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文字数 911文字

 時間はたっぷりある。涼也くんは夜遅くまで帰ってこないからゆっくり帰ってだいじょうぶ。おうちのことは午前中にちゃんとやってきたからだいじょうぶ。涼也くんが言い出したことだし……だいじょうぶ。そのはずなのに、日捺子は不安でいっぱいだった。なにも知らない虎汰はいつもと変わらないまっさらな笑顔を日捺子に向けている。

「本棚買ったんだ」

 勢いよく広げられた両手の向こうには腰の高さほどの本棚が置かれていた。そこにはベッドの横とか、部屋の隅に積まれてた漫画が、日捺子には分からない虎汰のこだわりどおりの順で、きれいに並べられていた。

「今は部屋狭いからこんくらいのしか置けないけど、もっと広い部屋に住めるようになったら壁一面本棚にして漫画ばーんっておきたいんだよね」
「いいね。それ」
「だよね。あと、キングサイズのベッドとか……めちゃめちゃ大きい100インチくらいのテレビで映画とか見るのもいいよね」
「いいと思う」
「俺、しゃべりすぎ?」
「ううん。おはなし聞いてるの好きだから、ぜんぜん……あ、漫画、見てもいい?」
「どうぞ。俺のおすすめとか説明させて」
「はい。お願いします」

 背中で虎汰の熱のこもった解説を聞きながら、漫画の背表紙を見ていく。日捺子はあまり漫画を読んだことがなかった。学生のころ教室で回っていた人気の漫画をぱらぱらと読む程度で。ママはそういうのを読まなかったし、涼也は漫画より小説を好んでいたから、家に漫画はなかった。だから、しっかり腰を入れて読むのは今日がはじめてのことだった。背表紙を指でつーっとなぞっていく。見たことのタイトルもいくつかあったけど、ほとんどが知らないタイトルだった。

 ――ぼくたちは見えない恋をした

 そこで、指がとまった。

「あ、気になる?それ、いいよ。全10巻だし」

 タイトルに惹かれた。5巻まで本棚から抜いて、虎汰くんに勧められるまま
ベッドに座った。虎汰は最近買ったまだ読んでないやつを持って床に座る。

「今日は漫画の日だね」
「そうだね」
「あとでプリン、作ろうね」
「うん」

 そうだ。そういう話もこないだしていたんだ。虎汰に言われて、日捺子は思い出す。ぱらりとページをめくる。ゆっくりと読み進めていく。
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