第22話

文字数 1,009文字

「……ゲルディーク、それ以上アンティをいじめるでない」
 ゲルディークの後ろに立ったトレンスキーが尖った声で言った。ゲルディークは小さく肩をすくめる。
「心外だな。お前の中で俺の印象ってそんななの?」
 トレンスキーは唇を引き結んだまま答えない。軽く鼻を鳴らすと、ゲルディークはそれ以上の興味を失ったようにアンティから視線を外した。

 その横顔を見上げて、アンティが小さく声をかけた。
「その、ゲルディさん」
「……ん?」
「さっき、師匠(せんせい)の後ろから突然現れたように見えました。どうしてですか?」
「ああ、あれか」
 ゲルディークはつまらなそうに言った。
四精石(しせいせき)を使った結界だよ。町なんかにある招来獣(しょうらいじゅう)除けと一緒さ」
 不思議そうな顔をするアンティに、ゲルディークは周囲を見渡しながら淡々と説明する。
「人にでも場所にでも使えて、厳重に張れば周りから見えなくなるし声も届かなくなる。気配も消せる」
「……だから、ゲルディさんの姿が見えなかったのですね」
 聞いたアンティは納得したように頷いた。
「まあ今のはごく簡単なものだし、少し動いただけですぐに解けちまったけどな」

 ゲルディークの言葉を聞いて、トレンスキーがはっとする。
「……そうか、結界か!」
 四精石とトフカ語が扱えれば、招来術師(しょうらいじゅつし)でも結界は張れる。山にいるはずの術師も招来獣も見つからないのはそれが原因なのではないか。
 トレンスキーはゲルディークにずいと近寄るとその顔を見上げて言った。
「お主、結界を張るのが得意なら探すのも得意じゃったな。せっかく来たのじゃ、この近くに結界を張った痕跡がないか探してはくれぬか?」
「は、何で俺が……」

 面倒そうな顔をしたゲルディークの鼻先に、篭手をつけない左の人差し指が伸びる。ぎょっと見開かれた鳶色(とびいろ)の目に向かってトレンスキーは小さく笑って首をかしげた。
「ワシらだけで探しても良いが大いに時間がかかるぞ。その間、わざわざ会いに来てもらったお主の要件も当然後回しにされるが、それでも構わぬのか?」
 ゲルディークは絶句する。
 しばし無言でトレンスキーを見つめた後、やがて小さく吹き出して言った。
「そりゃあたしかに困るけどな。可愛くねえな、助けがほしいなら素直にそう言えよ」
「では頼む、お主の力が借りたい。この通りじゃ」
「ま、それなら仕方ねえか」

 二人の会話を聞いていたアンティは不思議そうにラウエルを見上げた。
 ラウエルは何も言わず、軽く肩をすくめただけだった。
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登場人物紹介

名前 : トレンスキー・エル・デア・ルートポート

誕生日: 10月8日

誕生花: 金木犀(花言葉は謙遜、真実、陶酔)

好物 : 酒類、特に赤ワイン


 クーウェルコルトの若き女四精術師。クウェン公用語で話す時は老人口調。亡き師匠の遺品である四精術増幅装置の片割れと、表世界と裏世界をつなぐ帰還の詠を用いて招来獣を還す旅をしている。


~作者一言~

 お人好しで空回りばかりするドジっ子。なのに個性的な口調と職業のせいで、何となく格好良い人だと周囲に勘違いされているお得な主人公ですね。

名前 :アンティ・アレット

誕生日:2月23日

誕生花:ポピー(花言葉は忘却、想像力、恋の予感)

好物 :干した苺


 フィリエル領アレットで出会った記憶喪失の子ども。無垢で幼げな印象だが招来獣に相対すると攻撃的になる。身体能力が高く短剣を操るのが得意。


~作者一言~

 発展途上、可能性のかたまり。この子が自分の言葉で話して自分だけのトフカ語を操るようになった時、きっと物語は大きな転換期を迎えるような気がします。

名前 :ハヴィク・ラウエル・イル・メルイーシャ

誕生日:7月2日

誕生花:クレマチス(花言葉は精神の美、旅人の喜び、策略)

好物 :アップルパイ


 招来術の天才といわれたクウェンの招来術師シウル・フィーリス・イル・メルイーシャが創った招来獣。精巧な人型を含む七つの形態変化とクウェン語を介する能力を持つ。


~作者一言~

 パーティには語尾が個性的な子や動物系マスコットキャラクターがいた方が良いと言われてできたキャラクター。ボケとツッコミの境界にいる印象が強いです。

名前 :ゲルディーク・イアン・リレッダ

誕生日:9月18日

誕生花:アザミ(花言葉は独立、報復、人間嫌い)

好物 :ハーブティー


 カルア・マグダから来た隻眼の四精術師。カルマの学術機関を逃亡してクウェンに至った。学舎制度の下で育った四精術師を軽蔑し、招来術師や招来獣を強く嫌っている。


~作者一言~

 お花さん好き、声フェチ、被虐趣味、外見からくる劣等感と、四人の中で一番癖のあるキャラ。彼の命がけの復讐はこれから達成されるのでしょうか?

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