第12話 無意識に辿り着いた驚愕の場所 ~信長にまつわる体験02~

文字数 1,647文字

私は自著を出版すると「信長参り」に行く。
「信長参り」とは信長ゆかりの地を訪れ、本を出版したことを信長に伝えに行く、私なりの行事である。

叔母から先祖が信長と関係していたことを聞き、出版の折に、これを慣行するようになったわけだが……

この「信長参り」にて、驚くべき偶然の出来事を体験したことがある。

これは2冊目の著書を出版した後のこと。
私はそろそろ「信長参り」に行こうと考えていた。
1冊目の本を出版した時には、京都の「本能寺跡」へ行ったので、今回は滋賀の「安土城跡」あたりだろうか……
そう考えていた。

ところが、この日。
なぜか急に「明日、信長参りに行くべきだ」という想いが浮かんだ。

――しかし、なぜ、急に、明日……

明日は日曜日である。
行こうと思えば、安土へ「信長参り」に行くことも出来る。
しかし、何もそんなに急いで行くこともあるまい。
せっかく安土まで行くのであれば、もっと名所をしっかり調べてから行きたい。

「信長参りは、また今度にしよう」

私は「信長参り」を諦め、明日は、どこか別の場所へ遊びに行くことに決めた。

翌朝。

「さて、どこへ行こうか……」

そう考えていると、なぜか急に「五平餅」が食べたくなってきた。

――不思議だな、急に五平餅が食べたくなってきた……

すると、たまたま近くにいた知人が言った。

「あぁ、それなら絶対に新城に行った方がイイ」

どうやら新城の「五平餅」が美味しいらしい。
しかし、新城は私の家からは遠い、いや、遠過ぎる。
わざわざ「五平餅」を食べる為に新城にまで行くのは、さすがにキツイ。

ところが、なぜか知人は不自然なほどに、真剣に新城を奨めてくる。

「いやいや、絶対、新城の五平餅がイイよ!」

実のところ、新城は遠いので、行くのはイヤだった。
しかし、そこまで知人が新城の「五平餅」を奨めるとは、「何か重要な意味がある」と思い始めた。

結局、私はしぶしぶハンドルを握り、クルマを新城へ向けて走らせた。

久しぶりの遠出。山中のドライブ。私はすぐさま楽しい気分になった。
新城の奥地まで行き、「五平餅」を見つけて食べた。

――うむ、美味しい!

新城の美しい緑の山々を見ながら食べる「五平餅」は確かに美味しかった。

しかし、それだけであった……

少しは面白い「偶然の展開」を期待していたが、他には何も起こらなかった。

私は来た道を引き返し、家路に着くことにした。
ところが、その時であった……

ふと道路脇を見ると『博物館の看板』が目にとまった。

「せっかくだから寄ってみるか」

私はハンドルを切った。
博物館の駐車場にクルマを停め、館内に入ってみた。





入口には「新城市設楽原歴史資料館」と書かれていたが、一体、どういう内容の博物館なのか、まったく見当がつかない。
そこで、受付の女性に尋ねてみた。

「ここは、どういう博物館なのですか」
「ここはですねぇ……」

その説明を聞いた途端、私はあまりの衝撃に言葉を失った。

――えええっ!……

そこは、なんと!

――「信長」の博物館だった!

これには心底衝撃を受けた!
続く説明を聞くこと、さらなる衝撃を私を襲った!

「ここは長篠の合戦の跡地なのですか!」
「ええ、そうです」



驚愕である!
昨夜、「信長参り」に行くべきだと感じつつも、それを諦めた。
そして、美味しい「五平餅」を食べようと新城に来た。ただ、それだけだった……
そうしたら、知らぬ間に「信長ゆかりの地」である「長篠の合戦の跡地」に来てしまっていたのである!

――マ、マジか……

さすがに、これには驚きを隠しきれなかった。
私は「長篠」が新城にあるとは知らなかっただけに、心底驚いた。

「なるほど、それで知人は真剣に新城へ行けと言ったのか……」

すべてに納得がいった。
知人があれほどまでに、新城を押していたのは、私を「信長ゆかりの地」へ行かせる為だったのだと理解した。
勿論、知人はそれを無意識にしたわけだが……

それにしても、知らずして「信長ゆかりの地」」に辿り着くとは。
まるで……

――何者かに導かれたかのような出来事であった……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。


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