第37話

文字数 1,050文字

 トレンスキーは首をかしげてゲルディークを見る。
「そうだが、何か問題でも?」

 招来獣(しょうらいじゅう)四精石(しせいせき)の結晶を核にして創られる。
 大型でより高度な能力を有する招来獣を創るためには、それだけ高価な四精石をふんだんに使わなければならない。そして核の破壊ではなく、トレンスキーが帰還の(うた)で”還した”招来獣たちは、使用された四精石がそのままこちら側に残る。
 結果、招来獣を”還す”たびに彼女の元には高価な四精石が集まるのだ。

「……いいや、十分だよ」
 真顔で結晶を眺めていたゲルディークは一つ息を吐くと、椅子の背に体を預けて小さく苦笑した。
「こんな(もの)を簡単にくれるなんてな。さすが、赤き衣の救世主は金払いも常人とは一味違う」
 からかうようにゲルディークが言うと、トレンスキーは嫌そうな顔で大きく首を振った。
「冗談はよせ。この色のせいでフェーダに目をつけられるのは私にとっても不本意なのだ」
「冗談だと思ってるのはお前だけかもしれないけどな。……まあいいさ」
 四精石を全て受け取ったゲルディークは、眼前に広げられた地図に目を落とした。

「さて、どこから話そうか。まずは半年前、カルア・マグダで招来獣騎兵隊(きへいたい)が設立された話からかな」
「今さらカルマはそんなものを?」
 トレンスキーは不服そうな顔をゲルディークに向けた。
「失礼だが、貴殿(きでん)の国には危機意識というものが無いのか?」
「俺に言ったって仕方ないだろうが」
 心外そうな顔をしたゲルディークは気を取り直したように話を続ける。

あの惨劇(アーフェンレイト)の原因はクウェンの方にあった。大失敗を犯した国とそれを間近で見ていた国の差だろう。クウェンが招来術(しょうらいじゅつ)に消極的になったのもあって、自分たちならもっと上手く使いこなせると考えたんだろうさ」
「それにしても……」
「騎兵用の招来獣はそれ自体が強い戦闘力を持ってるわけじゃないらしい。お前のとこのお馬さんと一緒さ、要は使い方次第と見たんだろう」
 トレンスキーは低くうなった。
「……しかし、民衆は納得するだろうか? 招来獣の被害は貴殿の国とて深刻なものだろう?」
「それをさ、納得させちまったんだよ」

 肩をすくめたゲルディークは地図の上方、カルア・マグダ領内に目を落とした。
「招来獣騎兵隊の隊長は現皇帝の腹心といわれる男、オース・レイヨルドというんだが。そいつがさ、……なんとカルア・マグダ国内で”黒のグラスメア”の討伐(とうばつ)に成功したらしい」
「何だと?」
 トレンスキーは薄青色の目を大きく見開く。その視線を受けるゲルディークの表情も、今までになく真剣な色を浮かべていた。
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登場人物紹介

名前 : トレンスキー・エル・デア・ルートポート

誕生日: 10月8日

誕生花: 金木犀(花言葉は謙遜、真実、陶酔)

好物 : 酒類、特に赤ワイン


 クーウェルコルトの若き女四精術師。クウェン公用語で話す時は老人口調。亡き師匠の遺品である四精術増幅装置の片割れと、表世界と裏世界をつなぐ帰還の詠を用いて招来獣を還す旅をしている。


~作者一言~

 お人好しで空回りばかりするドジっ子。なのに個性的な口調と職業のせいで、何となく格好良い人だと周囲に勘違いされているお得な主人公ですね。

名前 :アンティ・アレット

誕生日:2月23日

誕生花:ポピー(花言葉は忘却、想像力、恋の予感)

好物 :干した苺


 フィリエル領アレットで出会った記憶喪失の子ども。無垢で幼げな印象だが招来獣に相対すると攻撃的になる。身体能力が高く短剣を操るのが得意。


~作者一言~

 発展途上、可能性のかたまり。この子が自分の言葉で話して自分だけのトフカ語を操るようになった時、きっと物語は大きな転換期を迎えるような気がします。

名前 :ハヴィク・ラウエル・イル・メルイーシャ

誕生日:7月2日

誕生花:クレマチス(花言葉は精神の美、旅人の喜び、策略)

好物 :アップルパイ


 招来術の天才といわれたクウェンの招来術師シウル・フィーリス・イル・メルイーシャが創った招来獣。精巧な人型を含む七つの形態変化とクウェン語を介する能力を持つ。


~作者一言~

 パーティには語尾が個性的な子や動物系マスコットキャラクターがいた方が良いと言われてできたキャラクター。ボケとツッコミの境界にいる印象が強いです。

名前 :ゲルディーク・イアン・リレッダ

誕生日:9月18日

誕生花:アザミ(花言葉は独立、報復、人間嫌い)

好物 :ハーブティー


 カルア・マグダから来た隻眼の四精術師。カルマの学術機関を逃亡してクウェンに至った。学舎制度の下で育った四精術師を軽蔑し、招来術師や招来獣を強く嫌っている。


~作者一言~

 お花さん好き、声フェチ、被虐趣味、外見からくる劣等感と、四人の中で一番癖のあるキャラ。彼の命がけの復讐はこれから達成されるのでしょうか?

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