『人生の8割損してる、という声が本当にしていたかどうか。』

文字数 3,084文字

智恵 「あっ糸色先生」

望 「なんでしょうか」

智恵 「こないだ紹介した映画見に行きました?」

望 「いや、まだなんですよ……」

智恵 「まだ見てないんですか⁉︎ あんなに面白い映画を⁉︎ 見てないなら人生の8割損してます!!」

望 「じ、人生の8割も、ですか……」どよんど

甚六 「あっ糸色先生」

望 「なんでしょうか」

甚六 「こないだ紹介したラーメン屋行きました?」

望 「ま、まだですね……」

甚六 「あんなに美味しいラーメン屋、行ってないなら人生の8割損してますよ!!」

望 「じ、人生の8割……」どよんど

奈美 「あっ先生」

望 「なんでしょうか」

奈美 「こないだ紹介したお菓子、オスターピンツェン食べました?」

望 「た、食べてませんね」

奈美 「えっっ⁉︎ 超ありえない!! あれ食べてない人間は人生の……」

望 「分かってますよ、8割ですよね?」

奈美 「えっ」

望 「もう聞き飽きました!! 『〇〇ないなら人生の8割損してるよ』!! いい加減にしてください!!」

奈美 「ってなんで私怒られてるの」

望 「人に物事を勧めたい気持ちはわかります。しかし『損してるよ』なんて言葉を使う必要はありますかね? しかも人生の8割ときた! これじゃ弱者は泣きますよ⁉︎」

望 「例えるなら占い師に『この水晶を買わなきゃ不運が訪れるよ』と言われたようなものです。私のような気の弱い人間が『人生の8割損してる』なんて言われてしまったら、嫌でもその勧められた物事をせざるをえないじゃないですか! これは一種の脅迫と言っても過言ではありません!!」

あびる 「まあでも『人生の8割損してる』は決まり文句のようなものだし……」

奈美 「えっまだガラケーなの⁉︎人生の8割損してるよ⁉︎」

奈美 「えっまだドラクエ新作やってないの⁉︎人生の8割損してるよ⁉︎」

あびる 「何を根拠にして人生の8割損してる、って言ってるのかは分からないけどね」

奈美 「なんで例が全部私なのよ⁉︎」

望 「流石ですね。イメージするだけでうざい」

奈美 「イメージするだけでうざいって言うなぁ!」

望 「それにしても、決まり文句といえど『人生の8割損してる』と言われて良い気分はしませんね……。悪気がないのは分かりますが……」

まとい 「そもそもなんで8割なんでしょう。なら他の2割は何なんだ? ってことになりますよね?」

望 「いたんですか」

まとい 「ええ、ずっと」

晴美 「確かに6割とか7割とかでも別に良いと思う。勧めたい気持ちはそれで十分に伝わるし」

マ太郎 「ちなみに、『人生の8割損してる』ガ決まり文句ッテイウノハ、作者の完全なる主観ダカラ気にしないのが一番ダヨ」

まとい 「8割でなくちゃいけない理由……それってもしかして80:20の法則、パレートの法則のことでしょうか」

望 「パレートの法則?」

‪まとい 「例えば、社会全体の上位2割が8割の富を持っているとか、売り上げの80%は20%の顧客によって生み出されているとか、やけに80:20の割合で成り立っていることが世の中多いという法則です」‬

望 「8割が2割の手によって……?」

望 「つ、つまりは私が人生の8割損したら人生の2割得する人が現れるってことですか⁉︎」

千里 「解釈が無理矢理すぎない?」

望 「例えば私がギャンブルで全財産の8割損しても、大儲けしてるお偉いさんにとっては全体の2割程度の稼ぎにしか過ぎないと?」

あびる 「誰もそうは言ってないでしょ」

望 「考えてみると世の中そんなことばっかり! 自分がどんな犠牲を払っても相手には腹の足し程度にしかならないことがしばしば!」

・GIMME LOVE〜お前は知らない〜♪
・いくらお金を払っても利子が高すぎて闇金には返済できない
・働かない夫のパチンコ代に消えていくバイト代
・投資が失敗に終わる

望 「絶望したぁぁっ! 自分が人生の8割損しても、相手は人生の2割しか得しないこの社会に絶望したぁぁっ!」

可符香 「ということはですよ〜? 先生?」

望 「ふ、風浦さん!」

可符香 「先生が『人生の8割損してる』ってよく言われるのは、先生が多くの人に人生の2割の得をあげてるから、ってことじゃないですか!」

望 「えっ」

可符香 「確かにたった2割かもしれません。それでも人に得を与えている……とても素晴らしいことです!」

望 「そ、そうですかね」

可符香 「だから先生は『人生の8割損してる』って言われたら、その人に人生の2割の得をあげてるって思えばいいんですよ!」

望 「な、なるほど……!」

目からウロコ ぽろっ

可符香 「試しにやってみましょう!」

奈美 「先生、二郎ラーメン食べたことないんですか?? 人生の8割損してますよ!」

望 「そうですか!」パァ

あびる 「先生、ライオンの尻尾触ったことないの? 人生の8割損してるよ?」

望 「いえいえ。お礼は構いませんよ」

あびる 「えっ?」

晴美 「先生、同人誌買ったことないの⁉︎ 人生の8割、いや9割くらい損してるからっ!!」

望 「喜んで頂けたなら何よりです」

晴美 「はっ?」

望 「はあ、なんて清々しい気分なのでしょうか。『人生の8割損してる』って言われてるのにまるで人助けをしたような達成感! 明るい気分になれます!」

可符香 「先生、失敗したことがないなんて人生の8割損してますよ?」

望 「いえいえお礼は……って、ん? 失敗したことがないなんて……??」

可符香 「間違いなく8割の損です!」

望 「成功ならともかく、失敗はないに越したことはないでしょう。損なんかじゃないですよ! もしかして『失敗は成功の糧になる』とか思っているんですか? あれは綺麗事です!! 失敗なしで苦労せず成功するのが一番良いに決まってます!」

千里 「それが先生の言うことかよっ⁉︎」

望 「失敗がなければ人生の8割損してるどころか、失敗がなければ人生の8割得してます!!」

可符香 「いえ! 失敗がなければ人生の8割損してます!!」

望 「いや得です!」

可符香 「いえ損です!」

奈美 「大変だ! 可符香ちゃんと先生が口喧嘩を始めた!」

可符香 「なら証明してみせます!失敗がなかったら人生の8割損してしまうということを!」

望 「できるもんなら是非してください!」

可符香 「ならまずロープと台を用意します」

望 「えっ」

グイッ

望 「し、死ぬ……!!」

可符香 「そして台を蹴ります」

望 「ぐっ。ごほっ、し、し、死にたくないっっ!!」

プツン

あびる 「あっロープ切れた」

望 「死んだらどうするっ⁉︎」

可符香 「良かったですね〜先生! 無事に失敗して!」

あびる 「確かに先生が長寿で100歳まで生きるとして」

晴美 「今が20歳前後だったら」

千里 「もし失敗がなければ人生の8割損してたわね。」

可符香 「ほら証明完了です!」

* *

マ太郎 「このオチが微妙なオチだと思っタ読者は、センスが微妙デ人生の8割損してるヨ!」

可符香 「でもそんなセンスが微妙で人生の8割損してる人がいるから、この作品を読んでくれる人もいるんですよね! まさに読者さんのおかげで私たちが2割ほど得してます!」
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