第28話 ハルキストは裏切り者を許さない! 狙われたスズメちゃん!
文字数 2,216文字
それは「マリーズカフェ」を出て用事のあるハルキと別れてすぐのことだった。
「小松さん」
駅へと続く歩道を歩いていたユウミとスズメの背後から誰かが声をかけてきた。ユウミたちが振り返ると赤毛の少女二人がいる。セミロングとポニーテールという違いはあるものの、顔や服装は全く同じだ。
身長はともに160センチくらい。浅黒い肌でどこかエキゾチックな雰囲気のある顔立ち、紺色のパーカーの下には薄緑色のシャツが見える。デニムのスカートも紺。茶色のブーツもお揃いだ。
一目で双子だとユウミはわかった。
双子の一人、ユウミから見て左側の娘がセミロング。
右側がポニーテール。
セミロングの娘がスズメを指差した。
「あなた、いい度胸ですよね」
「はい?」
何を言われたのかわからないといったふうにスズメがきょとんとする。
ポニーテールの娘が付け足した。
「ハルキストの一員のくせにハルキくんとお茶だなんてどういうつもり?」
ハルキストというのはハルキのファンクラブのことだ。
幼馴染みでいつも傍にいるのが当たり前になっているユウミはなぜか見逃されているが、ハルキに近づこうとする女子がしばしばハルキストに難癖をつけられる……ということがあった。
しかし、スズメがユウミとハルキと行動を共にするようになってからもうすぐ一年。
その間に彼女がハルキストの標的にされたことなどなかった。
ましてや、スズメがハルキストの一員だったなんて聞いたことがない。
ユウミはたずねた。
「スズメちゃんってハルキストなの?」
「そんな訳ないでしょ」
即答。
「だいいち、ハルキストだったらあんたと仲良くしたりしないでしょ?」
そうだった。
なぜかハルキストの娘たちは全員ユウミと友だちになろうとしないのだ。日常会話程度ならしないでもないがそれも必要最低限度に抑えられている。
この目の前の二人のように接触してくることすら珍しいのだ。
「あなたたち……本当にハルキスト?」
「失礼なこと言いますね、新堂さん」
セミロングが笑んだ。
「まあ、ちょっとメンバーのパワーバランスが変わったといいますか、先輩方もいなくなって少々方向性が変わったんですよ」
「私たちの存在も大きいんだけどね」
ポニーテールが言葉を継ぐ。
彼女は名乗った。
「私は暦ハズき(こよみ・はづき)」
セミロングがさらに笑みを広げる。
「私はサツキです」
「えーと、双子でいいんだよね?」
ユウミの問いにハヅキが首肯した。
「そうよ。私が姉でサツキが妹」
「どっちでもいいわよ」
あからさまに不快そうにスズメが言った。
「ハルキストをバカにするつもりはないけど、私、あなたたちと一緒にされたくないわ」
「はぁ?」
ハヅキが声を荒げた。
「嘗めてるの? あんた、泣かすわよ」
「やれるもんならやってみなさい」
「こいつ!」
詰め寄ろうとしたハヅキをサツキが制した。
「ダメですよ。暴力でこの裏切り者に制裁を加えても意味がありません」
「でも、こいつ……」
「ハヅキちゃん」
サツキの表情から笑みが消えた。
「私の言うことがきけないんですか?」
うっ、とハヅキがたじろぐ。彼女はしぶしぶといったふうに身を引いた。
再びサツキが笑顔になる。
彼女は言った。
「小松さん、私たちとエンカウントしてください」
「はい?」
スズメが頓狂な声で応じる。
「何で私があんたたちとエンカウントしなくちゃいけないの」
「だって、あなたエンカウンターなんですよね?」
「答えになってないんだけど」
「ぐちぐちうるさい女ね」
ハヅキが睨んだ。
スズメが睨み返す。ユウミは今にも喧嘩しそうな二人をはらはらしながら……。
あ、と彼女は気づく。
口にした。
「ならあたしとスズメちゃん、それと暦さんたちの四人でタッグバトルができるね」
「タッグバトル!」
ぱぁっとサツキの顔がより明るくなる。
「何て素敵な響き。それナイスアイデアです!」
「でしょでしょ、私、実はほとんどやったことないんだよね。これって頭数が足りないとできないし」
「ちょ、ちょっと待って」
スズメが割り込んだ。
「私、エンカウントするなんて一言も」
「怖いんですか?」
サツキがにこやかだが鋭い視線を投げてくる。
「臆病者が裏切り者だというのならやむを得ません。そんな程度の女だったということで終わりにしてあげます。その代わりこの先ずっと笑い者になってもらいますからね」
ハヅキも笑った。
「そいつはいいわね、とんだビビリだったってみんなに吹聴してあげなきゃ」
「ぬぁんですってぇ!」
一気にスズメのボルテージが上がったようだ。
「人が大人しくしてるからっていい気になんな!」
「あら下品な物言い」
サツキがクスクス笑う。それがよほど気に障ったのかスズメが顔を真っ赤にして怒りだした。
「あんた、絶対に泣かす!」
「できるんですか? あなたまだ級を持ってないんですよね? それくらいの情報ならこちらにも入ってるんですよ」
ハヅキが倣った。
「ハルキストの情報網を甘く見ないでよね」
「うっさい!」
と、一蹴。
スズメがユウミに告げた。
「不本意だけど組んであげる。こいつら叩きのめすわよ!」
ユウミは大きくうなずいた。
「うん! 一緒にがんばろうね、スズメちゃん」
「小松さん」
駅へと続く歩道を歩いていたユウミとスズメの背後から誰かが声をかけてきた。ユウミたちが振り返ると赤毛の少女二人がいる。セミロングとポニーテールという違いはあるものの、顔や服装は全く同じだ。
身長はともに160センチくらい。浅黒い肌でどこかエキゾチックな雰囲気のある顔立ち、紺色のパーカーの下には薄緑色のシャツが見える。デニムのスカートも紺。茶色のブーツもお揃いだ。
一目で双子だとユウミはわかった。
双子の一人、ユウミから見て左側の娘がセミロング。
右側がポニーテール。
セミロングの娘がスズメを指差した。
「あなた、いい度胸ですよね」
「はい?」
何を言われたのかわからないといったふうにスズメがきょとんとする。
ポニーテールの娘が付け足した。
「ハルキストの一員のくせにハルキくんとお茶だなんてどういうつもり?」
ハルキストというのはハルキのファンクラブのことだ。
幼馴染みでいつも傍にいるのが当たり前になっているユウミはなぜか見逃されているが、ハルキに近づこうとする女子がしばしばハルキストに難癖をつけられる……ということがあった。
しかし、スズメがユウミとハルキと行動を共にするようになってからもうすぐ一年。
その間に彼女がハルキストの標的にされたことなどなかった。
ましてや、スズメがハルキストの一員だったなんて聞いたことがない。
ユウミはたずねた。
「スズメちゃんってハルキストなの?」
「そんな訳ないでしょ」
即答。
「だいいち、ハルキストだったらあんたと仲良くしたりしないでしょ?」
そうだった。
なぜかハルキストの娘たちは全員ユウミと友だちになろうとしないのだ。日常会話程度ならしないでもないがそれも必要最低限度に抑えられている。
この目の前の二人のように接触してくることすら珍しいのだ。
「あなたたち……本当にハルキスト?」
「失礼なこと言いますね、新堂さん」
セミロングが笑んだ。
「まあ、ちょっとメンバーのパワーバランスが変わったといいますか、先輩方もいなくなって少々方向性が変わったんですよ」
「私たちの存在も大きいんだけどね」
ポニーテールが言葉を継ぐ。
彼女は名乗った。
「私は暦ハズき(こよみ・はづき)」
セミロングがさらに笑みを広げる。
「私はサツキです」
「えーと、双子でいいんだよね?」
ユウミの問いにハヅキが首肯した。
「そうよ。私が姉でサツキが妹」
「どっちでもいいわよ」
あからさまに不快そうにスズメが言った。
「ハルキストをバカにするつもりはないけど、私、あなたたちと一緒にされたくないわ」
「はぁ?」
ハヅキが声を荒げた。
「嘗めてるの? あんた、泣かすわよ」
「やれるもんならやってみなさい」
「こいつ!」
詰め寄ろうとしたハヅキをサツキが制した。
「ダメですよ。暴力でこの裏切り者に制裁を加えても意味がありません」
「でも、こいつ……」
「ハヅキちゃん」
サツキの表情から笑みが消えた。
「私の言うことがきけないんですか?」
うっ、とハヅキがたじろぐ。彼女はしぶしぶといったふうに身を引いた。
再びサツキが笑顔になる。
彼女は言った。
「小松さん、私たちとエンカウントしてください」
「はい?」
スズメが頓狂な声で応じる。
「何で私があんたたちとエンカウントしなくちゃいけないの」
「だって、あなたエンカウンターなんですよね?」
「答えになってないんだけど」
「ぐちぐちうるさい女ね」
ハヅキが睨んだ。
スズメが睨み返す。ユウミは今にも喧嘩しそうな二人をはらはらしながら……。
あ、と彼女は気づく。
口にした。
「ならあたしとスズメちゃん、それと暦さんたちの四人でタッグバトルができるね」
「タッグバトル!」
ぱぁっとサツキの顔がより明るくなる。
「何て素敵な響き。それナイスアイデアです!」
「でしょでしょ、私、実はほとんどやったことないんだよね。これって頭数が足りないとできないし」
「ちょ、ちょっと待って」
スズメが割り込んだ。
「私、エンカウントするなんて一言も」
「怖いんですか?」
サツキがにこやかだが鋭い視線を投げてくる。
「臆病者が裏切り者だというのならやむを得ません。そんな程度の女だったということで終わりにしてあげます。その代わりこの先ずっと笑い者になってもらいますからね」
ハヅキも笑った。
「そいつはいいわね、とんだビビリだったってみんなに吹聴してあげなきゃ」
「ぬぁんですってぇ!」
一気にスズメのボルテージが上がったようだ。
「人が大人しくしてるからっていい気になんな!」
「あら下品な物言い」
サツキがクスクス笑う。それがよほど気に障ったのかスズメが顔を真っ赤にして怒りだした。
「あんた、絶対に泣かす!」
「できるんですか? あなたまだ級を持ってないんですよね? それくらいの情報ならこちらにも入ってるんですよ」
ハヅキが倣った。
「ハルキストの情報網を甘く見ないでよね」
「うっさい!」
と、一蹴。
スズメがユウミに告げた。
「不本意だけど組んであげる。こいつら叩きのめすわよ!」
ユウミは大きくうなずいた。
「うん! 一緒にがんばろうね、スズメちゃん」