『親譲りの褒める教育で子供の時から損ばかりしてる。』

文字数 3,877文字

前巻までのあらすじ

死神の落し物の黒ノートを拾ってしまった望。するとそこに死神が現れる!「そこに書いた名前を持つ人間は死んでしまう」と述べる死神だが、デカルト主義である望はにわかに信じられなかった。自殺願望が1ミリ程度はあった望は、なんとそこに自分の名前を書いてしまう!そしてその直後ニュースが流れる。「絶望さんが心臓麻痺で死亡しました」どうやら糸色望ではなく絶望が死んでしまったらしい。九死に一生を得た望だが、結局罪悪感から崖から落ちてしまう……。

・ ・

奈美 「えっ、これは⁉︎」

あびる 「……前に奈美ちゃん、私にドーナツくれたでしょ?だからそのお礼」

奈美 「ありがとう!あびるちゃん!」

ここに、一人の犠牲者がいた。悪い子、日塔奈美は、思わぬきっかけで誕生したのであった。

奈美 (なんてあびるちゃんは優しい子なんだ。いや、きっと私の普段の目が濁ってただけで、実際前からみんな優しかったに違いない!人に優しくしないと!してあげたい!私にできることがあるなら全力で協力したい!)

千里 「……流石に一人でこの量は大変だったかしら。」

奈美 「……手伝おうか?千里ちゃん」

千里 「えっ、日塔さん?いいの?これすごく重いけど。」

奈美 「いいよ、いいよ!私なんていつも暇だし!」

千里 「……そう。ならお願いするわ。ありがとね、日塔さん。」

晴美 「やばい!締め切りに間に合わない!そんなの許されない!ど、どうすれば⁉︎」

奈美 「……手伝おうか?晴美ちゃん」

晴美 「えっ。いいの?」

奈美 「いいよ、いいよ。私なんていつも暇だしね♪」

晴美 「た、助かる!」

カエレ 「ジロジロ見てんじゃねぇよ!」

臼井 「み、見てませんよ!!」ジッー

カエレ 「だ、誰か!」

奈美 「……手伝おうか?カエレちゃん」

カエレ 「えっ、いいのか?」

奈美 「いいよ、いいよ。私なんていつも暇だしさ!いつでも協力するよ!」

ピーポーパーポー

望 「……パトカーが学校の周りに多くありましたけど、また木津さんが何かしたんですか?」

千里 「いいえ、私は何も。それに私だったら警察に囲まれる前にとっくに逃げています。」

あびる 「あっ、先生」

望 「おや、小節さん。んっ?なんだが悩ましそうな表情をしてますね。どうかしましたか?」

あびる 「……実は奈美ちゃんが変なんです」

望 「ほう。あの普通が取り柄の彼女がですか……。一体どのように変なんでしょう?」

あびる 「妙に優しいんです」

千里 「私が死体……じゃなくて荷物を運んでるとき手伝ってくれたり」

望 「ちょ⁉︎ 今すごい発言を聞いた気がしたんですけど!」

晴美 「……私が締め切りが近くて困っているときに、手伝ってくれたり」

カエレ 「……私が変質者に襲われそうになったときに、警察を呼んでくれたり」

あびる 「やけに優しいんですよ」

望 「……うーん。それは驚きですね。何かご褒美でも欲しいのでしょうか?」

あびる 「ご褒美……あっ」

望 「何か分かったんですか?」

あびる 「奈美ちゃん!」

奈美 「えっ、何、あびるちゃん?」

あびる 「……もう!欲しかったならそう言ってくれたら良かったのに」

奈美 「えっ?」

あびる 「はい!」

望 「……クッキーですか?」

千里 「そういえば前、小節さんが日塔さんにクッキーをあげてましたね。そういえばあれからかも?日塔さんが急に優しくなったのは」

あびる 「……ごめんね。気づいてあげれなくて」

このとき、彼女の心に雷が走った。

奈美 (わ、私……このクッキー欲しさに人に優しくしてたと思われてる⁉︎そ、そんな!私は自主的に人に優しくしようとしてたのに、これじゃエサ欲しさにお手を覚える犬と一緒じゃない!)

奈美 「ひ、ひどいよ、あびるちゃん……」

あびる 「えっ?」

奈美 「ひどいよ!あびるちゃん!」

ポリポリ

まとい 「……言いながらもクッキーは食べてますね」

望 「いたんですか」

まとい 「ええ、ずっと」

あびる 「……奈美ちゃん美味しい?」

奈美 「……うん、美味しい」

まとい 「……しかも普通に味わってるし」

奈美 「普通って言うなぁ!」

望 「これはアンダーマイニング効果でしょうか?」

千里 「何ですか、それは」

望 「アンダーマイニング効果とは、自主的に行動した人間にその人がご褒美欲しさに動いたわけではないのに、ご褒美を無理に与えることで、逆にモチベーションを下げてしまう効果のことです!」

あびる 「あっ、分かる。私も勉強しようと思って勉強したのに、偉いとか言ってご褒美をくれちゃったりして、なんかやる気が逆に削がれたことあるもん」

まとい 「で、いつの間にかご褒美がないと行動できなくなってしまう状態に至ると」

望 「……確かに今の時代、褒めて伸ばすがメインですが、逆に、褒めてしまうことで、その人の自主性をないがしろにしてしまい、結果やる気を削ぐことは度々あります」

晴美 「……で奈美ちゃんは今、まさにその状態だと」

千里 「微妙に違う気がするけど気のせい?」

マ太郎 「作者は専門家じゃナイカラ、細かいことは気にしちゃだめだゾ!」

あびる 「……あっ、奈美ちゃんが!」

奈美 「こうなったら……グレてやる!!」

千里 「日塔さんがヤンキーに⁉︎」

望 「……甘やかした教育のせいですね。まさにゆとり教育の弊害ですか」

奈美 「まずは夜の校舎、窓ガラスを壊して回ってやる!!」

あびる 「すごくベタ」

奈美 「盗んだ自転車で走り出してやるー!!」

晴美 「すぐ捕まりそう」

望 「……まあ日塔さんは放っておきましょう。それよりこのアンダーマイニング効果ですが、これは日塔さんに限られた話ではないのです」

望 「褒美の有無、または褒美のタイミングでそれによる効果は、凶にも吉にもなるということです。要するに、褒美にも適材適所があるということですよ!!」

・積極的に親の手伝いをしていたのに、お小遣いをくれたから、次からはお小遣いをもらいたい一心でしか手伝えなくなった(小学生談)

・ちょっと働いただけでお金をたくさんもらえるから、本当にちょっとしか働かなくなった(役人談)

・弟子をディスっただけで笑いを取れたから、自分のネタの鋭さより弟子をディスることを優先するようになった(漫画家談)

・ふと思いついたトークだけでウケたから、漫才を考えるのがバカらしくなった(芸人談)

望 「このように、安易に褒めてしまうことで、逆にその人間のやる気を削いでしまう、もしくはおかしな方向へ持っていってしまうことは、度々あるのですよ……」

望 「絶望したっーー!! 褒めて伸ばす教育が時に逆効果になってしまう、アンダーマイニング効果に絶望したっーー!!」

奈美 「シェリぃぃー!!」

あびる 「……あれは無視してていいの?」

望 「ええ、構いません。ああっ、恐ろしい!アンダーマイニング効果!褒めて伸ばす教育は間違ってた!」

可符香 「そんなことありません!」

望 「出ましたね、風浦さん」

可符香 「先生はアンダーマイニング効果と対をなす、エンハンシング効果というものを知ってますか?」

望 「……申し訳ありませんが、知りませんね」

可符香 「エンハンシング効果とは褒めることによるプラスの効果のことです!」

可符香 「褒めて伸ばす教育の、なんたる素晴らしいことか!」

・評価をもらえるから頑張れる

・努力すれば賞がもらえる、その賞がモチベーションになっている

・評価されたからますます弟子のディスりを本格化しちゃう

・みなさんの応援のおかげで、この小説は書けてます(ーー;)

可符香 「人はやはりどう足掻いても、人からの評価なしでは生きれません!時に、確かに先生の言う通り、その褒め言葉がマイナスに働くこともあるでしょう。それでも褒め言葉はプラスに働くことの方が多いはずです!」

望 「不思議とそんな気がしてきました」

まとい 「お得意の洗脳ですね」

奈美 「受け止めよーう!目まいすらする街の影の中ー!」

まとい 「……にしても、先生」

望 「なんでしょうか、常月さん」

まとい 「今先生は褒めることの大切さを知ったんですよね?」

望 「ええ。そうですよ」

まとい 「なら私も褒めてください!」

望 「えっっ⁉︎」

まとい 「いつも先生のそばを離れておりません!これは褒めるに値することです!!」

望 「それは犯罪ですよっ⁉︎」

晴美 「……じゃあ私も。締め切りに間に合わせるため、私、頑張りました。褒めてください!」

望 「それ、私に関係ないじゃないですか⁉︎」

千里 「じゃあ私も。つい最近このスコップに付いてる血の持ち主の人数が、私と先生が出会ってからの月日の日数を超えました!」

望 「怖いこと言わないでください!」

「私も褒めて!」 「私も褒めて!」

望 「ぎゃあー!!」

マ太郎 「あれ、放っておいていいのカ?」

可符香 「見ないふりも大事よ、マリアちゃん」

奈美 「僕をにーらむ!君の瞳の光は!忘れかーけてた!真心教えてくーれた!この胸に今刻もう……君の涙の美しさにありがとうと……」
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