第31話「グリムノーム」のサツキ
文字数 2,640文字
スズメが左手からカードを一枚抜いた。
「私は生命力を1000支払い、魔法カード『クリティカルチアー』を発動! フィールド上に存在するハミングバードモンスター一体につき1000のダメージを相手プレイヤー(一人)に与える!」
スズメの生命力が4500から3500に減じる。
今度はスズメがハヅキを指差した。
「もちろん対象はあんたよ! 食らえっ! 5000のダメージ!」
「くっ!」
と、ハヅキ。
五体のハミングバードたちが一斉に鳴き始める。その声は囀りから騒音へと転じ、質量をともなってハヅキへと流れていった。
その圧倒的な音の奔流にハヅキが耳を塞ぐ。
と同時に膨大な量の鳴き声がハヅキの身体を吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ハヅキちゃん!」
ハヅキの叫びにサツキの悲鳴が重なった。
元いた位置から五メートル程飛ばされたハヅキが仰向けに倒れる。無数の木の葉と土煙が舞った。
ハヅキの残り生命力は1000。
ちっ!
舌打ちするスズメ。
「しぶといわね。でも、次は仕留めるわよ」
「……よくも……こんな」
起き上がりながらハヅキが毒づいた。
「絶対に……泣かすっ!」
「言ってなさい。私はこれでターンエンド」
スズメのターンが終わり、行動順は三番手のサツキに移る。
彼女の笑みが消えていた。
「ハヅキちゃんに何てことを!」
「まだこんなもんじゃないわよ、あんたら二人ともぶちのめすんだからね」
「そちらがそのつもりなら、こちらも手加減しません。覚悟してください」
「あっちはもうズタボロよ」
スズメがハヅキを顎で示した。
その先には木の葉と土埃まみれになったハヅキがいる。見るからに無残な姿だ。
「あいつを片づけたら、次はあんたよ」
「その前にあなたを始末します」
物騒な言葉の応酬にユウミはおろおろするしかなかった。スズメは興奮しきっていてとてもまともに話を聞いてもらえるとは思えない。暦姉妹もヒートアップしているのは間違いなかった。
確かに「遊び」じゃないよね、これ。
でも、こんなエンカウントは楽しくない。
どうにかしないと……。
バサバサッ。
視界の端から一羽のフクロウが現れた。灰色の羽の猛禽類。これまでも何度となくユウミのエンカウントに介入してきた自称「エンカウントモンスターズの精霊」。
クゥ。
上空を飛び回るフクロウに目を向けていたがそれが自分だけでないと気づいた。
サツキが口を半開きにしてクゥを見つめている。
まさか……。
「ユウミ!」
スズメの怒声にはっとする。
「何度言わせるつもり? エンカウントに集中して! 鳥なんて見てないで!」
「あ、うん。ごめ……ん?」
ユウミはびっくりしてスズメを見る。
「スズメちゃん、あのフクロウが見えるの?」
「は?」
バカにするように。
「そんなもん見えるに決まってるでしょ」
え?
ユウミは訳がわからなくなる。
みんな、見えるの?
と、そこにハヅキの苛立ちの混ざった声。
「ちょっと、三人とも何をぼうっとしてんのよ。空に何かあるの?」
「ハヅキちゃん、あれが見えないんですか」
「あれ?」
露骨に顔をしかめた。
「意味不明なんだけど」
見えてない。
ユウミは戸惑うばかりだった。
サツキちゃんだけでなくスズメちゃんにも見えているのにハヅキちゃんには見えていない。
だとすれば、これはどういう……。
クゥがサツキの頭の上を旋回した。
「ユウミ、この娘に気をつけて!」
「気をつけてって……」
「何ですかこのフクロウは」
サツキがフクロウからユウミへと顔を向ける。
「新堂さんのお知り合いですか。ナビにしてはらしくないデザインですが」
「ナビじゃないよ」
クゥが不満そうに応える。
「サツキ!」
ハヅキが怒鳴った。
「あんたの番よ! 遊んでないでドローして!」
「ユウミ、あんたもちゃんとして!」
スズメも怒った。
この二人、実は馬が合うのではないかと感じつつ、「うん、ごめん」と一応謝っておく。
クゥのせいで気が削がれていた。
一つ大きく息をつき、気持ちを切り替える。
サツキが右手を上げていた。
「私のターン!」
現出したカードをそのまま放る。
「私はカテゴリー2のグリムノーム・青のルーブを召喚します」
カードが一体のモンスターに変化した。
身長二十センチくらいの小人だ。七色のチェック柄の派手な衣装を着ている。浅黒い肌で髪の色は白。頭には青いとんがり帽子を被っていた。両手で身体の三倍はある木製のハンマーを持っている。
地属性で攻撃力は2000。
すぐに青白い光に包まれて攻撃力を2500にアップさせた。
グリーンフォレストの影響だ。
もう一枚、サツキが投げる。
「青のルーブを召喚したことにより、魔法カード『グリムノーム・ハイホーハイホー』を発動! このカードはフィールドにグリムノームモンスターがいる場合にのみ使うことができます。この効果によりフィールド上に存在するグリムノームモンスターと同じカテゴリーで名称の異なるグリムノームを手札から任意の数だけ特殊召喚します!」
サツキが左手の四枚を全て右手で掴み、放った。
「現れてください、私のグリムノームたち!」
カードから形を変えたのは四体のモンスター。
それぞれとんがり帽子の色が違っていた。
赤いとんがり帽子の小人は身体の二倍程度の剣を両手で握っている。
「グリムノーム・赤のドッレ」
地属性で攻撃力は2500。。
緑色のとんがり帽子の小人は白い角笛を持っている。
「グリムノーム・緑のリグーン」
地属性で攻撃力は1500。
黄色のとんがり帽子の小人は吹き矢を手にしている。
「グリムノーム・黄のエイロー」
地属性で攻撃力は2000。
そして桃色のとんがり帽子の小人は体の半分くらいのサイズの鏡を掴んでいた。
「グリムノーム・桃のクンピ」
地属性で攻撃力は1000。。
四体とも青白い光をまとい、攻撃力を500アップさせた。
……これでモンスターが五体。
あっという間の大量召喚にユウミは息を呑む。
スズメのときにも驚かされたが、これにも目を疑いたくなってしまった。
さらに言えばサツキはクゥが警告した相手でもある。
嫌な予感がした。
まさか……。
そうなの?
「私は生命力を1000支払い、魔法カード『クリティカルチアー』を発動! フィールド上に存在するハミングバードモンスター一体につき1000のダメージを相手プレイヤー(一人)に与える!」
スズメの生命力が4500から3500に減じる。
今度はスズメがハヅキを指差した。
「もちろん対象はあんたよ! 食らえっ! 5000のダメージ!」
「くっ!」
と、ハヅキ。
五体のハミングバードたちが一斉に鳴き始める。その声は囀りから騒音へと転じ、質量をともなってハヅキへと流れていった。
その圧倒的な音の奔流にハヅキが耳を塞ぐ。
と同時に膨大な量の鳴き声がハヅキの身体を吹き飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ハヅキちゃん!」
ハヅキの叫びにサツキの悲鳴が重なった。
元いた位置から五メートル程飛ばされたハヅキが仰向けに倒れる。無数の木の葉と土煙が舞った。
ハヅキの残り生命力は1000。
ちっ!
舌打ちするスズメ。
「しぶといわね。でも、次は仕留めるわよ」
「……よくも……こんな」
起き上がりながらハヅキが毒づいた。
「絶対に……泣かすっ!」
「言ってなさい。私はこれでターンエンド」
スズメのターンが終わり、行動順は三番手のサツキに移る。
彼女の笑みが消えていた。
「ハヅキちゃんに何てことを!」
「まだこんなもんじゃないわよ、あんたら二人ともぶちのめすんだからね」
「そちらがそのつもりなら、こちらも手加減しません。覚悟してください」
「あっちはもうズタボロよ」
スズメがハヅキを顎で示した。
その先には木の葉と土埃まみれになったハヅキがいる。見るからに無残な姿だ。
「あいつを片づけたら、次はあんたよ」
「その前にあなたを始末します」
物騒な言葉の応酬にユウミはおろおろするしかなかった。スズメは興奮しきっていてとてもまともに話を聞いてもらえるとは思えない。暦姉妹もヒートアップしているのは間違いなかった。
確かに「遊び」じゃないよね、これ。
でも、こんなエンカウントは楽しくない。
どうにかしないと……。
バサバサッ。
視界の端から一羽のフクロウが現れた。灰色の羽の猛禽類。これまでも何度となくユウミのエンカウントに介入してきた自称「エンカウントモンスターズの精霊」。
クゥ。
上空を飛び回るフクロウに目を向けていたがそれが自分だけでないと気づいた。
サツキが口を半開きにしてクゥを見つめている。
まさか……。
「ユウミ!」
スズメの怒声にはっとする。
「何度言わせるつもり? エンカウントに集中して! 鳥なんて見てないで!」
「あ、うん。ごめ……ん?」
ユウミはびっくりしてスズメを見る。
「スズメちゃん、あのフクロウが見えるの?」
「は?」
バカにするように。
「そんなもん見えるに決まってるでしょ」
え?
ユウミは訳がわからなくなる。
みんな、見えるの?
と、そこにハヅキの苛立ちの混ざった声。
「ちょっと、三人とも何をぼうっとしてんのよ。空に何かあるの?」
「ハヅキちゃん、あれが見えないんですか」
「あれ?」
露骨に顔をしかめた。
「意味不明なんだけど」
見えてない。
ユウミは戸惑うばかりだった。
サツキちゃんだけでなくスズメちゃんにも見えているのにハヅキちゃんには見えていない。
だとすれば、これはどういう……。
クゥがサツキの頭の上を旋回した。
「ユウミ、この娘に気をつけて!」
「気をつけてって……」
「何ですかこのフクロウは」
サツキがフクロウからユウミへと顔を向ける。
「新堂さんのお知り合いですか。ナビにしてはらしくないデザインですが」
「ナビじゃないよ」
クゥが不満そうに応える。
「サツキ!」
ハヅキが怒鳴った。
「あんたの番よ! 遊んでないでドローして!」
「ユウミ、あんたもちゃんとして!」
スズメも怒った。
この二人、実は馬が合うのではないかと感じつつ、「うん、ごめん」と一応謝っておく。
クゥのせいで気が削がれていた。
一つ大きく息をつき、気持ちを切り替える。
サツキが右手を上げていた。
「私のターン!」
現出したカードをそのまま放る。
「私はカテゴリー2のグリムノーム・青のルーブを召喚します」
カードが一体のモンスターに変化した。
身長二十センチくらいの小人だ。七色のチェック柄の派手な衣装を着ている。浅黒い肌で髪の色は白。頭には青いとんがり帽子を被っていた。両手で身体の三倍はある木製のハンマーを持っている。
地属性で攻撃力は2000。
すぐに青白い光に包まれて攻撃力を2500にアップさせた。
グリーンフォレストの影響だ。
もう一枚、サツキが投げる。
「青のルーブを召喚したことにより、魔法カード『グリムノーム・ハイホーハイホー』を発動! このカードはフィールドにグリムノームモンスターがいる場合にのみ使うことができます。この効果によりフィールド上に存在するグリムノームモンスターと同じカテゴリーで名称の異なるグリムノームを手札から任意の数だけ特殊召喚します!」
サツキが左手の四枚を全て右手で掴み、放った。
「現れてください、私のグリムノームたち!」
カードから形を変えたのは四体のモンスター。
それぞれとんがり帽子の色が違っていた。
赤いとんがり帽子の小人は身体の二倍程度の剣を両手で握っている。
「グリムノーム・赤のドッレ」
地属性で攻撃力は2500。。
緑色のとんがり帽子の小人は白い角笛を持っている。
「グリムノーム・緑のリグーン」
地属性で攻撃力は1500。
黄色のとんがり帽子の小人は吹き矢を手にしている。
「グリムノーム・黄のエイロー」
地属性で攻撃力は2000。
そして桃色のとんがり帽子の小人は体の半分くらいのサイズの鏡を掴んでいた。
「グリムノーム・桃のクンピ」
地属性で攻撃力は1000。。
四体とも青白い光をまとい、攻撃力を500アップさせた。
……これでモンスターが五体。
あっという間の大量召喚にユウミは息を呑む。
スズメのときにも驚かされたが、これにも目を疑いたくなってしまった。
さらに言えばサツキはクゥが警告した相手でもある。
嫌な予感がした。
まさか……。
そうなの?