる『物語』なのだ。
だから突き進むのみ。
「あたしはソードマジシャンを通常召喚!」
右手で放ったカードが一振りの長剣を持った紺色のローブの魔術師に変化した。とんがり帽子ではなくローブについたフードを被っている。
スキルを発動させた。
「ミックスマジシャンのスキル! このモンスターを素材とした場合、魔法カード『ミックス』を使わずにミックス召喚できる!」
少女の水晶玉が光る。
「あたしはミックスマジシャンとソードマジシャンを素材にミックス召喚!」
ぐにゃり。
空間が二体のモンスターを巻き込んで歪んでいく。
回転するようにねじれる空間からやがて一体のモンスターが目覚めた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」
ツグミが宣言し、刹那の荒鷲が効力を無くして攻撃力を3000に戻す。
ユウミはひどく動揺していた。
自分に行動順が回るなんて。
いや、順番から考えればそうなのだがまさか本当に来るとは。
ツグミが終わらせてくれるとばかり思っていたのに……。
どうしよう。
どうしよう……。
ユウミが動けずにいるとツグミが言った。
「君のターンだ。まずはドロー。そうすればどうするべきかカードが教えてくれる」
「あ、はい」
戸惑いつつもユウミは手を上げる。
視界にクゥの姿があった。
クゥ、助けてくれないの?
半ばすがる思いで空にいるフクロウを見つめるが何も変じはない。もしかしたらライトニングマジシャンを「ミックス回収」でデッキに戻してしまったことに失望してしまったのだろうか。
それとも、手札もモンスターもなく、生命力も100しかない自分に救いなどないということだろうか。
心の中で不安と迷いがぐるぐるとかき混ぜられていく。
それでも、今、口にすべきことは一つしかなかった。
「あたしのターン!」
手の内に生まれるカード。
それを確認しようとしたとき、ユキの声が割り込んだ。
「ふふっ、ドローしたわね。なら、スキルの発動よ」
「ス、スキル?」
ユウミの問いにユキが小さい子供をあやすような声音で答える。
「リンボにあるデイドリームバタフライ・女帝のマライアの第三のスキル、このカードがリンボにありかつ私のフィールドにモンスターがいない場合、私または相手がターン開始時のドローをした後に発動できる。私は生命力を半分支払い、このモンスターを特殊召喚する」
「なっ」
ユキの生命力が500になった。
彼女の前の空間が光り輝き、そこからティアラを被った貴婦人が上品な足取りで現れる。
首に刹那の荒鷲にやられた傷はない。
何事もなかったかの如く女帝は微笑む。その黒い蝶のアイマスクをつけた顔はマライアの背後にいるユキの顔にも重なっていた。
ライトニングマジシャンではマライアを倒せない。
…… そうか。
ユウミはその言葉の裏にあるものを理解した。ただ単に強い弱いの問題ではないのだ。
ユキの前にいるマライア。
あれは外殻。
中身はユキの中だ。
だから、フィールドの女帝のマライアを撃破してもすぐに復活されてしまう。
本体を叩かなくては……。
それはすなわちこのエンカウントに勝利すること。
ユウミは引いたばかりのカードを見た。
「天使の取り引き」
うん。
可能性はない訳じゃない。
ユウミは最初に刹那の荒鷲を、次に女帝のマライアに目をやった。
うなずく。
確かに自分がどうするべきかカードが教えてくれた。
もしかするとツグミの言いたいことと異なる解釈をしているのかもしれない。
だが、自分のすべきことは見つかった。
ユウミは一度深呼吸し、大きな動作で両腕を広げた。
声を張る。
「イッツ、ショータイム!」
「おっ、いいカードが来たみたいだな」
ツグミが妹にでも接するかのように言う。
「あらあら、一枚きりしかないのに威勢がいいのね」
ユキが茶化してくる。
ユウミは自分のエンカウントに集中した。
カードを投げる。
「魔法カード『天使の取り引き』を発動。フィールド上の特殊モンスターの数だけデッキの上からカードをリンボに送り、その後同じ数だけあたしはドローする、!」
リンボに「ダブルアンドハーフ」と「テレポートマジシャン」が捨てられた。
ユウミは天に手を伸ばす。
もはや後戻りはできない。
じっと右手を凝視した。
「ドロー」
一枚、また一枚とカードが右手に宿る。
入手したのはこの二枚。
「ツーハンドナイフマジシャン」(カテゴリー3・光属性・攻撃力1000)
「ソードマジシャン」(カテゴリー3・光属性・攻撃力2000)
よし。
ユウミは心の中でつぶやく。
必要なカードは揃った。
マライアのスキルは承知している。
が、ユウミはこの方法を選んだ。
ジュリア……ライトニングマジシャンがマライアに勝てないというなら、そんな『物語』なんてぶち壊してやる。
自分の力で『物語』を乗り越えてやる。
ユウミは告げた。
「リンボにあるテレポートマジシャンのスキル! あたしは手札を一枚捨て、ゲームから除外されたモンスター一体を特殊召喚する!」
リンボに行くのはツーハンドナイフマジシャン。
フィールドに帰ってくるのは……。
「あたしはミックスマジシャンを特殊召喚!」
ユウミの前に虹色の光がはじけ、まるで脱出マジックにでも成功したかのようにとんがり帽子とローブ姿の少女が出現した。両手で持ったまま少女は水晶玉を高く掲げる。
ユウミは最後の一枚を切った。
この戦術が正しいかどうか、正直自信はない。
自信はないが、ともかくこれが自分の作ることのできる『物語』なのだ。
だから突き進むのみ。
「あたしはソードマジシャンを通常召喚!」
右手で放ったカードが一振りの長剣を持った紺色のローブの魔術師に変化した。とんがり帽子ではなくローブについたフードを被っている。
スキルを発動させた。
「ミックスマジシャンのスキル! このモンスターを素材とした場合、魔法カード『ミックス』を使わずにミックス召喚できる!」
少女の水晶玉が光る。
「あたしはミックスマジシャンとソードマジシャンを素材にミックス召喚!」
ぐにゃり。
空間が二体のモンスターを巻き込んで歪んでいく。
回転するようにねじれる空間からやがて一体のモンスターが目覚めた。
「雷鳴を轟かせ、電光石火で敵を討て! 雷光とともに現れろ、ライトニングマジシャン!」