第99話 『 (無題) 』
文字数 1,104文字
(@高校在学中?)
扉はきつく閉ざされておりました。そろそろと火の手がのまわりはじめた奥宮の広間の中央に、彼女はひとり毅然と立ち尽して何事かを待っていました。足音が聞こえて来ます。疲れ切った、けれどどんな深傷の痛みをも忘れて果てて、ただにひた走って来る足音なのでした。待っていた貴女はわずかに扉に、歩み寄りたげにして止めました。
「マーイアラフ!」
彼は取りつくなり激しく扉を打ち始めました。
打ち砕かんばかりに扉は激しく乱打されました。
「マーイアラフ! 居るのだろうそこに。マーイア!」
青銀の光が輪郭を透かし、飛仙の力が扉を押し開こうとします。貴女はためらわずたおやかな腕をあげ、碧の輝やきが放たれて扉を包みこみました。
「マーイアラフ、何をする?!」
「お静かに、兄上様」
飛仙一族の貴女は、 ました。
「皇(おう)陛下にはすでに御他界なされました。今や奥津城になろうとするこの宮へ、何の用がおありで騒ぎを持ち込まれようというのです。」
「マーイアラフ! そなたは……」
扉の外で、妹の決然とした声を耳にしながらなおもその結界力を打ち砕こうとむなしく振り当てた両腕に、がくりと体を預けて彼は声を絞り出しました。
「……頼む。出て来るのだ。マーイアラフ。私達にならまだいくらでも逃げのびる途はある。出て来るのだ。死が怖ろしくはないのか。」
「兄上様、皇は亡くなられたのです」
「マーイアラフ! そなたは未だ千年と生きてはいないのだぞ!」
「……故意に、お忘れですか、お兄さま?」
燃え広がる炎の広間の中で妹は美しく微笑みました。
「節を通させて下さいませ。わたくしは、皇に嫁した、ダレムアスの女皇(めのきみ)なのですよ。人の子たる皇陛下の命数に、殉じます」
「マーイアラフ!」
「仙女皇セイラ。あなたがたを悲しませた娘(セイ ウィラ ノリ ウィラ ウァマ)、ですわ。お許し下さいませ、皆を嘆かせたわたくしの、これが最後の我がままですわ」
エルフエリは力を失い、扉に背をもたせました。
「そうか……」
「わたくしは、短き生を自ら選び取ったのですから。それが予定より早まってしまったとは言え」
「そなたはこの日の来る事を予覚していたのだな。未来(さき)を視る瞳の陛下」
若々しい女皇は答えず、兄もそれ以上言葉を継ぎませんでした。炎が静かに城中を飲みつくそうとしていました。明るい広間の内ではオレンジの炎が。崩折れるエルフエリの囲りでは暗く昏い赤い焔が。
「お兄さま? 御逃げ下さいませ」
「……小さかった私のマーイアー。酷い事を言うな」
「皇女と皇子達は逃げのびました。子供達をお願い申します」
扉はきつく閉ざされておりました。そろそろと火の手がのまわりはじめた奥宮の広間の中央に、彼女はひとり毅然と立ち尽して何事かを待っていました。足音が聞こえて来ます。疲れ切った、けれどどんな深傷の痛みをも忘れて果てて、ただにひた走って来る足音なのでした。待っていた貴女はわずかに扉に、歩み寄りたげにして止めました。
「マーイアラフ!」
彼は取りつくなり激しく扉を打ち始めました。
打ち砕かんばかりに扉は激しく乱打されました。
「マーイアラフ! 居るのだろうそこに。マーイア!」
青銀の光が輪郭を透かし、飛仙の力が扉を押し開こうとします。貴女はためらわずたおやかな腕をあげ、碧の輝やきが放たれて扉を包みこみました。
「マーイアラフ、何をする?!」
「お静かに、兄上様」
飛仙一族の貴女は、 ました。
「皇(おう)陛下にはすでに御他界なされました。今や奥津城になろうとするこの宮へ、何の用がおありで騒ぎを持ち込まれようというのです。」
「マーイアラフ! そなたは……」
扉の外で、妹の決然とした声を耳にしながらなおもその結界力を打ち砕こうとむなしく振り当てた両腕に、がくりと体を預けて彼は声を絞り出しました。
「……頼む。出て来るのだ。マーイアラフ。私達にならまだいくらでも逃げのびる途はある。出て来るのだ。死が怖ろしくはないのか。」
「兄上様、皇は亡くなられたのです」
「マーイアラフ! そなたは未だ千年と生きてはいないのだぞ!」
「……故意に、お忘れですか、お兄さま?」
燃え広がる炎の広間の中で妹は美しく微笑みました。
「節を通させて下さいませ。わたくしは、皇に嫁した、ダレムアスの女皇(めのきみ)なのですよ。人の子たる皇陛下の命数に、殉じます」
「マーイアラフ!」
「仙女皇セイラ。あなたがたを悲しませた娘(セイ ウィラ ノリ ウィラ ウァマ)、ですわ。お許し下さいませ、皆を嘆かせたわたくしの、これが最後の我がままですわ」
エルフエリは力を失い、扉に背をもたせました。
「そうか……」
「わたくしは、短き生を自ら選び取ったのですから。それが予定より早まってしまったとは言え」
「そなたはこの日の来る事を予覚していたのだな。未来(さき)を視る瞳の陛下」
若々しい女皇は答えず、兄もそれ以上言葉を継ぎませんでした。炎が静かに城中を飲みつくそうとしていました。明るい広間の内ではオレンジの炎が。崩折れるエルフエリの囲りでは暗く昏い赤い焔が。
「お兄さま? 御逃げ下さいませ」
「……小さかった私のマーイアー。酷い事を言うな」
「皇女と皇子達は逃げのびました。子供達をお願い申します」