第15話 幸運の宝くじ当たる  ~人助けとロシア料理~

文字数 1,448文字

街でロシア料理の専門店を見つけた。
私はチャイコフスキーの影響もあってか、ロシアという国が好きである。
ロシア語やロシア文化にことさら興味を抱いていて、かねてよりロシア料理を食べてみたいと考えていた。

店の軒先に置かれたメニューを見ると、通常のコース料理が3500円とある。
当時の私は生活費を切り詰める為に、毎日自炊をしていた。
となると、3500円は高価な食事である。
しかし、せっかく見つけたロシア料理店。

――一度、食べてみたい……

「よし、では、何かしら臨時収入があったら食べてみよう」

私はそう決めた……と言いつつも、心中、臨時収入などあるわけないと思っていた。
現実的に食べる好機がないロシア料理に一縷の望みを託す為に、臨時収入なる概念を持ち出しただけである。

完全に諦めるよりは、「臨時収入があれば食べる」としておいた方が楽しい気持ちにもなる。

そんなある日、ちょっとした出来事が起こった。

私の目の前を二人組の外国人女性が自転車で通り過ぎた。
ところが、後方を走っていた女性がいきなり自転車を止めた。
その女性はなにやら「待って!」と声を上げたようだが、前方を走っていた女性は気づかず先に行ってしまった。
置いてきぼりとなった女性は困っている様子だった。

「一体、どうしたのだろうか」

ふと見ると、どうやら自転車のチェーンが外れてしまったようである。

ところが、たまたま、私は外れたチェーンを直すことが得意である。
どこの国の女性なのか判らないが、「May I…?」と英語で声を掛け、チェーンを直してあげた。

子どもの頃から、よく友達の自転車のチェーンを直していたので、ものの10秒ほどで、簡単に直すこと出きた。

英語で話しかけると戸惑っているようにも見えたので、私はペダルを回して見せて、身振り手振りで、チェーンが直ったことを伝えた。

すると、外国人女性は笑顔で、片言ながら……

「アリガトウ」

と言い、急いで前方を行く友人を自転車で追い掛けていった。

――隠れた特技が役立ったな……

そう思いつつ歩き出そうとした時、ふと見ると、そこは「宝くじ売り場」の真ん前だった。

その時、なんとなく「当たるかも」と感じた。

たった今、「善行」をしたばかりだったからだろうか。
どうにも、宝くじが当たるような気がした。

そこで、物は試しと、300円で1枚だけ買ってみた。

そして、数日後のこと。
この1枚の宝くじが……なんと!

――当たった!

やはりチェーンを直した「善行」が報われたのだろうか。

当選金額はなんとも3000円だった。

3000円。そして、あのロシアのコース料理が3500円である。
行ける。これならば、プラス500円で食べることが出来る。

「何かしら臨時収入があったら食べてみよう」

この言葉が現実となった。

こうして、私はめでたく美味しいロシア料理を食べることができたのである。

ところで、あの外国の女性。
ひょっとしたらロシアの女性だったのかも知れない……

確かに英語圏の方には見えなかった。
英語で声を掛けた時、少し戸惑っているようにも見えた。

以前、英語で話し掛けた外国の方が、戸惑っていた。
そこで、知っているロシア語「スパシーバ(ありがとう)」と言ってみた。
すると、大喜びでその言葉に反応してくれた。
その方はロシア人だったのである。

あの女性も、そのロシアの方に英語で話しかけた時の戸惑いの反応と似ていた。
ピロシキを食べながら、ふと、そんな考えが頭をよぎった。

――ロシアの方を助け、ロシア料理に繋がったとしたら……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。



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