第6話 人と人を繋ぐ方法   ~ありえない展開~

文字数 1,816文字

人生には「ありえない展開」が起きることがある。
それは、あまりに突飛で「一体全体、どうしてこうなった?」と理解不能な驚愕の出来事である。
あの時の出来事も、まさにそれだった。

名古屋で独り暮らしをしていた時のこと。
私は、明日、とある女性著名人の講演会に行くことになっていた。
なんでも、とても面白い話が聞けるとのことである。

その夜、たまたま、実家の母親から用事で電話が掛かってきた。
私は、ふと話ついでに、明日、講演会に行くことを話した。すると、母親も講演会に興味を示した。

「面白そうねぇ、私もその講演会行こうかしら」

講演会は名古屋の大きなホールでおこなわれる。おそらく当日券もあるだろう。
こうして、母親も急遽、講演会に参加することになった。

翌日、私は会場で母親と待ち合わせ、一緒に講演を聴くこととなった。
注目の女性著名人だけあり、会場はほぼ満席の大盛況。
講演内容も噂にたがわず、とても面白く興味深い話が目白押しで、2時間の講演もアッと言う間であった。
母親も来てよかったと話していた。

「じゃ、またな」

講演会が終わり、私は一人暮らしの部屋へ、母は実家へと、各々家路についた。

ところが……

――ここからトンデモナイ展開が巻き起こった!

私が部屋に戻り、くつろいでいると、突如、電話のベルが鳴った。

「こんな時間に誰だろう」

受話器を取ると、母親であった。
先程、会っていたばかりというのに何の用事だろうか、そう思いつつ、母親の言葉に耳を傾けた。

――え?

母親からの話を聞いて、私は完全に自分の耳を疑った。

「ちょっと、言っている意味が判らないのだが……」

思わず、サンドウィッチマンのような言葉が口をついて出てしまう。
母親は、そうよね、と言い、さらに詳しく話しはじめた。

「えええっ!マジか!一体、それはどういうことだ!」

あまりにも「ありえない」ことを母親が言い出した為、私は、ただただ驚くばかり。
母親が言うには、先程の講演会の女性著名人と……
なんと!

――明日、一緒に昼食を食べる!

というのである!驚愕である!一体全体、何をどうしたら、そうなる!
さらに、その食事会に、「私も一緒に行かないか」と言うのである。
どうやら、私も、その食事会に参加できる寸法になっている、らしい。

――どうしてこうなった……

驚愕である。もちろん、母親は、その女性著名人と知り合いでもない。昨夜、会場にいた一般客の一人に過ぎない。
それが、どうして明日、一緒に食事をすることになったのだろうか!
私が講演会場を去った後、一体何があったのだろうか。まったく理解が出来ない。謎過ぎる。

母親によると、事の顛末はこうであった。

「帰り際、会場スタッフの方に『今日はどうもありがとうございました』と挨拶を交わした。
すると、たまたまそのスタッフの方と話が盛り上がり、その流れから、翌日の食事会に招待していただけた」とのことだった。

――まさか、こんなことになろうとは……

私は驚きを禁じ得なかった。

翌日、私は母親と待ち合わせ、食事会の会場にいた。会場は名古屋城近くの中華料理店の個室だった。
私は、とても不思議なことに、その著名人の方と中華料理店の円卓に座していた。
私たちの他にも、数名の方々が参加され、計7名ほどの食事会である。その中の一人に私がいる。

「どうしてこうなった……」

私は不思議な気持ちで一杯だった。
昨夜、ステージで講演をおこなっていた著名人の方が、私の目の前にいて、中華料理に舌鼓を打ちつつ、共に会話を交わしている。

――不思議な光景である…‥‥

講演会に続き、食事会でも、とても面白く興味深いお話をたくさん伺うことが出来た。
楽しかった食事会は3時間ほどで幕を閉じた。

本当に「ありえない展開」の不思議な体験であった。

「しかし、一体、どうしてこうなった」

この「ありえない展開」を冷静に考えてみた。
すると、1つの重要な鍵が浮かび上がった。
それは……

――「挨拶」

この、驚くべき「ありえない展開」の最初の切っ掛けとなったのが、母親がなにげにおこなった「挨拶」だった。

全ては「今日はどうもありがとうございました」という、スタッフの方へのお礼の「挨拶」から始まったのである。

こと日本では「挨拶」が重要視される。
それは「挨拶」には「人と人を繋ぐ力」が働くからである。
私はこの出来事から、改めてそのコトを深く実感するに至った。
それにしても……

挨拶一つで、このような事が起きるとは……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。


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