『ないの知れない不吉な塊が私の心を始終圧えつけていた。』

文字数 4,070文字

前巻までのあらすじ

とある劇を見にきた望。今までチケットを取っても仕事とダブルブッキングしてしまい行けなかったが、ついに今回ずっと見たかった劇へ行けて大喜び。ところが隣の席のお客さんがこっそりビデオカメラを用意してるのに気づいてしまった望。勇気を出して発言する。「劇を撮影するなんて、違法ですよ!」するとそのお隣さんは大激怒。「お前に俺の何が分かるって言うんだ!!」いや何も分からないに決まってるでしょ、とは思っても言えない望。するとそこに「木曜日のタウンダウンです」とスタッフが!そういうことか……

・ ・

ガタンゴトン

望 「……」

奈美 「満員電車って本当に嫌だよね。人が多くて多くて……ってあれ先生だ!!」

あびる 「先生の前にいるのはカエレちゃんじゃない?」

ガシッ

晴美 「あっ。カエレちゃんが後ろを振り向いて先生の腕を掴んだ」

カエレ 「ち、痴漢だ!!」

望 「えっ」

カエレ 「この人痴漢です!! 訴えてやる!!」

望 「ちょ……って木村さんじゃないですか⁉︎ 私ですよ、私!! 糸色望です! 私が木村さんに痴漢するわけないでしょ!!」

カエレ 「でもお前確かに私の尻を触ったろっ!!」

望 「触ってないです!!」

あびる 「大変なことに」

望 「それに証拠はあるんですか! 私が痴漢した証拠が!」

晴美 「それ犯人が言うやつ」

カエレ 「それはないけど……お前が犯人じゃない証拠だってないだろっ!」

望 「なっ」

カエレ 「とりあえず次の駅で降りて話そう」

望 「そ、そんな!!」

ゴトン

あびる 「……駅に着いた」

カエレ 「じゃあ降りて話しましょうか?」

望 「嫌だぁぁ!」

奈美 「あっ、先生が逃げ出した⁉︎」

晴美 「……しかも線路上を歩いて逃げてる」

あびる 「で、今度は高いところに登り始めた」

まとい 「あれじゃ先生が危ない。感電死する可能性がある。とりあえず、電車に関するところは電気を止めないと!!」

あびる 「ますます大変なことに」

奈美 「そういえばまといちゃん、いたの⁉︎」

まとい 「……ええ、ずっと」

晴美 「それにしても目の前で担任の先生の痴漢逃走を目撃するとは」

・ ・

ガラッ

望 「遅れてすみませんでした」

千里 「それに関しては大丈夫です。晴美たちから事情は聞いてます。それにいつも一時限目は来ないじゃないですか。」

望 「まあそれもそうですね。それにしても災難でした……」

奈美 「一部始終見てたけど、驚いた!」

カエレ 「……先生、悪かったよ」

望 「いや、別に謝ることではないですよ? 結果、真犯人は捕まりましたし。本当に痴漢をしてる人間がいたのなら、気が動転しても仕方ありません」

晴美 「……でも最近、痴漢の冤罪って多いらしいし、先生本当に危なかったかもよ?」

まとい 「本当に良かった!! 先生が捕まるかもと思ったら私、私……一緒に牢屋暮らしをするところでした!」

奈美 「あっ、そっちの方向か」

望 「愛が重いです!! ……ところで、木村さん。唯一あなたの発言で納得できない点があるのですが」

カエレ 「えっ、何?」

望 「確か『お前が犯人じゃない証拠だってないだろっ!』って言いましたよね?」

カエレ 「言った気もするけど……それがどうしたの?」

望 「ないことを証明するなんて無理に決まってるじゃないですか!!」

まとい 「……悪魔の証明ですね」

望 「その通りです。例えば『白いカラスがいる』これを証明するなら単純です! 白いカラスを見つければいいだけ。しかし……」

まとい 「『白いカラスはいない』これを証明するとなると……」

千里 「全てのカラスを探して見つける必要があるってことね。」

望 「しかも仮にこの世にいる全てのカラスを見つけて、全てが黒色だと発覚したとしても、カラスがこの世に何匹いるかが分からない以上、それでQ.E.Dにはならないのです!!」

あびる 「……要するに、ない証明なんて不可能」

奈美 「えっと、どういうこと? 難しくて分からないや」

晴美 「まあ奈美ちゃんに分かりやすく話すなら、例えば『ミートボールが入ったラーメンはない』っていうのを証明しなきゃいけないとするね?」

奈美 「ミートボール? そんなのラーメンに合わないに決まってるじゃん! あるわけないよ!」

あびる 「……でも、それを証明できる?」

奈美 「えっ」

千里 「それを証明するためには、この世にある全てのラーメン屋さんに行かなきゃいけない。いや、ラーメン屋じゃなくてもラーメンを作ってるところはあるから、それも含めて探さないと。」

奈美 「そんなのネットで……」

あびる 「ネットに公開してないだけで、やってる店はあるかも」

奈美 「なっ! そ、そんなの不可能じゃない!……ないことの証明って大変だ!!」

望 「つまりそういうことです。だからないことの証明は別名、悪魔の証明と呼ばれてるんですよ?」

カエレ 「なるほど。証明しようにも、先生が痴漢してないことの証明なんて、出来ないってことか」

望 「この世には証明しろと言われたって証明できない『悪魔の証明』が多くあります!!」

・政治家は国を守る正義の味方。汚職なんて何一つない……証明できる?

・どんなギャグ漫画だって急展開の鬱展開なんてあるはずがない……証明できる?

・猫好きに悪い奴はいない……証明できる?

・モニタリングの全ての企画がヤラセなど一個もない……証明できる?

・カープ女子全員がガチ勢で、にわかなんているはずがない……証明できる?

・スプラトゥーン、たとえ有料化したって離れた人はいない……証明できる?

・僕の二次創作小説のレベルが低いと思う人はいない……証明できるはずない

望 「絶望したっーー!!数多くある『悪魔の証明』に絶望したっーー!!」

あびる 「……悪魔の証明。なら先生が痴漢してない証拠はないわけだから、先生が痴漢してる可能性だってまだあるってことだよね」

まとい 「そんなわけないでしょ!! 先生が痴漢していいのは私だけです!」

望 「って私は常月さんにだって、誰にだって痴漢などしませんよ!! そもそも犯人は捕まったじゃないですか!」

晴美 「……身代わり出頭」

望 「ち、違います!! 私は痴漢なんて怖くてできません!」

奈美 「……怖いからしないの?」

可符香 「ところで先生!」

望 「ふ、風浦さん!」

可符香 「ないことの証明が不可能ってことは、どんなことだってありえるってことですよね?」

望 「……まあ理論的には」

可符香 「つまり、ありえないなんてありえないってことですね!!」

望 「……確かにそれもそうですね。その理論でいくと、なんでもありえることになってしまいます」

可符香 「ということは、あれもこれも、なんだって実現可能だということですね!なんて素敵な世界なんでしょうか!」

望 「そう言われると、日々絶望してたこの社会も、なんだか素敵なものに見えてきますね」

千里 「……またもや洗脳。」

可符香 「どんなこともありえるのです!!」

・布袋さんとヒムロックが手を取り合う日が来るのだってありえなくない!

・安倍さんと石破さんが手を取り合う日が来るのだってありえなくない!

・NOVEL DAYSで星を300くらい取って累計ランキングで一位を取れる日が来るのだってありえなくない!

・たけのこ派ときのこ派が手を取り合う日が来るのだってありえなくない!

・消える魔球が使える日が来るのだってありえなくない!

・一発屋芸人が下克上できる日が来るのだってありえなくない!

・埋蔵金が見つかる日が来るのだってありえなくない!

奈美 「ハーゲンダッツを爆買いできる日が来るのだってありえなくない!」

あびる 「……なんとなく分かる。でもやっぱり普通」

奈美 「普通って言うなぁ!」

千里 「ということは先生と私が結ばれる日が来るのだってありえなくない、ってことね!」

望 「なっ」

まとい 「残念だけど……それはありえないわ。だってもう先生は私と結婚してるんですから!! ここに婚姻届だってあるんです!」

ペラッ

望 「ってどういうことですか⁉︎ なぜ私のサインがあるのです⁉︎ 私は書いた覚えはありません!!」

まとい 「……まあそれは色々手を使って」

望 「色々ってなんですかぁ!!」

千里 「……こんなの認めない! 私と先生が結ばれる日が来るのだってありえなくないのよ!!」

まとい 「そんなこと言ったってちゃんとここに」

千里 「処刑!!」

グサッ

奈美 「ってまといちゃん⁉︎」

千里 「これで未来はカムバック! 私と先生が結ばれる日が来る可能性は、復活したわ!!」

奈美 「千里ちゃん! 流石にそれは許されないよ!!」

千里 「……何? あなたも私と先生の愛を悪魔の証明にしたいわけ?」

奈美 「ひっっ!」

千里 「未来のための小さな犠牲よ!」

グサッ

千里 「あれもこれも処刑!! 全ては先生と私が結ばれる日のために!!」

・ ・

あびる 「……こんな悲惨な事件になるなんて」

晴美 「結局、ない証明はできなかったけど」

マ太郎 「そのままの意味デ、悪魔の証明はできたナ!!」

・ ・

可符香 「甲子園に南ちゃんを連れて行ける日が来るのだってありえなくない!」

奈美 「タッチかよ⁉︎」

あびる 「……作者が猟奇オチを使わない日が来るのだってありえなく」

作者 「それはありえません!」

マ太郎 「オチないときノ、逃げる常套手段ダヨ!!」

晴美 「やっぱりこの作者、恥もプライドもない」
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