番外編 『日塔奈美の普通の大冒険』

文字数 5,183文字

私の名前は日塔奈美。純粋無垢な可愛い乙女である。今日は千里ちゃんとカラオケに行く予定だ。その後はカエレちゃんとご飯を食べに行って、次にまといちゃんと遊ぶ予定だ。

奈美 「ごめん!千里ちゃん、待った?」

千里 「いや、待ってないわよ。せいぜい5時間くらいしか。」

奈美 「5時間⁉︎」

千里 「前、先生が5分前行動の5分前行動の5分前行動の……って意識してたら結果的に5時間前行動になるって言ってたでしょ?あれを見習ったの。」

奈美 「そ、そうなんだ」

でカラオケに行く。千里ちゃんは言わずもがな、きっちりしないと気が済まない人間なので、音程がずれることを許さない。

だから私も必死に練習してきた。今の私なら音程を殆どずらさないで歌えるはず!

奈美 「じゃあまずは千里ちゃんからでいいよ」

千里 「なら歌わせてもらうわね。」

選曲 LOVE PHANTOM

奈美 「まさかのB'z⁉︎」

長い綺麗なイントロを経て

千里 「いらない何も! 捨ててしまおう! 君を探し彷徨う MY SOUL〜」

す、すごい。あのB'zを音程全然外さないで歌ってる。ていうか気のせいか千里ちゃんライブ意識して歌ってる?勢い余って高いところからジャンプしたりしそう……。

千里 「……歌い終わったわよ。」

奈美 「あっ、じゃあ次は私だね」

よし!私の練習の成果、見せてやる!

選曲 本能

千里 「なるほど、椎名林檎ね!私も好きよ、たまに見える狂気的な感じが。」

奈美 「約束は 要らないわ〜 果たされないことなど 大嫌いなの♪」

千里 「……」

よし!歌えた!音程外さず歌えたぞ!これで千里ちゃんに怒られることもないはず……。

千里 「ダメじゃない!日塔さん!」

奈美 「えっっ⁉︎な、何が!音程はあんまりずれてなかったでしょ⁉︎」

千里 「音程はずれてなかったけど、ちゃんと巻き舌で歌ってないじゃない!」

千里 「巻き舌で歌っている人の歌は、巻き舌で歌わないと!カラオケってCDを意識して歌うんだから!」

奈美 「じゃあサザンも普通に歌えないじゃん⁉︎」

千里 「ちゃんと練習しなさい!私が見といてあげるから!」

奈美 「ひっっ!!」

当然ながら、巻き舌で歌うなど練習していないので、巻き舌で歌い始めたら音程がずれ始める。で、今度はそこを千里ちゃんに怒られる。その後私は地獄のような時間を過ごした。千里ちゃんは歌いもせず、ずっと私の指導ばかりしてたからだ。ようやく部屋から出る時間。

千里 「……今日は楽しかったわ、ありがとうね、日塔さん。」

奈美 「わ、私も楽しかったよ、ありがとう千里ちゃん」 どよんど

くたびれながらも、私は道を歩く。今度はカエレちゃんとご飯を食べに行くのだ。

奈美 「……カエレちゃん、待った?」

カエレ 「なんか気のせいかあんた声枯れてない?」

奈美 「……気のせいだよ。それよりもどこの店に行こうか?ラーメンとかどう?」

カエレ 「うーん、ラーメンはちょっと」

奈美 「じゃあカエレちゃんの好きなところでいいよ?」

カエレ 「じゃあ……」

ひゅー

カエレ 「か、風が!……スカートがめくれた!!お、おまえ、見たなあ!」

奈美 「えっ、何が」

カエレ 「私のパンツだよ!訴えてやるー!!」

奈美 「よそ見してて見てないよ?」

カエレ 「えっ?」

奈美 「見てないから大丈夫だよ」

カエレ 「……見ろよ!!」

奈美 「えっっ⁉︎」

カエレ 「体張ってパンチラしたんだからちゃんと見ろよ!!」

奈美 「そ、そんなこと言われても」

なんやかんやで、カエレちゃんの好きなハンバーガー屋さんへ向かうことにした。

カエレ 「……私の国ではハンバーガーが主食なんだ」

奈美 「それどこの国よ⁉︎」

カエレ 「だから楽しみで楽しみで……っ、ぐっな、や、やばい。あいつが来る、あいつがぁぁ」

奈美 「ちょ、どうしたの⁉︎」

楓 「……すみません、日塔さん。恥ずかしいところをお見せして」

奈美 「まさか楓さん?」

楓 「ええ、そうです」

奈美 「ってことはハンバーガー屋はちょっと嫌な感じ?」

楓 「……はい。申し訳ありませんが、私は和食が好きなので」

奈美 「じゃあ和食の店に行こう!」

? 「イヤ、カレーガタベタイ」

奈美 「えっ?」

? 「いや、フィッシュ&チップスが食べたい」

奈美 「えっ⁉︎」

? 「いや、炒飯が食べたいアル」

奈美 「えっっ⁉︎」

その後、いろいろあったが、とりあえずランチバイキングの店に入ってなんとかことを得た。

カエレ 「……今日はありがとう。悪かったね、迷惑かけて」

奈美 「いいよ、別に!これはこれで楽しかったし!じゃあまたね!」

カエレ 「……ああ。また学校で」

今度はまといちゃんと遊ぶ。

奈美 「やっほー!!まといちゃん」

まとい 「……」

奈美 「まといちゃん?」

まとい 「……静かに」

奈美 「えっ?」

まといちゃんの視線の先を見てみると、そこには先生がいた。

奈美 「あっ、先生。挨拶しよう……」

まとい 「ダメ!」

無理矢理押さえつけられた。

奈美 「な、なんでよ⁉︎」

まとい 「ディープラブは気づかれてはいけない」

奈美 「えっ?」

まとい 「例えば隠し味とかって、それ自体に深みがあるのもあるけど、隠されてるからこそより特別なものに感じたりするでしょ」

奈美 「……まあ、そりゃあ」

まとい 「つまり、必要ないときはなるべく先生に気づかれないように尾行する!それが先生への愛が深い証拠になるのよ!」

奈美 「……でも今から二人で遊びに行くんでしょ?映画とか」

まとい 「……約束してて申し訳ないけど、それは無理」

奈美 「えっっ!」

まとい 「今日は家の用事で夜は先生を尾行できないの。だから今のうちに尾行しとかないと夜が耐えられない」

奈美 「はぁ……」

まとい 「ごめんね。また今度は一緒に何処かへ行きましょう」

奈美 「いや……私も一緒に先生に尾行する!」

まとい 「えっ」

奈美 「面白そうだし!」

まとい 「あなたがそれでいいならいいけど……」

奈美 「あっ、先生が」

望 「あれ、こんなところに十円玉が」

まとい 「どうやら十円玉を拾ったらしいわね」

望 「どうしましょう。交番に届けるべきでしょうか」

望 「しかしたった十円玉くらい……。でも私は仮にも教師であるわけだし」

奈美 「十円玉であそこまで悩むなんて……」

まとい 「それが先生のいいところでもあるのよ」

奈美 「分からないなぁ」

警察官 「どうかしましたか?」

望 「あっ……」コソッ

奈美 「先生が十円玉をこっそりしまった!」

警察官 「今何か隠しました?」

望 「えっ?な、何も隠してませんよ?」

まとい 「なんとばればれな」

警察官 「怪しい!その手を見せなさい!」

望 「ひっっ!!」

十円玉 ポツン

望 「……」

警察官 「十円玉?」

望 「……」

警察官 「……」

まとい 「なんとも気まずい雰囲気に」

奈美 「くだらなすぎる」

警察官 「……とりあえず話は交番で聞きます」

望 「い、いやだぁぁー!!し、死刑にもなりたくないし、終身刑にもなりたくない!!」

まとい 「……テキサス州じゃないんだから」

奈美 「……先生、連行されちゃったね」

まとい 「そろそろ時間だし、帰らせてもらうわ。今日はありがとう」

奈美 「別にいいよ!全然!」

まとい 「……じゃあまた学校で」

奈美 「じゃあね!!」

まといちゃんは帰っていった。夜遅くなってきたけど、親はまだ家にいないし、どこかで夕食でも食べに行こうかな。

道を歩いていると、屋台のラーメン屋さんが!

奈美 「すみませーん。ラーメン一杯ください」

店主 「お嬢ちゃん、味は?」

奈美 「もちろんしょうゆで!」

店主 「……しばしお待ちを」

ラーメンの水を切る音。スープの食欲そそる香り。チャーシューの香ばしい匂いも感じる。

店主 「……へい、お待ち」

奈美 「いただきます!」

ラーメン一口目はスープから。

奈美 「濃厚なスープ!」

店主 「……なら良かったです」

しばらくして

奈美 「美味しかったでーす!えっと、いくらですか?」

店主 「四百円です」

奈美 「えっと……」

ここで私はふと思いついた!そばではなくラーメンだけど、ラーメンも中華そばと言うし、通じるのではないかと!

奈美 「百円、二百円……今何時ですか?」

店主 「今は午前3時だね」

奈美 「そうですか……はい!四百円!美味しかったです!」

私は華麗に去った。

店主 「お嬢ちゃん、一枚足りないよ」

奈美 「あっ、ごめんなさい」

私は華麗に散った。

望 「その一枚は私が払いましょう」

奈美 「って先生⁉︎ 交番に行ったんじゃないですか⁉︎」

望 「ちゃんと説明したら解放してくれましたよ……それにしても日塔さん、なぜあなたがそれを知ってるのです?」

奈美 「あっ」

望 「まあこの際聞いてなかったことにしましょう」

先生は百円払った。

今私は先生と夜道を歩いてる。

望 「時そばとは感心しませんね。まあ落語の知識があったことには驚きですが」

奈美 「一応食べ物の話なので!」

望 「……ああ、なるほど。それにしても日塔さん」

奈美 「何です?先生」

望 「今何時だと思ってるんですか!学生は家にいないといけない時間ですよ!」

奈美 「……でもまだ両親が帰ってきてないので、帰っても一人なんです」

望 「……そうでしたか」

奈美 「ええ、そうなんです」

夜は静かだ。まるで私と先生以外誰もいないような静けさ。

あっ、そう言えば。今日はまといちゃんも先生のそばにいないんだっけ。それなら……

望 「ってちょっと!!急にくっつかないでください!!」

奈美 「いいじゃないですか、先生」

望 「だ、ダメです!もし知り合いに見られたら大変です!」

今だけは先生は私とだけ。それがとても心地いい。

望 「……無理矢理引きはがしたらそれはそれで、体罰とかセクハラとかになりそうですし、困りました」

奈美 「是非、困ってください!」

望 「……あなたは他の生徒よりは普通で厄介ではないと思っていたんですが」

奈美 「普通って言うなぁ……」

いつもよりは静かな、普通って言うなぁである。

奈美 「……先生」

望 「何です?日塔さん」

奈美 「私のこと好きですか?」

望 「えっ」

奈美 「ごまかさないで言ってください」

望 「……こ、これは困りましたね」

奈美 「さあ、早く!」

望 「好きですよ」

奈美 「えっ」

望 「もちろん恋愛的な方ではありませんが」

奈美 「……やっぱり」

望 「私は教師として、これまでに幾度なく、めんどくさい生徒たちと関わってきました。時に不安になったり大変な思いをすることもあります」

奈美 「……」

望 「……でも、一度もこのクラスを嫌いになったことはありません。みなさんがいるそのクラスが、私にとっての居場所なんですから」

奈美 「……そうですか」

望 「はい。だから日塔さんも、他のみんなだって全員、私は好きです。できるならずっとこの時間を望んでしまうほどにです」

奈美 「……」

望 「曖昧な回答でしたが、満足していただけたでしょうか?」

奈美 「……はい、もう充分ですよ」

望 「……なら良かったです」

そう言って遠くの空を見つめながら微笑んでいた先生は、とても美しかった。こんな先生を独占できただけで、今日はもう充分だ。

奈美 「……先生今日はあり」

甚六 「あれっ?糸色先生じゃないですか」

望 「……あっ、甚六先生⁉︎」

甚六 「こんなところで何をして……ってそちらの方は」

奈美 「あっ」

甚六 「なるほど、そういうことですか」

望 「ち、違うんです!甚六先生!これは誤解が」

甚六 「安心してください、私は義理深い人間です。モラルとしてはよろしくありませんが、糸色先生のためです。黙っておきましょう。じゃあ私は邪魔なようなので……」 ササッ

望 「違うんです!甚六先生!!本当に違うんですよ⁉︎話を聞いてくださいー!」

先生は去っていった。
月が綺麗だった。
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