第48話 『 苦 夏 − サタナクラ − 』 

文字数 656文字

 (by 柊実真紅@日付不詳) 1.


   1.

 ひょおっと風が吹きさ泣く。
 サタナクラは奴隷文化の中心をなす土地である。
 朝、遠い地平の日の出とともに銅鑼や鐘の音(ね)が響きわたり、使役される人々の群れは幾百幾千もの列を作って移動をはじめる。

 ……はいよぉー。
 ……ほいぃ……

 長く尾をひく独特のかけ声が順送りに園地へ去って行ったあと、北斜面の掘っ立て小屋に残されるものといえば、にわとりに荒地山羊か。
 光さしそめた広大な盆地はすぐに熱気の鍋となる。
 川はない。
 赤く灼けた世界をわたる風が月日にさらされた帆をまわし、ゆっくり、ゆっくりと、木組みの動輪がわずかばかりの濁水を汲みあげる。
 水運びは子供の仕事だ。
 女は固い黒紫の果実をもいで、ずっしりと、身の丈ほどの籠に積みあげてどこまでも引いてゆく。その、後から、枝をはらい、根を掘りおこして、男たちが来年のための苗木を植えて続く。

 ……仕事は辛くはない。
 生まれてから死ぬまで。
 ひとは園地で年をとる。
 ……けっして辛くはない。

 ひょおぉ……
 今日も、ブナン樹の固い葉だけが揺れるすりばち状の広原を、熱砂と日差しが吹きぬけてゆく。

 赤い風ふくサタナクラ。

 ……そう、ひとは彼の地を呼んだ。



 
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コメント
りす 2006年12月23日23:11
ヒミツ日記(相互リンクの人のみ表示)

横書き原稿用紙(400字詰め)タイプの大学ノート。
使用している筆名からして、専門学校時代、もしくは、
社会人になってから、まだ同人誌していた頃、
だと思われる……
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