番外編 『千里クエスト その1』

文字数 6,671文字

ピンポーン

千里 「……。」

ガチャ

晴美 「あっ、千里!いらっしゃい!!」

千里 「入っていい?」

晴美 「もちろん!」

私の名前は木津千里。そしてこの私の前にいる眼鏡っ娘は晴美、私の幼馴染であり、親友である。

晴美 「……私の部屋は分かるよね? 先に行っててくれない? お茶、用意するから」

千里 「別に大丈夫だけど。」

晴美 「とりあえず先行ってて!!」

階段を上がり、二階の角っこの部屋へ。そこには相変わらず漫画がいっぱい。そしておそらくあのベットの下には同人誌を隠しているに違いない。バレバレなのに気づかれてないと晴美は思い込んでいる。まあそこが晴美らしいっちゃらしいんだけど……。

千里 「……あれっ?」

珍しい。テレビにゲームの映像が映っている。しかもRPGのようだ。

千里 「……晴美、RPGなんてやったことないはずだけど。」

晴美 「私の推しの漫画家さんがそのゲームをすごく推しててね、つい気になっちゃって買っちゃった」

後ろから晴美の声。

晴美 「今の所、ただのRPGだけど、あそこまで推すんだからきっと面白いに違いない!!」

目がキラキラしてる。

千里 「……ふーん。」

晴美 「興味なさそうだけど?」

千里 「いや、そういうわけじゃないわよ。ただRPGは私もやったことないから、画面を見てるだけで新鮮でね。ボッーと見てただけよ。」

プルルルル

千里 「……音が聞こえるけど?」

晴美 「あっ、電話だ。うーん……。一階に電話しに行くから千里、ちょっとそれ進めておいてくれない?」

千里 「私が進めていいの?」

晴美 「今、草原を歩いてるだけだから。適当に歩いて、敵を倒してレベルを上げてくれるだけでいいよ」

千里 「……分かった。」

晴美は慌てて階段を降りていく。

ピコピコ

やったことはないが案外分かるものである。それにRPGが大体どんなものかくらいは知っているし。晴美が貸してくれた漫画とかにもRPG関連の話は多くある。まあ実際やったのは初めてだけど。

晴美 「……ってあの同人誌お母さん見つけてたの⁉︎ し、しかも捨てた⁉︎」

下から声が聞こえる。

私はきっちりしていない曖昧な作品は大嫌いだが、最初から目的が明確なRPGはそこまで嫌いではない。大体のRPGは勇者が主人公で、魔王に連れ去られた姫さまを助ける。その流れが王道だ。

ピッ

千里 「……うん? 何の音?」

その瞬間、閃光が私を包んだ。慌てて閉じた目を、開けてみると……。

千里 「……広い草原ね。」

私は意外と落ち着いていた。状況を理解できたからである。晴美の漫画にもあった、ゲームの世界に入ってしまう話。あれだろう。さて、どうしよう?

ササッ

こちらに向かってくる人影一人。よく見てみると、かなり焦った表情をしていた。

村人 「はあはあ……。ここまで来れば」

千里 「どうかしました?」

と言いつつ大体は予測できる。RPGの村人が困るなんて、モンスターが出たとかいう話に違いない。

村人 「実は勇者様が村にやってきまして」

千里 「……ふーん。ん? 勇者?」

村人 「様をつけてください!!」

千里 「えっ?」

村人 「じゃないとあなたも殺されてしまいますよ!!」

千里 「……どういうこと?」

村人は息を切らしながらも、喋り始めた。

村人 「勇者様は王様直々の指示で魔王討伐へ動いてます。ですから、勇者様は王様の次に偉いと言っても過言ではないのです」

千里 「……なるほど。それにしても、あなた、そんなに息を切らして、勇者様が来たのと何か関係でもあるの?」

村人 「実は……非常に言いにくいのですが、勇者様から逃げたきたのです」

千里 「何故?」

村人 「勇者様は暴君なのです。当然のように人の家に侵入しては、食料を奪っていく」

千里 「なっ⁉︎」

村人 「それに敵意のないモンスターまで殺してしまう、冷淡さも兼ね備えています。村人だって失礼な態度を取ってしまったらあっけなく、殺されてしまいました。様をつけないで勇者様を呼んでしまい殺された者もいます」

千里 「そ、そんなの、許されるわけないじゃない!!」

村人 「……ですが、先ほど述べたように勇者様は王様の次に偉い身分。抵抗しようにも抵抗できないのです」

千里 「許せない!! あなたの村はどこにあるの⁉︎」

村人 「ま、まさか村に勇者様を止めに行く気ですか⁉︎ や、やめておいた方が絶対にいいです!! あなたも殺されてしまいます!!」

千里 「大丈夫よ!! それよりもそんな、権利を主張して義務を放棄し好き勝手するなんて、職権乱用にもほどがあるわ! あなたの村はどこにあるの!!」

村人 「ですからそんなことはやめておいた方が」

千里 「どこよ⁉︎」

村人 「ひっ……。あちらです」

村人が指を差した方向へと歩いていった。

始まりの村

千里 「……ここか」

? 「あれっ、見たことない顔。どちら様?」

千里 「って日塔さん⁉︎」

日塔さんの顔、日塔さんの声、全く一緒な人間が目の前にっ!

? 「ヒトウ? 私そんな名前じゃないわよ!ユージュアって言うの!」

千里 「ユージュアル?」

ユージュア 「ユージュアルって言うなぁ!」

千里 「長いからユージって呼ぶわね。」

ユージ 「タレントかよ⁉︎」

千里 「……それより勇者様はどこ?」

ユージ 「勇者様? 勇者様はあちらですけど」

千里 「分かったわ。ありがとう。」

トコトコ

パリン!!

千里 「……この家から壺が割れる音が。ドラクエ形式なら、ここに勇者がいるに違いないっ!!」

ガチャ

千里 「さて、勇者!! 観念しな……。」

勇者 「どちら様でしょう? 今私は忙しいのですが」

私は驚いた。何故なら……。

千里 「先生⁉︎」

勇者 「……先生? 私は勇者ですが」

その顔、その声、喋り方まで、先生と瓜二つな人間が目の前にいた。

勇者 「それに今あなた、様をつけませんでしたね? なら仕方ありません。死んでいただきましょう!」

先生にそっくり。でも根本的に違う。

・先生はこんな大胆じゃない、もっと小心者よ!!

・先生はこんなに冷淡じゃない、そもそも先生は人見知りで初対面の人間にこんなに話せないわよ!!

・先生は剣なんて持ってない、剣なんて持ったらビビって手が震えるに違いないわ!!

千里 「偽者なら手加減しないわよ?」

勇者 「手加減? 今から殺される人間が何を……」

千里はスコップを装備した。

勇者 「えっ、スコップ?」

ボコっ

勇者 「あべしっ!!」

バタッ

千里 「この勇者……弱い。」

・ ・

勇者 「……ここは?」

千里 「とある家です。」

ユージ 「というより私の家です」

勇者 「げぇっ!!あなたは……って剣がない⁉︎」

千里 「攻撃されたら困るので。」

勇者 「……一体何が目的なんです? 金ですか、地位ですか? 私が王に頼めばそんなの」

千里 「そんなものは要りません。」

勇者 「……では何を?」

千里 「まずは一つ。違和感が非常にあるので勇者様のことは先生と呼ばせてもらいます。」

勇者 「先生? 別に構いませんが何故?」

千里 「言う必要、あります? 私、まだ怒ってるんですよ? 剣を向けたこと。またスコップで殴られたくないなら黙りなさい。」

勇者 「……分かりました」

千里 「そして頼みたいことはもう一つ。先生、私はあなたの魔王討伐の旅に同行させてもらいます。」

勇者 「な、何故ですか!!」

千里 「……勇者のくせに義務も果たさず、偉そうにしてるだけ。そんな奴を野放しにできないでしょ。」

勇者 「なっ」

ユージ 「千里ちゃん! そこまで言ったら取り返しの」

千里 「黙りなさい、ユージュアル。」

ユージ 「だからユージュアルって言うなぁ!」

勇者 「千里……それがあなたの名前なのですか?」

千里 「ええ、まあ一応。しかし先生は私を木津さんと呼んでください。」

勇者 「……分かりました」

千里 「とりあえず先生。勇者なら勇者らしく、しっかり魔王を倒してください!! そして姫様を助けてください!! しないと言うのなら、私が罰を与えます!」

勇者 「……納得いきませんが、勝てそうにないですね。仕方ありません、従いましょう。それにそろそろ流石にカフカ姫を助けないと」

千里 「……カフカ姫?」

ユージ 「確か魔王に連れ去られたって言われてるゼツボウ国の姫様……」

千里 「なんとなくその姫が誰に似てるかが予測できるけど、まあ、今はどうでもいいこと。とりあえず魔王討伐に向かいましょう!!」

勇者 「えっ、もう少し休憩しても」

千里 「火炙りの刑」

勇者 「なっ、なんでもありません!!」

ユージ 「それにしても千里ちゃんはすごいなぁ。あの勇者様をここまで抑えられるなんて」

千里 「悪には罰を。善には正当な評価を。当たり前のことでしょ。」

勇者 「……辛い日々になりそうです」

・ ・

晴美 「……ありゃ? 千里?」

窓から風が吹いてくる。カーテンが揺れ、ゲームの音だけが部屋に響いていた。

晴美 「どこ行った?」

千里は真面目だから私が頼んでいたことを途中で投げ出してどこかへ行ったりしない。何かあったのか?

晴美 「千里! 千里! いるなら返事して!」

その時テレビ画面から眩しい光が差し込んできた。目を開くと……。

晴美 「ここどこ?」

果てしなく広がる草原の真ん中に私はいた。

・ ・

ユージ 「気をつけてね、二人とも」

千里 「……何言ってるのよ。あなたも一緒に行くのよ?」

ユージ 「なっ、なんでよ⁉︎」

千里 「ここで会ったのも何かの縁。それにあなた私の知り合いにそっくりなの。気になるから一緒に来なさい。」

ユージ 「そんな理由で行くわけないでしょ!!」

勇者 「……彼女と二人きりは耐えられないので、ついて来てくれると非常に助かるのですが」

ユージ 「なっ」

千里 「早くついて来なさい!」

ユージ 「勇者様に言われたら断れないじゃない!! 嫌だぁぁ!!モンスターとなんて戦いたくない!そもそも私、戦士でも僧侶でも魔法使いでもないし!!」

勇者 「……確かに普通のステータス」

ユージ 「普通って言うなぁ!」

千里 「……でもユージュアルを足しても魔王討伐には足りないわね。ここが私がイメージするようなRPGの世界と一緒だったら、紹介所があるはず。」

ユージ 「紹介所は確かこの村を出てからしばらく歩いた先にあるはずだけど」

勇者 「では行きましょうか」

トコトコ

ガチャ

店主 「いらっしゃい」

勇者 「戦士と僧侶と魔法使いを雇いたいのですが」

店主 「……残念だけど戦士は今いないね。でも僧侶と魔法使いはいるよ、ただ問題児だけど」

千里 「問題児?」

店主 「魔法使いは異常なクレーマーで、パーティ内のあらゆることに文句をつけては、挙句には訴えてやる!と言う始末だ。しかも多重人格」

千里 「……不思議とデジャブ。」

店主 「僧侶は非常に謙虚で優しいんだが、あまりにも人に気を使いすぎて逆にパーティのみんなが極度に気を使う始末だ」

千里 「……またもやデジャブ。」

店主 「それでもいいかい?」

ユージ 「仕方ない……いいよ!!」

勇者 「なんであなたが言うんですか⁉︎リーダーは私でしょ⁉︎」

店主 「じゃあ呼んでくるから少し待っててくれ」

それにしても、本当にこいつは先生に似ている。気にくわない。確かに先生はダメ人間だけど、こいつみたいなクズじゃない。なのにこいつは先生とまったくそっくりな姿をしてる、それが気にくわない。

店主 「……お待たせしました」

ユージ 「あっ、来た」

アイ 「……どうも、魔法使いのアイと言います。よろしくお願いします」

ペコッ

ユージ 「……なんて深いお辞儀」

カエレ 「私はカエレって名前の魔法使い、よろしく。ていうか作者!! お前絶対私が金髪だから魔法使いにしたろっ!! 安直なんだよ、考えがっ!!」

作者 「……聞こえません」

カフカ 「これでメンバーは揃いましたね!! いざ行かん、魔王城!!」

ユージ 「おお!」

勇者 「やっぱり行かなきゃいけませんか。つらいなぁ……って今カフカ姫がいませんでしたか⁉︎」

千里 「……どこに?」

ユージ 「幻覚? 疲れてるのよ、きっと」

カエレ 「とりあえず外に出よう。ステータスを見てみると、勇者、あとは普通、お前らはレベルがまだまだ足りない。そこの……確か千里だったけ?あなたはレベルが高いけど」

ユージ 「ついに呼び名も普通に……」

アイ 「みなさんの役に立てるかは分かりませんが、よろしくお願いします」

千里 「ええ、よろしく。さて、行きましょう、外へ!」

ササッ

モンスターが現れた。

モ 「ぐーぐる」

ユージ 「ひっっ!も、モンスター⁉︎」

カエレ 「後ろに下がってな!」

アイ 「後ろから援護しますね」

勇者 「後ろから応援しますね」

千里 「おい、勇者!!」

千里 「お前、仮にも勇者だろっ⁉︎ ちゃんと戦えよ!!」

勇者 「む、無理です!! それに私に勝てた木津さんなら簡単にあんなモンスター、倒せるでしょ⁉︎」

千里 「勇者が強くならないと意味がないのよ!!」

勇者 「な、なんでですか! これは新手のいじめですか⁉︎」

千里 「はっ?」

勇者 「肩書きによる責任の重さには、日々苦しめられています!!」

・勇者だからってドラゴンを倒せると思う?

・勇者だからって光魔法を使えると思う?

・漫画家だからって絵が上手いと思う?

・子供だからって大人より体力あると思う?

勇者「絶望したっーー!!肩書きがあるからって義務を強要するこの世界に絶望したっーー!!」

千里 「絶望してる場合じゃないでしょ!!」

カフカ 「異世界モノと言いつつ、結局いつも通りになってますね!!」

ユージ 「あれ。今もう一人いなかった?」

カエレ 「気のせいでしょ」

アイ 「バイキル!!」

ピューン

勇者 「あれっ、不思議と体の奥から力が湧いてきます!!」

アイ 「今恐縮ながら勇者様に攻撃力が上がる魔法をかけさせてもらいました。今の勇者様ならきっと倒せます」

勇者 「いける気がします!おりゃああ!!」

ペシッ

千里 「……もはや音が弱そう。」

モンスターを倒した。

千里 「……それでも倒せたか。」

勇者 「なんとか勝ちましたね。このパーティなら、本当に魔王にも勝てそうな気がします」

ユージ 「私もそんな気がする!!」

カフカ 「そう、私たちの冒険はこれからだ!!」

ユージ 「それ、終わるフラグだからっ⁉︎ あれっ……? 誰もいない!」

勇者 「……彼女は一体誰に話しかけてるのでしょう?」

カエレ 「触れないであげるのも優しさ」

千里 「良かったわね。普通じゃなくて」

ユージ 「違うからっ!! 私、普通ですから!!」

・ ・

ピンポーン

あびる 「……出ない」

マ太郎 「留守なのカ?」

あびる 「千里ちゃん、晴美ちゃんの家で用事を済ましてから、午後二時に私と合流して遊びに行く約束があるのに来なかった。あの千里ちゃんが約束を破るなんて何かあったに違いない」

マ太郎 「ドア、開いてるヨ?」

ガチャ

あびる 「……何かあったのかも。これは仕方ないよね」

トコトコ

ヒュー

マ太郎 「上から風の音がするヨ!!」

あびる 「……上にいるってこと?」

ガチャ

あびる 「……ゲームがついてる。でもそれ以外は誰もいないしおかしなところもない」

ピッ

マ太郎 「何の音なのカ?」

あびる 「……ま、眩しい」

シュッ

あびる 「ここは?」

一面草原が広がっていた……

・ ・

その2へ続く。
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