第7話 奇跡のような幸運なミス ~本当は間違いではない~

文字数 1,647文字

「奇跡のような幸運なミス」というものがある。
一見、「間違いや失敗に思える」出来事が、本当は「正解」であるといった不思議なケースである。
まさに、あの日の出来事がそれだった。

第6話では「ありえない展開」が巻き起こり、著名人の方と食事会をした話を書いた。
じつは、あの話には続きがあり、とても不思議で幸運な出来事へと繋がった。

あの日、楽しい食事会が終わり、参加者たちは各々家へ帰ることとなった。
その時、参加者の一人が、私にこう言ってくださった。

「私はクルマで来ていますので、駅までお送りしますよ」

帰る方面が同じということで、私をクルマで最寄り駅まで送ってくださるというのである。

「ありがとうございます」

私はありがたく、その申し出を受け、地下鉄東山線の最寄り駅まで送ってもらうことになった。

最寄り駅までの道中、食事会の続きの話題で、これまた話が盛り上がった。
そうこうしているうちにクルマが停まった。
どうやら、最寄り駅に着いたようである。

「着きましたよ」
「どうもありがとうございます」

私は深々とお礼を伝えクルマを降り、送ってくださった方を見送った。

ところが、ここで奇妙な事態が発生した。

「よし、帰るか」

と、ふと、周囲に目をやった、その瞬間……

――え?これ……どこ?

明らかに景色が違う。東山線の最寄り駅ではない。
どういうわけか、私はなんと!

――全く違った場所に送り届けられてしまっていた!

「マジか……」

ハプニング勃発である。
どうやら、車中で話に夢中になり、送ってくださった方が、送り届ける駅を「間違えて」しまったらしい。

こんな時、人はどう考えるだろうか。
私の場合はこう考える。

「ふむふむ、これは、きっと何か良いことが起こるぞ……」

このような珍しい出来事には、必ず何か意味がある。
これまでの経験から、それを知っていた私は、少し楽しい気分になってきた。

とりあえず、此処が何処なのか、周囲を見渡してみた。すると……

――あああっ!こ、これは!まさか!

私は、自分が矢場町駅のパルコの真正面に居ることが判った。
そうである。あの、パルコである!

――こ、これはヤバイぞ……

私は重大なことに気づいてしまった。
パルコと言えば、以前、私が喉から手が出るほど欲しかった『ゴッドファーザーⅢ(第5話)』のポスターを目前で売り切れとなり買いそびれた場所である。

そのパルコに、思わぬ「間違い」により、私は送り届けられていたのであった!

つまり、これは……

――ここで『ゴッドファーザーⅢ』のポスターを入手できる

ということを意味している。私は、そう確信した。
私は逸る気持ちを抑えつつ、パルコ入口へと向かった。
すると、そこには……なんと!

――『映画ポスター展』の張り紙が!

「や、やはり!」

なんとも私の予想通り、本当に『映画ポスター展』が開催されていた!
これには飛び上がるほど驚いた!

さらに館内へと歩を進め、迷わず『ゴッドファーザーⅢ』のポスターを探した。
すると……なんと!

――あ、あった!

本当に『ゴッドファーザーⅢ』のポスターがあったのである!
あの日、この場所で、ショックのあまり膝から床に崩れ落ちた、あの時の私はもういない。

私は、ゆっくり丁寧にポスターの入れてある巨大なファイルから『ゴッドファーザーⅢ』のポスターを1枚抜き取った。

――よし!

そのまま足早にレジに向かい、会計を済ませた。
遂に、あの、『ゴッドファーザーⅢ』のポスターを手に入れたのだ!
私は感激に打ち震え、膝から床に崩れ落ちた……

「あぁ、こ、これは、嬉しい!」

プルプルと震えるほど嬉しかった。

私を最寄り駅ではなく「間違えて」パルコ前の駅まで送り届けてくださった方への感謝の気持ちで一杯になった。

もし、あの方が、最寄り駅を間違えなかったら、この出来事は絶対に起こり得なかった。

この幸運は「間違えた」からこそ起きた。
奇跡のような幸運なミスなのである。

私はこの驚くべき体験をして、しばらく神妙な気持ちに浸った。

このようなことが、現実に起きるとは…‥

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。


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