第30話「グリーングリーン」のハヅキ

文字数 2,528文字

 戦いが始まった。
「エンカウントモンスターズ」はターン制であり、先攻後攻が存在する。
 エンカウント(対戦)の開始から十秒以内にプレイヤーが申告することにより先攻または後攻を選ぶことができるのだ。
 しかし……。
「私が先攻よ!」
「うっさい! ハルキストは大人しく後攻になりなさいっ!」
 スタート直後からハヅキとスズメによる先攻権争奪戦が開かれていた。
 このように互いが同じ攻め順を主張した場合、アルカナシステムによって決定される。
 今回はハヅキが先攻を得た。
 次にハヅキ同様先攻を取ろうとしていたスズメにターンが回ることとなり、サツキ、ユウミと続くようになった。
 スズメの出鼻を挫くのに成功したハヅキが意気揚々と右手を上げる。
「先攻はもらったわよ! 私のターン!」
 手の内に宿る一枚のカード。
 ハヅキがそれを左手の一枚と入れ替える。
 右手のカードを前に投じた。
「私は魔法カード『グリーンフォレスト』を発動! この効果によりフィールド上の全ての地属性モンスターの攻撃力は500アップし、風属性モンスターの攻撃力は500ダウンする!」
 フィールド全体が巨大な木々によって覆われた。さながら森の中である。枝葉の隙間から陽光が差し込むが、光の当たらぬ場所は暗く陰っていた。
 一筋の光がスポットライトのようにハヅキを照らしている。
 すでに勝ちを確信した笑顔だった。
 スズメに向かって言う。
「あんたのエースモンスター『ハミングバード・北野カナリア』が風属性モンスターだってことはわかってるのよ。それだけでなくデッキのモンスターのほとんどが風属性だってことも知ってる。しかも、この魔法効果は永続。あんたに勝ち目はないわ!」
 くっ、とスズメが唇を噛む。
 ユウミは彼女を心配しつつ、ハヅキの次の一手に警戒した。
 こんなフィールド系で永続効果の魔法を使ってくるということは、あの娘のモンスターは地属性がメインに違いない。
 となると……。
 ハヅキがさらに一枚使う。
「まだよっ、私はカテゴリー3のグリーングリーン・トゥースツリーを召喚!」
 にょきっと地面から体長二メートルくらいの針葉樹が生えてきた。真ん中よりやや上に大きな口があり、やけに歯並びのいい歯を見せつけている。
 ズボッ!
 根の部分が大地から抜け、まるで足のように身体を支えた。
 地属性で攻撃力は2000。
 だが、すぐに青白い光に包まれた。グリーンフォレストの効果だ。攻撃力を示す数字も白から赤へと変わる。
 2500。
 あのモンスター、歩ける……の?
 ユウミがそう思っているとハヅキがスキルを発動させた。
「トゥースツリーのスキル! このモンスターが通常召喚に成功したとき、私はカードを一枚ドローし、相手プレイヤー(一人)は手札をランダムに一枚失う!」
 スズメが指差された。
「もちろん対象になるのはあんたよ!」
 五枚の手札のうち、真ん中のカードがボロボロに砕けた。
 スズメの残り手札は四枚。
 ハヅキが右手を天に突き出す。
「ドロー!」
 現出する一枚のカード。
 ちらとそれを見たハヅキがすかさず使用した。
「魔法カード『森の恵み』を発動! 私および味方プレイヤーの生命力を1000回復させる!」
 暦姉妹の身体が金色の光を纏う。
 二人の生命力が6000になった。
 あの娘のデッキ、補助系がメイン?
 ユウミはこれまでの言動からハヅキのデッキが攻撃タイプかと予想していたのだが、どうやら間違っていたようだ。
 ハヅキからサツキに目をやる。
 ということは彼女が攻撃メインのデッキ?
 確信はない。
 が、ユウミは胸騒ぎのようなものを抱かずにはいられなかった。
 バサッ……。
 不意に羽ばたきの音がユウミの耳に届く。まだ姿を現さないがクゥだと心のどこかで認めていた。
 ハヅキの声。
「私はこれでターンエンド」
 ハヅキが手札四枚でターンを終えた。
 行動順がスズメに移行する。
 フン、と鼻を鳴らしてスズメが言った。
「大したことないわね。生命力をちょっと増やしたくらいでいい気になるんじゃないわよ」
「別にいい気になんてなってないわ」
 ハヅキが応じ、再度睨み合う。
「、ち、ちょっとスズメちゃん、ダメだよ。落ち着いて」
 ユウミが止めるも、スズメには届かないようだ。
 より怒気をはらませた声とともにスズメが右手を上げる。
「私のターン!」
 手に入れたカードを一瞥し、スズメがそのカードを投げる。
「私はカテゴリー3のハミングバード・ホワイトアイズを召喚!」
 カードが白い目の小鳥に変じた。手の平サイズの可愛らしい鳥だ。全身は抹茶色で、気品のある美声を奏でている。
 風属性で攻撃力は2000……ではあるがグリーンフォレストの影響により1500になっている。
「ホワイトアイズのスキル発動! 私は生命力を500支払い、手札またはデッキから任意の数だけホワイトアイズを特殊召喚する!」
「エンカウントモンスターズ」は一組のデッキに同名のカードを四枚まで入れることができる。
 スズメの生命力が4500になり、どこからともなく三体のホワイトアイズが飛んできた。手札の数に変化がないのでデッキからの特殊召喚であろうとユウミは判じる。
 やはりこれらのモンスターも攻撃力を減じられていた。
 スズメが続行する。
「ホワイトアイズの召喚に成功したことで、手札のカテゴリー3モンスター、ハミングバードオレンジすかいらーくを特殊召喚! このモンスターはフィールド上にハミングバードと名のつくモンスターが召喚または特殊召喚されたときに手札から特殊召喚できる!」
 今度はオレンジ色の小鳥が飛来した。こちらは十五センチほどの大きさで、羽ばたく度にきらきらとオレンジ色の光を輝かせている。
 風属性で攻撃力は1800。
 だが、これもすぐに1300になってしまった。
 スズメのモンスターはこれで五体。
 生命力は下がったが、口許を緩ませていた。
 ……スズメちゃん?
 ユウミの頭に疑問符が浮かんだとき、スズメが新たなカードを切った。
 
 
 

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