第56話 『 《白の一族》 縁起 』 

文字数 3,904文字

(なんつって未詳である)。 (1990.12.12.嵐★)


 根源未詳。かの四世界鎖国時のどさくさに紛れてアトル・アン・ティス中西部森林地帯、通称()に定住していた。精霊の力や大地の不思議に関して優れた知識を持つので、史学上、しばしば天人族エルシャマーリャの系統と解されていたが、複数神信仰や後世における一処不住性など、それでは説明のつききらない特質・属性を多く持つ。また惑星リスタルラーナへ漂着した移民船フェアリスティラーヤの乗客中、単性長寿のイシール族、これは人種的特徴から推して明らかに天人族であろうと思われるが、史略初期に示される行動形態にはむしろ《白の一族》にこそふさわしい大胆さと情愛の深さが見られる。実験的に創造された種族かあるいは異界からの移住民であるにせよ、おそらくその起源は天界エルシャムリアの時代に遡って求めるべきであろう。上古の資料を入手する術がないのが残念である。リステラス辺境、惑星 《緑》および《白沙》 における同系の文化も、どの時点での移民の成果であるのか現在のところ不明である。

 ☆ 惑星(地球)における史略。

 アトル・アン・ティス中西部森林地帯の北辺、大河スウェンの上流域()における定住時代が、現在判明している限りでは最古のものである。当時は《白の》とは自称せず、サンサラ、《谷の一族》という呼称が使われていた。四囲を深く広大な森林に守られて、平和な狩猟・採集・農耕の時代が長く続き、安定した芸能文化が発達していた。が、この時点で既に、一族の漂着の伝説と流浪への予言が存在していたという。来たるべき存亡の危機に際して一族の守り手とする為に戦士の村ザグに才能ある者を送るセンド・レーサなる伝統があり、活火山カリンシカの隆起により東方との交易の道を断たれて後は、帝国の臣領として少数の優れた戦士を提供し続けた。
 《異界からの侵入者》ゼクートにより帝国が一時瓦解した際、広大な森と谷から焼け出され、難民の群れと行を共にした一族は、その後、戦乱が収束してからも再び安住の地を持とうとはせず、《白》を最首とする各色の派にわかれて大陸内を流転し、各処でその芸能や知識によって生活の糧を求めた。
 星船来襲によって大陸もろとも帝国が失なわれた後、長い時代を彼らはその時代その土地に合わせて生きのびてきたが、ユーラシア全域を結ぶ東西交易の路が開けると各色支族は商人や旅芸人と紛れて再合流し、また大航海時代と共に惑星規模での血族結社となった。ただし、最首たる《白の一族》が好んで版図としたのはアフリカ北西部から中国奥地にかけての乾燥地帯であり、どのような死の砂漠も徒手空拳で渡る不死の一族、また、水枯れの年にどこからともなく現れて水の場を復活させる魔法の歌と舞の一族として、周辺諸族の畏敬を受け、多くの土俗的信仰に半神として受け容れられた。また、中東地方において唯一神教が流布した後には、超人的な力を持つ異教の魔神として、誇張された説話の中に《白の一族》と覚しき事跡が散見される。その他、下層支族である《緑》や《紫》は流浪芸人や流しの職人としてしばしばジプシー部族とその存在を混同視され、《茶》は多くが商人や奴隷に溶け込み、《青》は海洋民として、南太平洋諸島を根城に世界へ出て行った。
 第三次大戦終息直前、多くのESP者を輩出した時代、《白の一族》から独立した《黄金》のイルレアーナがESP者の同盟(ア・ルーヴァ・タゥーレ)を建国、各支族の生き残りの殆どがこれに参加し、一族としては発展的解消をとげた。地表に残った者は新たに部族外の者も加えて《灰色の一族》アイン・ヌウマを名告り、極東草原地帯に広大な遊牧の版図をかまえたが、惑星政府統一に際し部族の解散を宣した。


 ○ 史略上の重要な人物 ○

1. ハユン家のアマラーサ、及び、アグニス家のトゥード

 カリンシカ交易路が断たれる寸前、最後の児童送遣(センド・レーサ)として戦士の村ザグへ送られた2人組である。どちらも優れた戦士であり、慣習に基づく婚姻によって《谷》の血統をザグの村に伝えるものと思われていたが、ハユンのアマラーサは発心して月女神レリナルディの巫女となり、全ての人界の掟から解き放たれた聖戦士となった。
 《谷》を守る大河の精霊スウェナ・ラディが《砂漠の王》に略奪された際、同じくスウェナの対者として《谷》を守る風の精霊フエンがアグニスのトゥードに一族の危急を告げ知らせ、アマラーサの助力を得た彼は《砂漠の王》と戦い、スウェナを解放した。この旅の後、2人は再びザグの村へ戻ることはなく、生涯を共に漂泊のうちに過した。隆起後のカリンシカ連峰を最初に踏破して交易路を再開し、各地で住民を悩ます邪竜や悪王を退治した等、伝説に語られる武勲譚は数多い。また、月読み峠のレリナル神殿を訪ねたアマラーサは、女神及巫者集団である月読み衆との問答によって宗教史に新たな展開をもたらし、婚姻によらない個人の意志に基づいて出産した最初の巫者となった。
   (>月女神信仰の項、参照)
   (>女戦士 リィ・カタナ)

2. ディア家のディカール、
  (もしくは帝国風にディカール・デュア・ディアレスト)

 帝国の臣領としての《谷》の時代の末期、武家の子弟として兵教育を受け、トゥリアンギア公領に配された彼は、 いくつかの偶然から 不遇の公子ミアルドと出会い、その対者(ミトラ)となった。父帝崩御の際に異母兄たる新帝からの処刑命令を察して国を落ちた公子に付き添い、《谷》へと抜ける森の旅に出るが、途上で異界者ゼクルディ族の帝国侵攻を知り、唯一の帝位後継者となった公子を守って帝領奪還の長戦を指揮した。同時期にゼクルディの放火により《谷》は消失したが、彼はそれを救いえず、以後、流浪する一族のもとに戻ることもなかった。晩年は帝位を回復したミアルドの腹心として、また公子の養育係として仕え、自らは子をのこすことなくその生涯を閉じた。伝記には生年及び性別に関する記述に混乱があり、あるいは兄妹もしくは双生児による業績だったのかとする説もある。
  (>対者思想(ミトラ・タ・ヴィアタ)及び三身の法の項、参照)

3. ミーニエ・マリセ・ブランチェスカ=ガクト・イソハラ
   (磯原マリセ)

 生粋の白の一族として砂漠に生まれたが、少女の頃に縁あって欧州人のキリスト教宣教師の養女となり、フランスで医学を修めた後、国連所属の野戦(従軍)看護婦として難民及びゲリラ軍の救護に努めた。その地で遭難し奇跡的な生還をとげた世界的な報道カメラマンであった磯原岳人の妻として日本国へ帰化して四児の母となり、障害児施設に勤務するかたわら、緑慶年代の同国の暮らしについて優れた手記を残した。黄金のイルレアーナの《血の濃い(両縁の)》従姉であり、磯原清の実母であるとされている。

4. 《黄金》の イルレアーナ (アルヴァトーレの大后母)

 第三次世界大戦さなかの混乱期に白の一族として生まれたが、あまりに強すぎるそのP能力のゆえに長老たちにその存在を受容されず、自ら独立して《黄金》を名乗った。《ムーンII》衝突回避の際、アルカス・アルヴァトーレの呼びかけに最初に応じたひとりで、以後、彼と共にESP者のための王国建設に力を尽した。アルヴァトーレ大公国の初代公女ヘスティアは、2人の遺伝子から造られた人工授精体である。
  (>アルヴァトーレの項、参照)

5. 磯原 清 (キーヨ・エ・ミーニエ)

 外部に嫁したミーニエ・マリセの末子であるので正確には一族の者ではない。緑慶年代の日本国に生まれたが、月に遺されたエルシャムリアの母思考機械リーシェンによって仲間と共に時代を運ばれ、最終戦争中期のアルヴァトーレに転籍した。最盛期のアルカスに匹敵するP能力を持つことからその再来と呼ばれ、宇宙植民者連合軍ゲフィオンに協力。戦闘中死亡した。ゲフィオン隊長・杉谷好一の妹であるユミコ・フェア=スギタニとの間の一児、杉谷 狼 は、後に地表上で《青狼伝説》団を結成、《灰色の一族》に合流した。
  (>最終戦争の項、参照)

6.蘭家の冴夢 (サエム・ラン=アークタス)

 《最終戦争後》と呼ばれる時代の末期、極東草原地帯全域をその版図とした《灰色》=《人間の一族》アイン=ヌウマの最後の族長であり、地球統一政府との戦争を、その使者ヨセフィア・アークタスとの婚姻によって回避。部族の解散を宣して新らしい時代へと溶け込むよう主張し、自ら範を示してシゾカ市へ移住した。吟詠詩人として名高かったが、二女を残し夭逝した。

7. サキ・ラン=アークタス (蘭家の咲子)

 解散を宣した後の、部族外との婚姻による出生であるので、自らを一族の者とは認めなかった。サエムとヨセフィアの二番目の娘であり、第一期官費留学生となって地球を離れ、生涯の殆どをリスタルラーナで過した。科学者マリア,ソレルの腹心として働き、鎖国を続けていたアルヴァトーレ女王国との間に国交を回復させ、その地を借りてESP者の訓練校、エスパッション・スクールの開設に力を尽した。その後、深宇宙探査船に同乗し、子供を残すことなく消息を断った。
  (>エスパッションの項、参照)

 ☆ 惑星(白沙)(しろきすな)における史略 ☆


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コメント
霧木里守≒畑楽希有(はたら句きあり) 2016年7月1日21:39

続きはこちらへどうぞ…。

>http://85358.diarynote.jp/201607012038387127/
《水滴大陸》の主要5民族(?)について。【 ※ ネタばれあり。】

(2016年7月1日)
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