第43話 『大アトラン国伝誦・ I  アーゴンシュカの物語』 1 

文字数 1,847文字

 (日付不詳。中学〜高校のどこか。)


 ある昼下がり。埃のたつ雑踏の市の辻で、道を行く婢女(はしため)の1人が頓狂に声をあげた。
 「あれ見さいのう。あれに行かしゃるはズードリブールのお館さまでは」
 ズードリブールの名が出ると共に、人々の顔が自然と指された方を向く。
 と、そこには長い絹裳の裾を風になびかせて、堂々と馬上にある貴婦人の行列があった。
 白にえんじの鮮やかな上衣に 同色 逆配色の裳を着けて、宵闇色の被衣を涼やかに浅く打ち掛けただけの姿である。ズードリブールの館さまと呼ばれる女性は、衆人の中で輿の垂れ衣を降すどころか、美しい横顔をさえ陽にさらして、馬に乗っているのだった。
 わずかに臆した様子でやはり馬の背に揺られながら続く、華やかでいてどこか清楚な装(なり)の従女達。頬を紅潮させ、よしや乙女らや美しい女主人に無礼の儀を働く者のあれば、と、まだ幼なさの残る美しい青年兵が後衛に就いている。
 市場中に散開していた群集の眼と心とを一身に捕えて、ズードリブールの侯爵正妃は悠然と市の一角を目指して進んで行った。
 「なんと、アヴィン。我が妃(みめ)よ」
 一行が近づくにつれ、異国の隊商の天幕から身軽く迎えに現われたのは、おそらく舎人が知らせに入っていたものであろう、ズードリブール侯爵その人である。
 彼は口先程には驚愕した様子も無いようで、楽々とした大股で優雅に歩み寄って来ると、 アフィンと呼んだ 妻が鞍から降りるのに手を貸した。
 豪奢な、殆ど黒一色の服に身を固めた長身の侯爵の隣に立って、黒髪の侯爵妃アヴィラ・アンゴルシュカの姿は、華奢で小柄ながらも凛とした気品と気高さに光りを放たんばかりである。
 王都に住む者なら誰知らぬ事のないこの2人の並んでいる様は、嵐の天を貫く稲妻のような、それとも昼日中太陽が消えてしまった時に残るあの不思議な蒼い炎のごとき輝きを帯びているかのようで、見る者の心を思わず魅きつけてしまわずにはおかない。 なぜなら、彼らはこの時代、この世界において唯一、何ものからも束縛されない心を持った人間だったのだから。
 それでも侯爵は試みに妻をなじってみせる。
 「アヴィン、そなた、街中に出るなとまでは言わぬが、せめて輿なと車なと使うわけには行かぬのか。女人の身で馬に乗り、人前に姿をさらすなど」
 侯爵妃は笑う。侯爵の舎人たちや取り引き相手の異人たちすらが居並ぶ中で、生き生きとした声をたて、扇で顔を隠すような振る舞いもしない。
 「輿の垂れ衣越しでは民人の生活を見る事もできませぬ、馬の方が性に合うて楽にござりますわ。わたくしは、全てわたくしの自由にしてよいというお約束であなたのもとに参ったのですから、侯爵」



 『れぶノだい王ノ二十五年、騎馬民族 西ヨリ来タリテ れぶ ヲ攻ム。だい王・あぜんノ役戦ニ敗シテ和ヲ請ヒ、正妃ぐおりヲシテ騎馬ノ長ニ嫁ガシム。ソノ子ゆでぃん、マタ姫 あう゛ぃん、二児ナリ。
 あんごる トハ あう゛ぃん・あんごる妃(しゅか) ナリ。れぶノ白キ肌ト騎馬ノ族ノ黒キ髪トヲ持チテ、れぶノよしゅいノ西北、青ガ草ノ原ノ幕舎ニテ生マレタリ。十ノ歳ニ至ルマデヲ彼ノ地ニテ過ゴシ、れぶノだい王ノ三十四年、都ごどむニ来タル。
 ごどむニ侯爵アリ。貴キ血ヲ汲ム者ニシテ富裕ナルずうどりぶるノ領主。武将ノ生マレナガラ異邦ノ輩ト易交シ、巨財ヲ得ル。マタ妖術錬金術ヲモ技トシタト人ニハ語リツガル。
 だい王、宮ニ上ガリタルあう゛ぃんヲ欲ス。あう゛ぃん返言シテ曰ク、
 「吾ハ吾ガ心ノママニ生クルコトヲ欲ス。君、王ハ吾ガ望ミヲカナエルカト。」
 だい王、コレヲ拒否ス。スナハチあう゛ぃん、王ヲシテ退出セシム。
 侯爵、ソノ噂ヲ伝聞シシテあう゛ぃんニ求婚ス。あう゛ぃん再度問フ。侯爵諾シテ即ワチ後宮ノ妻妾ラヲ解キ払イ、あう゛ぃんタダ一人ノミヲ正妃トシテ娶ル。諸侯彼ヲ嘲ス。彼辞セズ。』

           …… レブ史 悲妃伝 ……



処女王アーゴンシュカの父母であると伝えられる2人について、
             実の両親であると思われる

アンティゴンウル
ウィラ=アゴン
イラ
ユリ
アヴィン





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コメント
りす 2006年12月23日23:06
ヒミツ日記(相互リンクの人のみ表示)

……えっと〜……☆

『アンジェリク』(原作のほう)と、
『グイン』の、リギアとスカールと、
『風とともに去りぬ』のスカーレット、
あと、
『旧約聖書』と、
『史記』のMIX……??? (^◇^;)”
 

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