『九月のある日、男が一人、平和を願った。』

文字数 4,987文字

※この小説は台風及び北海道の大地震のニュースを見て、居ても立っても居られなくなり書かせてもらった小説です。当たり前の幸せ、掴めそうで掴めないそれは、何よりの宝物、そんな思いを込めて書きました。と言っても基本的にはいつも通りなので、クスッと笑っていただき、励ましになれたら幸いです(ーー;)

望 「では授業です」

あびる 「……先生が授業したの久しぶりに見た」

望 「みなさん知っての通り、ここ最近で二度も大きい震災がありました。台風と、地震です。そこで今回はこんなことをテーマにして授業をしていきたいと思います」

『当たり前は当たり前じゃない』

奈美 「どういうこと?」

望 「そのままの意味ですよ。今回の震災で多くの方が被害を被りました。大阪では火事や事故、北海道でも道路の崩壊や土砂崩れ。電気も水も流れず、当たり前に過ごすことがとても困難になりました。日常を再現するにはあまりに必要事項が多すぎます!」

まとい 「……多くの要素が重なって、今の当たり前は形成されてるんです」

望 「いたんですか」

まとい 「ええ、ずっと」

望 「ですから、当たり前って複雑なんです。そんな単純なものではありません。そして昔から複雑なものは価値が高いのです」

望 「何故なら複雑なものは再現するのが大変だからです!」

・複雑な機械は値段が高い

・複雑な思想はより多くの人に信仰される

・複雑な羅列ネタはファンに大喜び!

・複雑な男女問題はそれだけで小説書ける

望 「なのに時に人は、その複雑さのありがたみを噛み締めない!複雑だからこそ、それの価値を理解しようとしない!」

・複雑な説明書、読まないよね?

・複雑な設定、把握できないよね?

・複雑な事情、忘れたいよね?

・複雑な二次創作小説、読まないの?読みたくないならすみません(ーー;)

望 「絶望したっーー!!複雑だからこそ価値があるのに、素晴らしすぎて、逆にないがしろにしている現代人に絶望したっーー!!」

奈美 「そういえば、当たり前の大切さを説くっていう話じゃなかったっけ?」

望 「……ですから、それこそが典型例なのです」

望 「当たり前は実は当たり前ではないのです。あらゆる要素が重なって体裁を保ててる複雑な日常、そして、先ほども述べましたが複雑なものほど逆にこの社会はないがしろにしています。要するに、多くの人は『当たり前の幸せ』を認知していないのです。今回の災害で改めて『当たり前の幸せ』を認識した人も多いでしょう」

望 「水が飲める、食べ物が食べれる、のんびりできる、読書ができる……」

晴美 「コミケに行ける、マガジンが買える、BLが読める……」

奈美 「ラーメンが食べれる、ラーメンが作れる、ラーメン屋に並べる……」

まとい 「先生についていける、先生を見ていられる、先生の背中にさわれる……」

あびる 「猫のしっぽがさわれる、犬のしっぽがさわれる、ライオンのしっぽがさわれる……」

千里 「人を殴れる、スコップを使える、ナイフも使える、埋めることもできる……」

可符香 「なんて素晴らしい『当たり前の幸せ』!!」

望 「一部間違ってる気がしますが……」

可符香 「なんて素晴らしいんでしょう!先生!『当たり前の幸せ』、やっぱり噛み締めなくちゃいけません!」

望 「……ええ、その通りです。今回の被災でも死者が出ました。そういう時にしか認識できないのが非常に悲しいですが、やはり命は尊いもの、生きててなんぼです!」

あびる 「……いつも死のうとしてる人に言われてもね」

望 「それはそれ、これはこれです!」

倫 「……言い逃れなんて、お兄様かっこわるい!」

望 「って倫⁉︎ 何故ここに!」

倫 「……だって私このクラスに所属してますわよ」

望 「そういえばそうでしたね」

望 「まあ倫は放っておいて、今からさらに『当たり前の幸せ』について話していきましょうか。みなさんには、しっかり理解してほしいので」

奈美 「……当たり前が幸せってことくらい、ちゃんと分かってるよ!!」

可符香 「本当ですかね〜」

奈美 「げっ⁉︎可符香ちゃん!」

可符香 「本当に奈美ちゃんは、『当たり前の幸せ』をちゃんと理解してるんでしょうか? もし理解してなかったら嘘ってことになりますけど?」

千里 「嘘なんて許さない!!」

奈美 「げっ⁉︎千里ちゃん!……終わった!私ここで終わった!」

望 「……残念ですが、あの二人の包囲網に巻き込まれてしまったら、どうしようもありません」

千里 「ちょっと日塔さん!こっちに来なさい!私が確かめてあげるわ!」

奈美 「ひっっ!!来ないで!誰か助けて、あびるちゃん!」

あびる 「……無理」

奈美 「まといちゃん!」

まとい 「……無理」

奈美 「カエレちゃん!」

カエレ 「……ごめん」

奈美 「晴美ちゃん!」

晴美 「……本気でごめん!」

奈美 「い、いやだ、死にたくないよー!!」

望 「……連れて行かれてしまいましたね、どうなるんでしょうか、日塔さんは」

芽留 『先生なら止めろよ』 メルメル

望 「……無理」

数日後

奈美 「……」

あびる 「あっ、奈美ちゃん」

奈美 「……私は」

晴美 「えっ?」

奈美 「私は感謝します。毎日平和に生きていられることを、ラーメンを食べられることを」

あびる 「……」

奈美 「ラーメン神は最高神です。私が生涯をかけて信仰する対象であり、そのためならば全てを捧げます。何故なら当たり前が、一番尊いからです」

あびる 「……これは洗脳?」

千里 「……これで無事解決したわね。安心、安心。」

可符香 「でも他のみんなは大丈夫なんでしょうか」

晴美 「えっ」

可符香 「他のみんなは『当たり前の幸せ』、ちゃんと認識できてるんでしょうか!」

千里 「確かにそれもそうね……。」

まとい 「ちっ。余計なことを!」

望 「これは大変なことになりましたね」

あびる 「……何故他人事」

千里 「……じゃあまずは小森さんから『当たり前の幸せ』について説きに行きましょうか。」

望 「……何故?」

千里 「彼女は学問もせず、引きこもりをしてばかり。一番当たり前の大切さについて自覚してなさそうですから。」

可符香 「千里ちゃん!私はどうしたらいい?」

千里 「風浦さんは常月さんに『当たり前の幸せ』を説いてあげて。」

まとい 「なっ」

可符香 「了解です♪」

千里 「……さてさて始めますか」

ガラッ

霧 「……先生?」

千里 「先生じゃなく、私です。」

霧 「なっ、千里ちゃん」

千里 「今から一つのビデオを見せます。」

霧 「えっ?」

カチャ

ー引きこもりに当たり前の幸せをー

男 「……母さん、飯」

母 「はいはい」

男 「母さん、ジャンプ」

母 「はいはい」

・ ・

霧 「そこはマガジンじゃないの?」

千里 「文句言わず見なさい。」

・ ・

男 「母さん、ゲーム」

母 「はいはい」

ピンポーン

母 「あら、郵便かしら」

ガチャ

千里 「……どうも。」

・ ・

霧 「って千里ちゃん⁉︎」

千里 「文句言わず見なさい。」

・ ・

千里 「……息子さんがあのままでいいんですか?」

母 「えっ?」

千里 「確かに息子さんが可愛いのは分かります、甘やかしてしまうのも分かります。ですが、結果として息子さんをダメにしてしまっているのも事実。『当たり前の幸せ』、それを息子さんに自覚してもらえれば……。」

母 「もらえれば?」

千里 「息子さんはお母様に感謝して、自分でも頑張ろうと思えるはずです。自立への一歩を踏み出せるはずです。」

母 「……」

千里 「どうです?」

母 「……お願いします」

千里 「では私の言う通りにしてください。」

・ ・

霧 「あなた何者なの?」

千里 「クラスメイトでしょ。」

・ ・

男 「母さん、飯」

シーン

男 「母さん?」

それからその男の母親は、何日も帰ってこなかった。

男 「か、母さん……飯を」

その男はひどく痩せ細っていた。

千里 「……そろそろかしら」

その部屋には監視カメラが一つ。

ガチャ

母 「……」

男 「……か、母さん。よ、良かった、母さん」

母 「……」

男 「俺が悪かった、悪かったよ。これから頑張るからさ、気に病んだんなら反省するから、許してほしい……」

母 「もちろんよ」

・ ・

千里 「ハッピーエンドね!」

霧 「……そうかな?」

千里 「どう?見たおかげで引きこもりが引きこもりとして過ごす当たり前の日常、それがどれだけの助けの上に成り立ってるか、分かった?」

霧 「……でも私一応、自分で家事とか料理はしてるよ」

千里 「分かった?」

霧 「いや、だから」

千里 「分かった?」

霧 「……うん、分かった」

望 「一方、風浦さんはどうなってるのでしょうか?」

あびる 「先生がただのナレーションに」

奈美 「ラーメンのラーメンによるラーメンのための……」

・ ・

可符香 「まといちゃん!」

まとい 「……何よ」

可符香 「まといちゃんは『当たり前の幸せ』ちゃんと分かってますか?」

まとい 「もちろん。食事ができること、呼吸ができること、笑えること、泣けること、全てに感謝して生きてるつもり」

可符香 「なら先生が苦しんでいるのにストーカーしてるのもちゃんと感謝してストーカーしてるんですね!」

まとい 「えっ」

可符香 「ならば一日ぐらい先生のストーカーを我慢しても、耐えられるはずですよね!だってストーカーしてる『当たり前の幸せ』を自覚してるんですから!自覚してるなら我慢もできるはずです!」

まとい 「そ、そんな!支離滅裂な!」

まとい 「悪いけど無視するわね……先生、今、会いに行きます!!」

可符香 「させません!魔除けの札!」

ペタッ

まとい 「ぐっ」

可符香 「これで一安心!」

まとい 「ってそんな訳ないでしょ⁉︎ なんで私に魔除けの札が効くのよ⁉︎」

可符香 「どちらにしても、行かせません!」

霧 「先生、助けて!」

まとい 「私も助けてください!」

望 「む、無理です!逃げねば!」

千里 「……そういえば先生も、当たり前すぎて見落としてる幸せ、ありますよね?」

望 「そ、そんなのありませんよ!」

可符香 「生徒みんなから惚れられるなんてザ・ハーレム!!」

望 「なっ」

可符香 「なのに複雑に愛されすぎて愛される喜びも見落とす。まさに『当たり前の幸せ』を自覚していない!」

千里 「処刑せねば!!」

望 「ひっっ!!」

・ ・

あびる 「またオチてないけど?」

マ太郎 「これも当たり前の幸せとして喜ぶべきなのカ?」

奈美 「いやむしろこれは『いつも通りの強行突破』でしょ⁉︎」

あびる 「良かったあ、奈美ちゃん。普通に戻れたんだ」

奈美 「普通って言うなぁ!」

・ ・

可符香 「まだ少しだけ続きます!」

千里 「あれ、マ太郎は?」

可符香 「あっ、あそこに!私が呼んできます!」

トコトコ

可符香 「マリアちゃん、夕日なんか見てどうしたの?」

マ太郎 「……考え事をしてたのナ」

可符香 「どんな考え事?」

マ太郎 「……今日もみんなグダグタ騒がしかったし大変だったけど、この日々こそがやっぱり『当たり前の幸せ』って思ったヨ」

可符香 「……私もよ、マリアちゃん。当たり前が一番大切で愛しいけど、当たり前が一番大変で難しいから、噛み締めなくちゃね!」

マリア 「……うん!」

・ ・

心からみなさんの安全と、早い復旧を願っております。また、この作品が誠に恐縮ながら、誰かを励ましてくれることも願います(ーー;)では、ここまで読んでくれてありがとうございました!!
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