第30話 『胡麻の知らせ』    ~逆さ言葉から予兆メッセージ~

文字数 1,838文字

「予兆」とは、予め現れるきざしのこと。
日常で起こる偶然の一致の出来事が「予兆」であることは多い。
真に驚かされるが、予兆が「逆さ言葉」で知らされることまである。
あの時も、まさにそうだった。

職場の食堂でのこと。
ふと気づくと、ランチの重箱の隅に張り付いた「ごま」を一心に箸で取ろうとしていた。

「なかなか取れないな……」

普段から「ごま」粒ひとつ残さず食べている。
この日に限って、最後の一粒が取れない。
それだけに、この「ごま」が、やたら気になる。

――これは何かの「予兆」だろうか……

この些細な出来事から「ごま」の偶然の一致が始まった。

数日後。
仕事から部屋に帰ると、後輩から1通のハガキが届いていた。
そのハガキを手に取り、裏返してみた。
すると、そこに……なんと!

――「ごま」が現われた!

ゴマフアザラシの「ゴマちゃん」の絵が描かれていたのである。
やはり「ごま」の偶然の一致が起きている。

この「ごま」にはどんな意味があるのだろうか。
考えてみたものの、何も思い浮かばなかった……

さらにその数日後。
私は、なぜか後輩がバイトをしている近所のレンタルビデオ店に……

――行かなくては!

という強い想いに駆られた。
原因不明の強い衝動である。

私はその衝動に従ってみた。

「先輩、こんばんは」
「うっす」

丁度、後輩が居た。
今日はシフトの日のようである。

「先輩、こちら食べます?」
「ありがとう」

後輩はそう言いつつ、1枚の煎餅を渡してくれた。

――ま、マジかぁ!

その煎餅を見た瞬間、鳥肌が立った。
煎餅の表面を覆っていたのは……
なんと!

――「ごま」だった!

またしても「ごま」の偶然の一致である。

その煎餅はとても変わっており、表面には、びっしりと「ごま」が敷き詰められていた。

なぜか急に不思議な衝動が起こり此処に来た。
これでは、まるで「ごま」に呼ばれて来たかのようではないか!

これには驚きを隠せなかった。

重箱の隅の「ごま」、後輩からのハガキの「ごま」ちゃん、別の後輩からの「ごま」煎餅、明らかに「ごま」の偶然の一致が連続している。

――これは、ただごとではない

この先、一体、何が起こるのだろうか。
連続する「ごま」の偶然の一致は何の予兆だろうか。どんな意味があるのだろうか。

ところが、これが意外な形で、この「ごま」の意味が判明する。

さらに数日後のこと。
私は祖父の葬儀に参加していた。
御年90歳の大往生だった。

大勢の親類たちが集まってきた。
久しぶりに孫たちも顔を合わせた。

それは、孫たちだけで集まり、こたつを囲むようにして話をしている時のことだった。
私は急激な眠気に襲われ、こたつの天板に突っ伏して、うとうとと眠ってしまった。

しばらくすると、ふと目が覚めた。

どのくらいの間、眠っていたのだろうか。
おそらく、それほど長くはないだろう。

眠たい目を擦り、こたつの上を見た。
なにやら1枚の紙きれが置いてある。

なにげに、その紙を見ると……なんと!

――「ごま」と書かれている!

またしても「ごま」である!
驚きつつ、その紙を手に取った。

――おや?

よく見ると「ごま」とは書かれていない。
そこには……

――「まご」と書かれていた

「なるほど!そういう意味だったのか!」

この時、すべての謎が解けた。
立て続けに起きていた「ごま」の偶然の一致の意味がようやく判明した。

ここ最近、私の周囲にたくさんの「ごま」(胡麻)が集まってきていた。
そして今、私の周囲にたくさんの「まご」(孫)が集まっている。

つまり、この『ごま』の偶然の一致は……

――葬儀で、たくさんの『まご』(孫)が集まる

ということを知らせてくれていたわけである。
まるで暗号である。

近い将来、葬儀で『孫(まご)』が集まることを「ごま」という「逆さ言葉」で知らせてくれていたのである。

なるほど。
それで「ごま」の偶然の一致が多発していたのか……

「ごま」と言えば「白ごま」「黒ごま」。
葬儀のカラーも「白」と「黒」。

ここも見事に一致している。

「うむむ……」

やはり立て続けに起きた「ごま」の偶然の一致は「予兆」だった。
葬儀で「まご」が集まることを、事前に知らせてくれていたのだ。

「ごま」と「まご」の「逆さ言葉」が予兆のメッセージだったとは……
真に驚きである。

事実、このような予兆体験をする人は多い。
古来より「ムシの知らせ」と言われている。

もっとも、ここでは「胡麻の知らせ」となるわけだが……

(誰が上手(うま)いことを言えと…‥)

いやいや、胡麻だけに「美味(うま)い」ことに……

――もういいよ!

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。



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