第38話 悪いんだけど、それ無理(暦姉妹戦・決着)
文字数 2,662文字
もはや魔唱ともいえる美声で鳴き、北野カナリアがもう一段高く飛翔する。
身体の放電が激しくなった。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
スズメが叫んだ。
「サンダーバードッ!」
雷の魔鳥と化した北野カナリアが急降下してセフィロトツリーに突っ込む。
はっとした顔のハヅキがカードを投げた。
セフィロトツリーが枝を伸ばして串刺しにしようとするが、放電する光がそれを阻む。一直線に北野カナリアはセフィロトツリーに突撃し、その巨体を貫いた。
バチバチとスパークし、老木は光の中で崩れていく。
光の余波がハヅキを襲った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
轟音を伴ってハヅキが感電する。ビクビクと身体を痙攣させつつ光の中で奇妙な動きを見せた。
光が消え、うつ伏せに倒れたハヅキが残る。ズタボロになった彼女にはまだ意識があった。ユウミはそれだけでも驚くべきことであったが、次のハヅキの言葉にはもっと驚かされた。
「魔……法カード『超誘……爆』発……動」
やばいっ。
「超誘爆」の効果は「戦闘で自分のモンスターが破壊されたとき、その戦闘した相手モンスターも破壊する。その後、戦闘に使用した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える」だ。
つまりこの場合、破壊されるのは北野カナリア。
その攻撃力は12000。
やばい。
とっさにユウミはスキルを使った。
「リンボにあるサクリファイスマジシャンのスキル! このカードをゲームから除外して自分または味方のモンスター一体の破壊を無効にする!」
北野カナリアの破壊は防いだ。
これでスズメへのダメージもなくなる。
スズメがユウミの方を向き、ぐっと親指を立てた。
「ユウミ、またまたグッジョブ!」
くっと悔しそうな声を上げ、ハヅキが力尽きる。
生命力が0になった。
「ハヅキちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
サツキの悲鳴が響く。
「よくもよくもよくもハヅキちゃんを……」
鬼の形相でスズメを睨むサツキ。
セフィロトツリーが敗れ、その恩恵を受けていたプルーパの攻撃力は0になっていた。
が。
北野カナリアの攻撃はすでに終わっている。
「あなたに三巡目は与えません。必ず私のターンで始末します」
「プルーパはもう役立たずみたいだけど?」
「あなたこそターンエンドとともに北野カナリアを失うじゃありませんか。残るホワイトアイズも攻撃力は2000ぽっち」
「あんたがそれより強いモンスターを引ける……と?」
サツキがうなずいた。
「もちろん、あなたを始末すると言ったはずです」
ふう、とスズメが息をついた。
「悪いんだけど、それ無理」
「えっ?」
スズメがスキルを用いた。
「リンボにあるレッドロビンのもう一つのスキル! このモンスターがリンボにある場合、このカードとフィールド上のハミングバードと名のつくモンスター一体をゲームから除外することで私は戦闘の終わったハミングバードモンスターをもう一度戦わせることができる!」
リンボからレッドロビン、フィールドからホワイト合図が取り除かれる。
サツキの目が大きく見開かれた。
その表情が絶望の色に染まる。
スズメが告げた。
「歌え! 北野カナリアでプルーパを攻撃!」
攻撃力0、しかもスキルと魔法のサポートの得られないプルーパが北野カナリアに勝てるはずもなかった。
雷の魔鳥に突撃されたプルーパの断末魔の叫びがサツキの声を借りてフィールドに響く。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
あの女魔術師への恨みを晴らす好機がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
ユウミの心の中に聞こえてくる甲高い女の声。
サツキの生命力が0になり、ブーッと対戦の終了を知らせるブザーが鳴った。
あれはプルーパの本来の声?
ユウミがそう思っているとスズメがつぶやいた。
「知らないわよ、あんたの都合なんか」
スズメちゃん?
ユウミはたずねた。
「もしかして、さっきの声が聞こえたの?」
「そんなもん聞こえるに決まってるでしょ」
バカにしたように。
「あんだけでかい声で叫ばれたら嫌でも耳に入るでしょうに」
「いや、あれ声は声でも」
エンカウントが決着し、アルカナシステムによって張られていたフィールドが消えた。
このエンカウントはユウミたちの勝利。
自分たちの反対側に倒れていた暦姉妹もしばらくすると目を覚ました。
★★★
「約束通り、私たちはもうあなたに手出ししません」
心底悔しそうな声でサツキが言った。その横ではハヅキがスズメを睨んでいる。
「本当にもうつっかかって来ないんでしょうね?」
疑わしそうにスズメが眉を上げる。
「こんな面倒は二度と御免なんだけど」
「二言はありません」
「そっちは? さっきからずっと何か言いたそうだけど」
「ス、スズメちゃんダメだよ、そんなケンカ腰じゃ」
ユウミはたまらずたしなめるが見事にスルーされてしまう。
鋭い視線を向けながらハヅキが口を開いた。
「や、約束は守るわよ」
うーん、とスズメが頭を傾げた。
「私、さっきのエンカウントで耳が遠くなったのかしら? よく聞こえないなぁ」
うぐぐっ、とハヅキが歯ぎしりする。
サツキがため息をついた。
「よりによってこんな女に負けるなんて……」
「はぁ? 泣かされたいの?」
威嚇を無視してサツキがユウミに忠告した。
「新堂さん、お友だちは選んだほうがいいですよ」
「あ、えーと」
「これからのハルキストは新体制だから、新堂さんとも仲良くできると思うよ」
と、ハヅキ。
「今度は私とサシでエンカウントしようよ」
「あら、ハヅキちゃんそれずるいです。私だって二人で勝負したいです」
ぽそりと。
「それに私のプルーパとは因縁があるみたいですし」
……できればこの娘とのエンカウントは避けたいな。
戦いの中での様子を思い出し、ユウミは苦笑してしまう。
「こらーっ、私を無視すんな!」
「あらあら、まだいたんですか」
「私たちもうあんたに用はないから。ね、新堂さん」
「え? えっとね」
「あ・ん・た・らぁぁぁぁぁ!」
量拳を振り上げて怒るスズメ。
「「きゃあーっ!」」
と、逃げ出す暦姉妹に両腕を引っ張られ、否応なく巻き込まれるユウミであった。
**次回から新展開です。
身体の放電が激しくなった。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ……。
スズメが叫んだ。
「サンダーバードッ!」
雷の魔鳥と化した北野カナリアが急降下してセフィロトツリーに突っ込む。
はっとした顔のハヅキがカードを投げた。
セフィロトツリーが枝を伸ばして串刺しにしようとするが、放電する光がそれを阻む。一直線に北野カナリアはセフィロトツリーに突撃し、その巨体を貫いた。
バチバチとスパークし、老木は光の中で崩れていく。
光の余波がハヅキを襲った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
轟音を伴ってハヅキが感電する。ビクビクと身体を痙攣させつつ光の中で奇妙な動きを見せた。
光が消え、うつ伏せに倒れたハヅキが残る。ズタボロになった彼女にはまだ意識があった。ユウミはそれだけでも驚くべきことであったが、次のハヅキの言葉にはもっと驚かされた。
「魔……法カード『超誘……爆』発……動」
やばいっ。
「超誘爆」の効果は「戦闘で自分のモンスターが破壊されたとき、その戦闘した相手モンスターも破壊する。その後、戦闘に使用した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える」だ。
つまりこの場合、破壊されるのは北野カナリア。
その攻撃力は12000。
やばい。
とっさにユウミはスキルを使った。
「リンボにあるサクリファイスマジシャンのスキル! このカードをゲームから除外して自分または味方のモンスター一体の破壊を無効にする!」
北野カナリアの破壊は防いだ。
これでスズメへのダメージもなくなる。
スズメがユウミの方を向き、ぐっと親指を立てた。
「ユウミ、またまたグッジョブ!」
くっと悔しそうな声を上げ、ハヅキが力尽きる。
生命力が0になった。
「ハヅキちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
サツキの悲鳴が響く。
「よくもよくもよくもハヅキちゃんを……」
鬼の形相でスズメを睨むサツキ。
セフィロトツリーが敗れ、その恩恵を受けていたプルーパの攻撃力は0になっていた。
が。
北野カナリアの攻撃はすでに終わっている。
「あなたに三巡目は与えません。必ず私のターンで始末します」
「プルーパはもう役立たずみたいだけど?」
「あなたこそターンエンドとともに北野カナリアを失うじゃありませんか。残るホワイトアイズも攻撃力は2000ぽっち」
「あんたがそれより強いモンスターを引ける……と?」
サツキがうなずいた。
「もちろん、あなたを始末すると言ったはずです」
ふう、とスズメが息をついた。
「悪いんだけど、それ無理」
「えっ?」
スズメがスキルを用いた。
「リンボにあるレッドロビンのもう一つのスキル! このモンスターがリンボにある場合、このカードとフィールド上のハミングバードと名のつくモンスター一体をゲームから除外することで私は戦闘の終わったハミングバードモンスターをもう一度戦わせることができる!」
リンボからレッドロビン、フィールドからホワイト合図が取り除かれる。
サツキの目が大きく見開かれた。
その表情が絶望の色に染まる。
スズメが告げた。
「歌え! 北野カナリアでプルーパを攻撃!」
攻撃力0、しかもスキルと魔法のサポートの得られないプルーパが北野カナリアに勝てるはずもなかった。
雷の魔鳥に突撃されたプルーパの断末魔の叫びがサツキの声を借りてフィールドに響く。
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
あの女魔術師への恨みを晴らす好機がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
ユウミの心の中に聞こえてくる甲高い女の声。
サツキの生命力が0になり、ブーッと対戦の終了を知らせるブザーが鳴った。
あれはプルーパの本来の声?
ユウミがそう思っているとスズメがつぶやいた。
「知らないわよ、あんたの都合なんか」
スズメちゃん?
ユウミはたずねた。
「もしかして、さっきの声が聞こえたの?」
「そんなもん聞こえるに決まってるでしょ」
バカにしたように。
「あんだけでかい声で叫ばれたら嫌でも耳に入るでしょうに」
「いや、あれ声は声でも」
エンカウントが決着し、アルカナシステムによって張られていたフィールドが消えた。
このエンカウントはユウミたちの勝利。
自分たちの反対側に倒れていた暦姉妹もしばらくすると目を覚ました。
★★★
「約束通り、私たちはもうあなたに手出ししません」
心底悔しそうな声でサツキが言った。その横ではハヅキがスズメを睨んでいる。
「本当にもうつっかかって来ないんでしょうね?」
疑わしそうにスズメが眉を上げる。
「こんな面倒は二度と御免なんだけど」
「二言はありません」
「そっちは? さっきからずっと何か言いたそうだけど」
「ス、スズメちゃんダメだよ、そんなケンカ腰じゃ」
ユウミはたまらずたしなめるが見事にスルーされてしまう。
鋭い視線を向けながらハヅキが口を開いた。
「や、約束は守るわよ」
うーん、とスズメが頭を傾げた。
「私、さっきのエンカウントで耳が遠くなったのかしら? よく聞こえないなぁ」
うぐぐっ、とハヅキが歯ぎしりする。
サツキがため息をついた。
「よりによってこんな女に負けるなんて……」
「はぁ? 泣かされたいの?」
威嚇を無視してサツキがユウミに忠告した。
「新堂さん、お友だちは選んだほうがいいですよ」
「あ、えーと」
「これからのハルキストは新体制だから、新堂さんとも仲良くできると思うよ」
と、ハヅキ。
「今度は私とサシでエンカウントしようよ」
「あら、ハヅキちゃんそれずるいです。私だって二人で勝負したいです」
ぽそりと。
「それに私のプルーパとは因縁があるみたいですし」
……できればこの娘とのエンカウントは避けたいな。
戦いの中での様子を思い出し、ユウミは苦笑してしまう。
「こらーっ、私を無視すんな!」
「あらあら、まだいたんですか」
「私たちもうあんたに用はないから。ね、新堂さん」
「え? えっとね」
「あ・ん・た・らぁぁぁぁぁ!」
量拳を振り上げて怒るスズメ。
「「きゃあーっ!」」
と、逃げ出す暦姉妹に両腕を引っ張られ、否応なく巻き込まれるユウミであった。
**次回から新展開です。