第7話 マリーズカフェにて、危機は意外なところにある
文字数 2,399文字
「これをユウジロウさんからねぇ……」
先に読んだスズメからカードを受け取りつつハルキが言った。
ユウミが通う風上高校から近い喫茶店「マリーズカフェ」のテーブル席に彼女たち三人は座っていた。ユウミと友だちの小松スズメそれに桂ハルキの三人である。
ユウミの隣、窓側にいるのが小松スズメ。
亜麻色の髪をツインテールにした可愛らしい娘である。身長はユウミより高くすらりとしていた。薄いクリーム色のブラウスの上に白と赤のチェック模様のセーターを着ている。下は丈の短い紺のプリーツスカート。座席の窓際には小さな白いショルダーバッグを置いている。
ユウミたちの反対側には桂ハルキ。
180センチの高身長。筋肉質ではないが太ってもいない身体。黒髪は短く端整な顔立ちと相まって清潔感や爽やかさがハンパない。これが幼馴染みでなくよく知らない相手なら心を奪われていたかもしれない。
相手を知りすぎるのが逆に恋愛感情から離れていくいいパターンだ。
だからといって嫌いというわけではないが。
むしろ好き?
でも、幼馴染みとして、友だちとして、だ。
テーブルの上にはトレイにのった三種類の飲み物。
いずれもストローのついたプラスチック容器。中身はばらばらだ。
ユウミの前にアイスキャラメルラテ、スズメはアイスミルクティー、ハルキがアイスブレンドこーヒー。
食べ物はないが、代わりにユウミのデッキケースとその中身があった。
水色のシャツの袖を少しまくったハルキが「ライトニングマジシャン」の内容を読み上げる。
「ライトニングマジシャン……光属性。カテゴリーは4。ミックスモンスター。召喚条件はカテゴリー3以上の光属性モンスターが手札またはフィールド上に二体以上(ミックスモンスターなので魔法カード『ミックス』の発動が必須)。スキルは……」
ハルキが顔を上げた。
「この『召喚素材をゲームから除外して発動する。その攻撃力の合計分このモンスターの攻撃力をターン終了時までアップさせる』って、要するに一発勝負ってことだよね」
スズメが鼻で笑った。
「カウンターを受けたり、攻撃をかわされたらアウトじゃない」
「まあ、元々の攻撃力が2500だからそこそこ強いんだろうけど」
「そこそこじゃないもん」
ハルキの言葉にユウミはむっとした。
「それに手札が五枚あって全部光属性モンスターでみんな攻撃力が5000だったら合計25000の攻撃力アップだよ。トータルなら27500の攻撃力! これに勝てるモンスターなんてそうそういないよ」
「攻撃が通ればね」
やや呆れたようにスズメがため息をつく。
「あんたが思ってるほど勝負は甘くないわ」
うぐぐっとユウミは言葉を詰まらせる。
もちろんバトルとなれば相手モンスターのスキルや魔法によって攻撃を防いだりする者もいるだろう。
でも、とユウミは思う。
それはどのカードにも言えることだ。長所もあれば短所もある。
大切なのはいかに使いこなすかだ。
それに……。
ハルキからカードを返してもらい、ユウミはその絵柄を見た。
黄色い稲妻の模様のある赤いローブを着た、金色の長い髪を三つ編みにした女性。
手には先端をバチバチさせた杖。
なぜか懐かしい感じがする。このカードの存在を知ったのは中学一年生の冬休みのとき。
結構長く祖父にほしいとせがんでいたことになる。
大事なカードだからとなかなか聞き入れてもらえなかったが。
だから、なぜ今になって譲る気になったのかわからない。
エンカウンターの階級がC級になったから?
それだけ?
そうとは思えない。
だとしたらなぜ?
「だいたい」
スズメの声にユウミの思索は途切れる。
「あんた攻撃力5000のモンスターをそんなに組み込んでいるの?」
「そ、それは」
「なら、25000アップなんてありえないじゃない」
「小松さん、そこまでにしといてあげなよ」
ハルキがにこにこしながらたしなめた。
「ユウミも欲しかったカードが手に入ってうかれているだけだから」
「う、うかれてなんかないもん」
「そう? 僕にはとびっきりのレアカードを入手したときよりはしゃいでいるように見えるけど」
「はしゃいでもいないもん」
ユウミはごまかすようにアイスキャラメルラテのストローに口をつけた。
口の中いっぱいに甘さがわずかな苦味とともに広がっていく。
ハルキがスマホを取り出して画面を操作し始めた。
ユウミはスズメとそれを見る。スズメもアイスミルクティーを飲んだ。
ハルキがスマホの画面に目を落としながらうなずく。
「やっぱり」
「何が?」
ユウミの問いにハルキが答えた。
「そのカード、シークレットウルトラレアだ」
「はい?」
スズメが頓狂な声を上げた。
ユウミもハルキの発言に目をぱちぱちさせる。
シークレットウルトラレアということは通常のパック(一袋に十枚封入されている)ではゲットできないばかりか、カードショップやねっとなどでもシングル販売されていないということだ。
まさに一点もの。
たまに公式大会の優勝者が副賞としてもらえる特別なカードがあるが「ライトニングマジシャン」もそうしたカードの一つなのだろうか。
ユウミが頭を巡らせているとハルキの後ろのテーブルにいたダークグレイスーツ姿の男が席を立った。
トレイにプラスチックの容器をのせ、返却口へとまっすぐに歩いていく。
★★★
マリーズカフェを出てからユウミはハルキたちと駅前の商業施設、通称「トランプタワー」に行った。
中にあるカードショップや書店、ゲームセンターなどで楽しく過ごしているうちに時間はあっという間に流れてしまう。
そして、ハルキとスズメに別れを告げ帰路についたユウミだったが……。
先に読んだスズメからカードを受け取りつつハルキが言った。
ユウミが通う風上高校から近い喫茶店「マリーズカフェ」のテーブル席に彼女たち三人は座っていた。ユウミと友だちの小松スズメそれに桂ハルキの三人である。
ユウミの隣、窓側にいるのが小松スズメ。
亜麻色の髪をツインテールにした可愛らしい娘である。身長はユウミより高くすらりとしていた。薄いクリーム色のブラウスの上に白と赤のチェック模様のセーターを着ている。下は丈の短い紺のプリーツスカート。座席の窓際には小さな白いショルダーバッグを置いている。
ユウミたちの反対側には桂ハルキ。
180センチの高身長。筋肉質ではないが太ってもいない身体。黒髪は短く端整な顔立ちと相まって清潔感や爽やかさがハンパない。これが幼馴染みでなくよく知らない相手なら心を奪われていたかもしれない。
相手を知りすぎるのが逆に恋愛感情から離れていくいいパターンだ。
だからといって嫌いというわけではないが。
むしろ好き?
でも、幼馴染みとして、友だちとして、だ。
テーブルの上にはトレイにのった三種類の飲み物。
いずれもストローのついたプラスチック容器。中身はばらばらだ。
ユウミの前にアイスキャラメルラテ、スズメはアイスミルクティー、ハルキがアイスブレンドこーヒー。
食べ物はないが、代わりにユウミのデッキケースとその中身があった。
水色のシャツの袖を少しまくったハルキが「ライトニングマジシャン」の内容を読み上げる。
「ライトニングマジシャン……光属性。カテゴリーは4。ミックスモンスター。召喚条件はカテゴリー3以上の光属性モンスターが手札またはフィールド上に二体以上(ミックスモンスターなので魔法カード『ミックス』の発動が必須)。スキルは……」
ハルキが顔を上げた。
「この『召喚素材をゲームから除外して発動する。その攻撃力の合計分このモンスターの攻撃力をターン終了時までアップさせる』って、要するに一発勝負ってことだよね」
スズメが鼻で笑った。
「カウンターを受けたり、攻撃をかわされたらアウトじゃない」
「まあ、元々の攻撃力が2500だからそこそこ強いんだろうけど」
「そこそこじゃないもん」
ハルキの言葉にユウミはむっとした。
「それに手札が五枚あって全部光属性モンスターでみんな攻撃力が5000だったら合計25000の攻撃力アップだよ。トータルなら27500の攻撃力! これに勝てるモンスターなんてそうそういないよ」
「攻撃が通ればね」
やや呆れたようにスズメがため息をつく。
「あんたが思ってるほど勝負は甘くないわ」
うぐぐっとユウミは言葉を詰まらせる。
もちろんバトルとなれば相手モンスターのスキルや魔法によって攻撃を防いだりする者もいるだろう。
でも、とユウミは思う。
それはどのカードにも言えることだ。長所もあれば短所もある。
大切なのはいかに使いこなすかだ。
それに……。
ハルキからカードを返してもらい、ユウミはその絵柄を見た。
黄色い稲妻の模様のある赤いローブを着た、金色の長い髪を三つ編みにした女性。
手には先端をバチバチさせた杖。
なぜか懐かしい感じがする。このカードの存在を知ったのは中学一年生の冬休みのとき。
結構長く祖父にほしいとせがんでいたことになる。
大事なカードだからとなかなか聞き入れてもらえなかったが。
だから、なぜ今になって譲る気になったのかわからない。
エンカウンターの階級がC級になったから?
それだけ?
そうとは思えない。
だとしたらなぜ?
「だいたい」
スズメの声にユウミの思索は途切れる。
「あんた攻撃力5000のモンスターをそんなに組み込んでいるの?」
「そ、それは」
「なら、25000アップなんてありえないじゃない」
「小松さん、そこまでにしといてあげなよ」
ハルキがにこにこしながらたしなめた。
「ユウミも欲しかったカードが手に入ってうかれているだけだから」
「う、うかれてなんかないもん」
「そう? 僕にはとびっきりのレアカードを入手したときよりはしゃいでいるように見えるけど」
「はしゃいでもいないもん」
ユウミはごまかすようにアイスキャラメルラテのストローに口をつけた。
口の中いっぱいに甘さがわずかな苦味とともに広がっていく。
ハルキがスマホを取り出して画面を操作し始めた。
ユウミはスズメとそれを見る。スズメもアイスミルクティーを飲んだ。
ハルキがスマホの画面に目を落としながらうなずく。
「やっぱり」
「何が?」
ユウミの問いにハルキが答えた。
「そのカード、シークレットウルトラレアだ」
「はい?」
スズメが頓狂な声を上げた。
ユウミもハルキの発言に目をぱちぱちさせる。
シークレットウルトラレアということは通常のパック(一袋に十枚封入されている)ではゲットできないばかりか、カードショップやねっとなどでもシングル販売されていないということだ。
まさに一点もの。
たまに公式大会の優勝者が副賞としてもらえる特別なカードがあるが「ライトニングマジシャン」もそうしたカードの一つなのだろうか。
ユウミが頭を巡らせているとハルキの後ろのテーブルにいたダークグレイスーツ姿の男が席を立った。
トレイにプラスチックの容器をのせ、返却口へとまっすぐに歩いていく。
★★★
マリーズカフェを出てからユウミはハルキたちと駅前の商業施設、通称「トランプタワー」に行った。
中にあるカードショップや書店、ゲームセンターなどで楽しく過ごしているうちに時間はあっという間に流れてしまう。
そして、ハルキとスズメに別れを告げ帰路についたユウミだったが……。